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【テンプレ付き】中期経営計画(中計)の作り方|5つのステップと成功事例

作成者: クラウドERP導入ガイド編集部|2025/10/28

中期経営計画の作り方がわからず、策定が進まないとお悩みではありませんか?本記事では、企業の成長を加速させる中期経営計画の策定方法を、現状分析からアクションプランまで5つのステップで具体的に解説します。すぐに使えるテンプレートやトヨタなど有名企業の成功事例もご紹介。実効性の高い計画を立てるための注意点も網羅しており、貴社の未来を描く羅針盤となる計画策定を支援します。

この記事で分かること

  • 中期経営計画の目的と役割
  • 長期・短期経営計画との違い
  • 中期経営計画の作り方5ステップ
  • トヨタ、日立、カゴメの成功事例
  • 計画策定における注意点
  • SAP S/4HANA Cloudの活用メリット

中期経営計画とは?その目的と役割

中期経営計画(ちゅうきけいえいけいかく)とは、企業が目指す3〜5年後のあるべき姿と、そこへ至るまでの道筋を具体的に示した公式な計画書です。「中計(ちゅうけい)」とも呼ばれ、企業の持続的な成長を実現するための羅針盤として、非常に重要な役割を担います。
市場環境が目まぐるしく変化する現代において、行き当たりばったりの経営では企業の成長は望めません。明確なビジョンを掲げ、全社一丸となって目標達成に取り組むための共通言語、それが中期経営計画なのです。

中期経営計画を策定する3つの目的

中期経営計画の策定には、主に3つの目的があります。これらは相互に関連し合い、企業の経営基盤を強固なものにします。

1. 企業ビジョンの共有と浸透

中期経営計画は、経営層が描く企業の将来像(ビジョン)を、具体的な目標や戦略に落とし込むことで、全従業員に共有し、浸透させる目的があります。「自分たちの会社がどこに向かっているのか」が明確になることで、従業員一人ひとりの業務が企業の成長にどう貢献するのかを理解し、日々の業務に対するモチベーションやエンゲージメントの向上が期待できます。

2. 経営資源の最適配分

企業が持つ経営資源(ヒト・モノ・カネ・情報)は有限です。中期経営計画は、自社の強みと弱み、そして外部環境の機会と脅威を分析した上で、どの事業領域に重点的に資源を投下すべきかを明確にする「選択と集中」の指針となります。これにより、経営資源の無駄をなくし、効率的かつ効果的な事業運営が可能になります。

3. ステークホルダーへの説明責任

株主や投資家、金融機関、取引先といった外部のステークホルダーに対して、企業の将来性や成長戦略を具体的に示し、理解と信頼を得ることも重要な目的です。明確な中期経営計画を公表することで、企業価値の向上や円滑な資金調達、良好な取引関係の構築に繋がります。

長期・短期経営計画との違い

中期経営計画は、長期経営計画と短期経営計画(年度計画)の間に位置づけられ、両者を繋ぐ役割を果たします。それぞれの計画期間や目的、具体性は異なり、三位一体で機能することで、企業の持続的な成長を支えます。

計画の種類 長期経営計画 中期経営計画 短期経営計画(年度計画)
計画期間 10年以上 3~5年程度 1年
目的・内容 企業の存在意義や経営理念、創業の精神に基づいた、普遍的なビジョンやドメイン(事業領域)を定める。 長期ビジョンを実現するために、市場環境の変化を踏まえつつ、具体的な戦略・事業ポートフォリオ・財務目標などを設定する。 中期経営計画の目標を達成するために、各部門が1年間で実行すべき具体的なアクションプランや数値目標、予算を定める。
具体性 抽象的・定性的 中間的(定性+定量) 具体的・定量的

中期経営計画が果たす4つの重要な役割

中期経営計画は、策定するだけでなく、企業活動の中で活用されて初めてその価値を発揮します。具体的には、主に以下の4つの役割を担います。

1. 意思決定の羅針盤

日々の業務や新規事業への投資、M&Aといった重要な経営判断の場面で、その意思決定が「中期経営計画の方向に沿っているか」という明確な判断基準となります。これにより、場当たり的な判断を防ぎ、全社として一貫性のある事業運営を実現します。

2. 組織の一体感の醸成

全部門・全従業員が「中期経営計画の達成」という共通の目標に向かって進むことで、部門間の壁を越えた連携が生まれやすくなります。共通の目標が組織の一体感を醸成し、企業文化の変革や組織力の強化に繋がります。

3. パフォーマンス評価の基準

中期経営計画で設定された定量目標(売上高、営業利益率など)や定性目標は、組織や個人の業績を評価する際の客観的な基準となります。これにより、公平な評価制度の構築を助けるとともに、計画(Plan)・実行(Do)・評価(Check)・改善(Action)のPDCAサイクルを回すための基盤となります。

4. コミュニケーションの活性化

中期経営計画は、社内外のステークホルダーとの対話を促進する重要なコミュニケーションツールです。社内では、経営層から従業員への方針説明や、部門間の連携会議などで活用されます。社外へは、株主総会や決算説明会、統合報告書などを通じて発信され、企業の透明性を高め、信頼関係を構築する上で不可欠な役割を果たします。

中期経営計画の作り方|5つのステップ

中期経営計画の策定は、企業の持続的な成長を実現するための羅針盤です。しかし、その作成方法が分からず、形骸化してしまっているケースも少なくありません。本章では、実効性の高い中期経営計画を策定するための5つのステップを、具体的な手法も交えながら詳しく解説します。このステップを踏むことで、全社で共有できる精度の高い計画を策定できるでしょう。

現状分析(SWOT分析・財務分析)

中期経営計画策定の第一歩は、自社の「現在地」を客観的かつ正確に把握することです。思い込みや希望的観測を排除し、事実に基づいた分析を行うことが、計画全体の土台となります。現状分析は、主に「外部環境」と「内部環境」の2つの側面から行います。

外部環境分析

自社を取り巻く市場や競合の動向、社会経済の変化など、自社の努力だけではコントロールが難しい要因を分析します。代表的なフレームワークには、マクロ環境を分析する「PEST分析」や、業界構造を分析する「ファイブフォース分析」などがあります。

内部環境分析

自社の持つ技術力、販売力、人材、財務状況といった経営資源を分析します。自社の「強み」と「弱み」を明確に洗い出すことが目的です。各部門に散在するデータを統合し、全社的な視点で評価することが不可欠です。

SWOT分析による統合

外部環境と内部環境の分析結果を統合し、戦略の方向性を見出すために「SWOT分析」が有効です。以下の4つの要素を掛け合わせることで、具体的な戦略仮説を導き出します。

  内部環境:強み (Strengths) 内部環境:弱み (Weaknesses)
外部環境:機会 (Opportunities) SO戦略(積極化戦略)
強みを活かして機会を最大限に活用する戦略
WO戦略(改善戦略)
弱みを克服して機会を逃さないようにする戦略
外部環境:脅威 (Threats) ST戦略(差別化戦略)
強みを活かして脅威を回避または無力化する戦略
WT戦略(防衛・撤退戦略)
弱みと脅威の最悪の組み合わせを回避する戦略

これらの分析を通じて、「どの市場で」「どのような価値を提供して」戦うべきかの方向性を定めます。

経営目標の設定(定量+定性)

現状分析で明らかになった課題と機会を踏まえ、会社が3〜5年後に「どのような姿になっていたいか」という具体的な目標を設定します。この目標は、従業員のモチベーションを高め、全社のベクトルを合わせるための重要な旗印となります。

定量的目標と定性的目標

目標は、測定可能な「定量的目標」と、企業文化やブランドイメージといった「定性的目標」の両面から設定することが重要です。数字だけの目標は、時に現場の疲弊を招き、短期的な視点に陥りがちです。企業の理念やビジョンと連動した定性的な目標を掲げることで、従業員の共感を呼び、持続的な成長の原動力となります。

  • 定量的目標の例:売上高、営業利益率、ROE(自己資本利益率)、市場シェア、新規顧客獲得数
  • 定性的目標の例:顧客満足度の向上、従業員エンゲージメントの強化、業界内でのブランドイメージ確立、サステナビリティへの貢献

目標設定においては、具体的(Specific)、測定可能(Measurable)、達成可能(Achievable)、関連性(Relevant)、期限(Time-bound)を意識した「SMART」の観点を取り入れると、より実効性が高まります。

戦略立案(重点テーマ設定)

設定した経営目標を達成するための、具体的な「道筋」を描くのが戦略立案のフェーズです。現状と目標との間にあるギャップを、どのような方法で埋めていくのかを明確にします。

全社戦略と事業戦略

まず、企業全体の方向性を示す「全社戦略」を策定します。ここでは、事業ポートフォリオの最適化が重要なテーマとなります。PPM(プロダクト・ポートフォリオ・マネジメント)などのフレームワークを活用し、各事業を「花形」「金のなる木」「問題児」「負け犬」に分類し、経営資源の最適な配分を検討します。
次に、全社戦略に基づき、各事業部がどのように目標達成に貢献するかを示す「事業戦略」に落とし込みます。例えば、「既存事業の深耕」「新規事業の開発」「海外市場への展開」「DXの推進」といった重点テーマを設定し、具体的な戦略オプションを検討します。
重要なのは「選択と集中」です。すべての課題に同時に取り組むことはリソースの分散を招きます。目標達成へのインパクトが大きい重点テーマに経営資源を集中させることが、戦略を成功に導く鍵となります。

アクションプラン(KPI・スケジュール策定)

戦略という「道筋」を、具体的な「行動計画」にまで落とし込むのがアクションプランです。このステップを疎かにすると、中期経営計画が「絵に描いた餅」で終わってしまいます。「誰が」「何を」「いつまでに」実行するのかを明確に定義します。

KGIとKPIの設定

まず、戦略目標が達成されたかどうかを判断するための最終的な指標である「KGI(重要目標達成指標)」を設定します。そして、KGI達成に向けたプロセスの進捗度合いを測るための中間指標として「KPI(重要業績評価指標)」を設定します。KPIを適切に設定し、モニタリングすることで、戦略が順調に進んでいるかを客観的に評価できます。

  内容 具体例
KGI (Key Goal Indicator) 最終的な目標を定量的に示す指標 売上高300億円達成、営業利益率10%達成
KPI (Key Performance Indicator) KGI達成に向けた各プロセスの達成度を測る指標 新規顧客獲得件数、顧客単価、解約率、Webサイトからの問い合わせ件数

具体的な施策と担当部署の明確化

設定したKPIを達成するための具体的な施策を洗い出し、それぞれの施策の主担当部署と責任者を明確にします。さらに、各施策に必要な予算や人員といったリソースを配分し、実行計画を詳細なスケジュール(ガントチャートなど)に落とし込みます。

進捗管理と見直し

中期経営計画は、策定して終わりではなく、実行し、その進捗を管理してこそ意味があります。市場環境は常に変化するため、定期的に計画と実績の差異を評価し、必要に応じて柔軟に軌道修正を行うプロセスが不可欠です。

PDCAサイクルによる継続的な改善

計画の実行においては、PDCAサイクル(Plan-Do-Check-Act)を回す仕組みを構築することが重要です。

  1. Plan(計画):策定したアクションプラン。
  2. Do(実行):計画に沿って施策を実行する。
  3. Check(評価):設定したKPIの進捗を定期的にモニタリングし、計画と実績の差異を分析する。
  4. Act(改善):分析結果に基づき、計画を修正したり、新たな対策を講じたりする。

このサイクルを回すためには、月次や四半期ごとのレビュー会議を設定するなど、進捗を確認し、議論する「場」を制度として組み込むことが効果的です。その際、各部門からリアルタイムかつ正確なデータを収集し、迅速な意思決定につなげる仕組みが成功の鍵を握ります。

【無料プレゼント】中期経営計画のテンプレートをご紹介

「中期経営計画を策定したいが、何から手をつければ良いかわからない」「項目に抜け漏れがないか不安だ」といった経営層や事業責任者の方々の声にお応えし、すぐに使える中期経営計画のテンプレートをご用意しました。
ゼロから作成する手間を省き、戦略の立案やアクションプランの具体化といった、より本質的な業務に集中するために、ぜひご活用ください。

参考になる!中期経営計画の事例3選

ここでは、日本を代表する企業の中期経営計画から、そのエッセンスを学びます。各社がどのような環境認識のもと、未来への羅針盤を描いているのか。その戦略やビジョンは、企業規模を問わず、自社の中期経営計画を策定する上で大きなヒントとなるはずです。

①トヨタ自動車

トヨタ自動車は、単なる自動車メーカーから、人々のあらゆる移動を支える「モビリティカンパニー」への変革を宣言しています。これは、100年に一度といわれる自動車業界の大変革期において、自社の存在意義を再定義し、新たな成長を目指す強い意志の表れです。
その戦略の中心には「電動化」「知能化」「多様化」という3つの柱があります。特に注目すべきは、クルマの価値をソフトウェアで定義しアップデートしていく「ソフトウェア・デファインド・ビークル(SDV)」の発想です。これにより、ハードウェアとしてのクルマだけでなく、サービスやエネルギーといった領域まで事業を拡張し、持続的な価値創造を目指しています。

重点戦略 取り組みの方向性
電動化 バッテリーEV(BEV)への大規模投資を進めつつ、ハイブリッド車(HEV)や燃料電池車(FCEV)など、多様な選択肢を提供する「マルチパスウェイ」戦略を推進。
知能化 独自の車載OS「Arene(アリーン)」を開発し、ソフトウェアを中心としたクルマづくりへシフト。OTA(Over-The-Air)による機能アップデートや、新たなサービスの提供を目指す。
多様化 自動運転技術を活用したサービスの開発や、実証都市「Woven City」などを通じて、モノの移動から人の移動まで、幅広いモビリティサービスを社会実装する。

このような壮大な変革を実現するためには、全社横断でのデータ連携と、それに基づく迅速な経営判断が不可欠です。トヨタ自動車の事例は、既存事業の強みを活かしつつ、未来の成長に向けて事業ポートフォリオをいかに変革していくべきか、そのヒントを与えてくれます。詳細については、トヨタ自動車株式会社のIRライブラリで公開されている資料もご参照ください。

②日立製作所

日立製作所は、「社会イノベーション事業」をグローバルに展開することで、持続可能な社会の実現への貢献と自社の成長を両立させる戦略を掲げています。その中核を担うのが、デジタルソリューション「Lumada」です。
日立の強みは、長年培ってきたIT(情報技術)とOT(制御・運用技術)、そして高品質なプロダクトを併せ持っている点にあります。これらを「Lumada」で組み合わせることで、エネルギー、モビリティ、産業分野など、社会インフラが抱える複雑な課題に対するソリューションを提供しています。自社のコアコンピタンスを再定義し、顧客の課題解決のためのプラットフォーム事業へと昇華させた好例といえるでしょう。

成長の柱 注力する事業領域
デジタル データ活用を通じて社会インフラや企業のDXを推進する「デジタルシステム&サービス」事業。
グリーン 脱炭素化に貢献するエネルギーソリューションや、環境負荷の低い鉄道システム、EV関連事業などを手掛ける「グリーンエナジー&モビリティ」事業。
コネクティブ 昇降機や産業機械、家電などを通じて人々の生活を支える「コネクティブインダストリーズ」事業。

また、日立は事業ポートフォリオの変革にも積極的に取り組んでいます。成長領域へ経営資源を集中させるため、事業の選択と集中をダイナミックに進めるその経営判断は、変化の激しい時代を勝ち抜くための中堅企業にとっても大いに参考になります。詳しくは、株式会社日立製作所の株主・投資家向け情報をご覧ください。

③カゴメ

カゴメは、「トマトの会社から野菜の会社に」という長期ビジョンを掲げ、「食を通じて社会課題を解決する」ことを目指しています。利益の追求だけでなく、企業のパーパス(存在意義)を経営の根幹に据えている点が大きな特徴です。
特に、「健康寿命の延伸」という社会的な価値創造を、事業目標の中心に置いていることは注目に値します。現代人の野菜不足という課題に対し、野菜飲料や加工食品といった自社の強みを活かしてアプローチするだけでなく、ファンとの対話を重視する「ファンベースドマーケティング」への変革も進めています。これにより、顧客との長期的な信頼関係を構築し、持続的な成長を目指しています。

ビジョン 具体的な戦略テーマ
食を通じて社会課題の解決に取り組む 日本の健康寿命延伸への貢献
持続可能な地球環境への貢献
農業振興と地方創生への貢献

既存の強みを活かしながら、植物性食品のような新たな領域にも挑戦し、事業の多角化を図っています。カゴメの事例は、企業の理念やビジョンをいかに具体的な事業戦略に落とし込み、社会的な価値と経済的な価値を両立させるかという点で、重要な示唆を与えてくれます。カゴメの中期経営計画については、カゴメ株式会社の公式サイトで詳しく解説されています。

中期経営計画を作成する際の注意点3つ

中期経営計画は、策定して終わりではありません。むしろ、策定後の実行と改善のプロセスこそが企業の未来を左右します。しかし、多くの企業で計画が形骸化し、「絵に描いた餅」で終わってしまうケースが後を絶ちません。ここでは、そうした失敗に陥らないために、中期経営計画を作成する際に特に注意すべき3つのポイントを解説します。

現場不在の机上計画

最も陥りやすい失敗の一つが、経営層や企画部門だけで策定された「現場不在の机上計画」です。現場の実態と乖離した計画は、実行段階で社員の協力が得られず、浸透しません。なぜなら、現場の社員にとって「自分たちのための計画」という当事者意識が醸成されないからです。
計画の実行可能性と、社員一人ひとりの当事者意識を高めるためには、策定の初期段階から現場のキーパーソンを巻き込み、共に作り上げていくプロセスが不可欠です。トップダウンの指示命令だけでなく、ボトムアップで現場の知見や意見を吸い上げることが、血の通った計画の第一歩となります。

現場を巻き込むための具体的なアプローチ

策定プロセスに現場を巻き込むアプローチには、以下のようなものが考えられます。全社一丸となって計画を推進するためにも、積極的に現場との対話の機会を設けましょう。

アプローチ 具体例 期待される効果
部門横断ワークショップ 各部門から選出された中堅社員や若手社員を交え、自社の強み・弱み、市場機会、将来のありたい姿について議論する。 部門間の相互理解の促進、実態に即した課題の抽出、計画への納得感の醸成。
現場ヒアリング・アンケート 管理職だけでなく、最前線で業務に携わる一般社員から、業務上の課題や改善提案などを直接ヒアリングしたり、匿名のアンケートで意見を収集したりする。 潜在的な課題やボトルネックの発見、現場のリアルな声の反映、社員の参画意識の向上。
計画の背景・目的の共有 策定した計画の骨子やドラフト段階で全社説明会を実施し、策定の背景にある経営層の危機感や目指すビジョンを直接語り、質疑応答の時間を設ける。 全社的な目的意識の統一(ベクトル合わせ)、計画に対する疑問や不安の解消。

数字だけで"ビジョン"がない

「売上高〇〇億円達成」「営業利益率〇%向上」といった定量的な財務目標を掲げることは、もちろん重要です。しかし、それらの数字が独り歩きし、その先にある企業の「ありたい姿(ビジョン)」や「社会における存在意義(パーパス)」と結びついていない計画は、社員の心を動かすことができません。
人は、単なる数字の達成のためだけでは、困難な状況を乗り越えるための高いモチベーションを維持し続けることは難しいものです。「この計画を達成した先に、どのような素晴らしい未来が待っているのか」「自分たちの仕事が社会にどう貢献するのか」といった、社員の共感と自発的な行動を促す「物語」としての中期経営計画が求められます。

ビジョンと数字目標のバランス

優れた中期経営計画は、企業のビジョンという大きな物語と、それを実現するための具体的なマイルストーンとしての数字目標がバランス良く配置されています。財務的なKPI(重要業績評価指標)だけでなく、例えば「顧客満足度の向上」「従業員エンゲージメントの強化」「新たな事業領域でのブランド確立」といった、ビジョンに繋がる定性的な目標も併せて設定することが、計画に深みと推進力を与えます。

進捗レビューを怠る

中期経営計画が「計画倒れ」に終わる最大の要因は、策定後の進捗管理、すなわちレビューの仕組みが機能していないことです。計画を立てたことに満足してしまい、日々の業務に追われる中で、いつの間にか忘れ去られてしまうのです。
また、VUCAと呼ばれる予測困難な時代において、一度立てた計画に固執しすぎることはかえってリスクとなります。市場環境や競合の動向は常に変化しており、計画と現実の間に生じたズレを放置すれば、計画そのものが企業の成長を阻害する足かせになりかねません。
計画は「立てて終わり」ではなく、「実行しながら進化させる」ものという認識を持つことが、現代の経営には不可欠です。そのためには、計画の進捗状況を定期的に確認し、迅速に軌道修正を行うための仕組みをあらかじめ組み込んでおく必要があります。

実効性を高める進捗管理の仕組み

計画の実効性を担保するためには、PDCA(Plan-Do-Check-Action)サイクルを回し続けることが基本となります。特に「Check(評価)」と「Action(改善)」のプロセスを制度化することが重要です。
例えば、月次や四半期ごとに経営会議でKPIの進捗状況をレビューする場を設けます。その際、各部門のデータがExcelなどで散在していると、報告資料の作成に時間がかかり、議論が深まりません。全社の経営データを一元的に管理し、リアルタイムに状況を可視化できる仕組みがあれば、より迅速で精度の高い意思決定、つまり次の「Action」に繋げることが可能になります。

中期経営計画策定に役立つSAP S/4HANA Cloud

中期経営計画は、策定して終わりではありません。計画(Plan)、実行(Do)、評価(Check)、改善(Action)のPDCAサイクルを回し、計画と実績のギャップを埋めていく活動が不可欠です。しかし、多くの企業では部門ごとにシステムがサイロ化し、全社的なデータをリアルタイムに把握することが困難になっています。その結果、現状分析や進捗管理に膨大な時間を要し、迅速な意思決定の妨げとなっているケースが少なくありません。
こうした課題を解決し、中期経営計画の実効性を高める強力な武器となるのが、次世代のクラウドERP「SAP S/4HANA Cloud」です。本章では、SAP S/4HANA Cloudが中期経営計画の策定と実行において、どのように貢献するのかを解説します。

なぜ、中期経営計画の策定にERPが有効なのか?

そもそも、なぜ中期経営計画の策定にERP(Enterprise Resource Planning:企業資源計画)が有効なのでしょうか。それは、ERPが企業全体のヒト・モノ・カネ・情報といった経営資源を一元管理し、可視化するための仕組みだからです。
Excelや部門最適化された旧来のシステムでは、データが社内に散在し、整合性を取るだけでも一苦労です。中期経営計画の基礎となる現状分析の段階で、信頼できるデータが迅速に集まらなければ、その後の目標設定や戦略立案も絵に描いた餅になりかねません。ERPは、信頼できる単一のデータソース(Single Source of Truth)を提供することで、データに基づいた客観的で精度の高い計画策定を支援します。

SAP S/4HANA Cloudがもたらす3つの変革

SAP S/4HANA Cloudは、従来型のERPの役割をさらに進化させ、中期経営計画の策定プロセスに大きな変革をもたらします。ここでは、代表的な3つの変革についてご紹介します。

①リアルタイムな経営データの可視化

SAP S/4HANA Cloudは、インメモリデータベース技術により、会計データと業務データをリアルタイムに統合・処理します。これにより、経営層や事業責任者は、いつでも最新の経営状況をダッシュボードで直感的に把握できます。例えば、「どの事業の収益性が高いのか」「どの製品の在庫が滞留しているのか」といった現状分析が正確かつスピーディに行えるため、中期経営計画における重点テーマの設定や資源配分の最適化に大きく貢献します。

②精度の高い未来予測とシミュレーション

過去の実績データに基づくだけでなく、未来を予測する力も中期経営計画には欠かせません。SAP S/4HANA Cloudは、AIや機械学習の機能を組み込むことで、需要予測やキャッシュフロー予測の精度を向上させます。さらに、為替レートの変動や新規事業への投資など、様々な外部・内部環境の変化を想定した「What-if分析(シミュレーション)」も容易です。これにより、複数のシナリオを比較検討し、より実現可能性の高い経営目標や戦略を立案できます。

③全社横断でのアクションプラン(KPI)の徹底

策定した戦略は、具体的なアクションプランに落とし込み、KPI(重要業績評価指標)を設定して進捗を管理する必要があります。SAP S/4HANA Cloudでは、中期経営計画の目標からブレークダウンしたKPIをシステム上に設定し、各部門や個人の実績とリアルタイムに連携させることが可能です。計画と実績の差異が即座に可視化されるため、問題の早期発見と迅速な対策が可能となり、計画達成の確度を高めます。

中堅企業がクラウドERPを選ぶべき理由

特に、これからERPの導入や刷新を検討する中堅企業にとって、オンプレミス型ではなくクラウド型のSAP S/4HANA Cloudを選択するメリットは大きいと言えます。サーバーなどのITインフラを自社で保有する必要がなく、初期投資を抑えながら迅速に導入できる点が大きな魅力です。また、常に最新の機能が自動でアップデートされるため、陳腐化の心配もありません。
以下の表は、従来型のオンプレミスERPとSAP S/4HANA Cloudの主な違いをまとめたものです。

比較項目 オンプレミスERP SAP S/4HANA Cloud
導入コスト 高額(サーバー購入費、ライセンス費など) 低額(サブスクリプションモデル)
導入期間 長期(1年以上) 短期(数ヶ月〜)
運用・保守 自社で専門人材が必要 ベンダーが実施(運用負荷が低い)
機能拡張 大規模な改修が必要で柔軟性に欠ける ビジネスの変化に合わせ柔軟に拡張可能
最新技術の活用 バージョンアップ対応が困難 AIや機械学習など最新技術を常に利用可能

このように、SAP S/4HANA Cloudは、中期経営計画という未来への羅針盤をより正確に、そして力強く動かすための経営基盤となります。変化の激しい時代を勝ち抜くために、データドリブンな経営体制の構築を検討してみてはいかがでしょうか。詳細については、SAP S/4HANA Cloudの公式サイトでご確認いただけます。

中期経営計画に関するよくある質問

中期経営計画の策定や運用にあたり、多くの経営者や担当者の方が疑問に思う点があります。ここでは、特によく寄せられる質問とその回答をまとめました。

中期経営計画は意味ないって本当?

「中期経営計画は意味がない」という意見を耳にすることがあります。その背景には、計画が形骸化し、実際の経営活動と乖離してしまうケースが少なくないからです。具体的には、以下のような状況が「意味がない」と言われる原因となりがちです。

  • 作成が目的化してしまう:計画書を立派に作ること自体がゴールとなり、その後の実行や見直しがおろそかになる。
  • 環境変化に対応できない:策定時の想定と異なり、市場や競合の状況が大きく変化したにもかかわらず、計画に固執してしまう。
  • 現場の納得感が得られない:経営層だけで策定され、現場の意見が反映されていないため、実行段階で協力を得られにくい。

しかし、これらの課題は策定や運用の方法を見直すことで克服できます。中期経営計画は、企業の進むべき方向性を社内外に示し、関係者のベクトルを合わせるための重要な羅針盤です。変化に対応できる柔軟な見直しプロセスを組み込み、全社一丸となって取り組むことで、中期経営計画は企業の持続的成長を支える強力なツールとなります。

中期経営計画の対象期間は、いつからいつまで?

中期経営計画の対象期間として、一般的に「3年〜5年」が多く採用されています。この期間設定には、次のような理由があります。

  • 1年の短期計画では難しい変革への対応:1年では実行が難しい大規模な設備投資や新規事業開発、組織改革といったテーマに取り組むのに適した期間です。
  • 予測の現実性:10年以上の長期計画になると、事業環境の不確実性が高まり、具体的な計画を立てることが困難になります。 3〜5年であれば、ある程度の将来予測に基づいた現実的な戦略を描くことが可能です。

ただし近年、VUCA(変動性、不確実性、複雑性、曖昧性)と呼ばれる予測困難な時代において、従来の3〜5年という固定的な期間設定を見直す動きも出てきています。毎年計画を見直す「ローリング方式」を採用し、常に最新の状況に合わせた計画を維持する企業も増えています。

長期経営計画と短期経営計画との違いは?

経営計画は、対象とする期間によって「長期」「中期」「短期」の3つに大別されます。それぞれの計画は独立しているのではなく、長期ビジョンから中期、短期へとブレークダウンされ、一貫性を持って連動していることが重要です。各計画の主な違いは以下の通りです。

計画の種類 対象期間 目的・役割 内容の具体性
長期経営計画 5年~10年以上 企業の将来的なビジョンやあるべき姿(ミッション・ビジョン)を定義する。 定性的・抽象的な目標が中心。「10年後に社会でどのような存在になっていたいか」といった大局的な方針を示す。
中期経営計画 3年~5年 長期ビジョンを実現するための中間目標と、それを達成するための全社的な戦略を明確にする。 定性的な目標に加え、売上高や利益率といった具体的な定量目標を設定し、事業ポートフォリオ戦略や重点施策を定める。
短期経営計画(年度計画) 1年 中期経営計画で定められた戦略を実行するための、各部門における具体的な行動計画を策定する。 予算やKPI(重要業績評価指標)など、具体的で詳細な数値目標を設定し、日々の業務レベルのアクションプランに落とし込む。

中期経営計画を廃止するケースってどんな場合?

近年、一部の先進的な企業では中期経営計画を廃止する動きが見られます。その主な理由は、変化の激しい経営環境(VUCA時代)において、数年先までを固定した計画が足かせになりかねないという判断です。
中期経営計画を廃止する企業には、以下のような背景や代替アプローチが見られます。

  • 「中計病」からの脱却:精緻な計画策定に多大な労力を費やすものの、達成が目的化し、かえって大胆な挑戦を阻害してしまう「中計病」を問題視するケースです。
  • パーパス経営へのシフト:固定的な数値計画の代わりに、企業の存在意義である「パーパス」や長期ビジョンを社員と共有し、それを羅針盤として各現場が自律的に意思決定を行う経営スタイルへ移行する。
  • アジャイルな計画策定:単年度の計画を基本とし、市場の変化に応じて柔軟に見直しを行うローリングプラン方式を徹底することで、実質的に中期計画を代替する。

ただし、中期経営計画の廃止は、明確な長期ビジョンや全社で共有された価値観、そして高度なガバナンス体制が前提となります。そのため、すべての企業にとって最適な選択肢とは限りません。自社の事業特性や組織文化を踏まえた慎重な判断が求められます。

まとめ|中期経営計画は"未来の設計図"

本記事では、中期経営計画の作り方を5つのステップと成功事例を交えて解説しました。中期経営計画は、企業の進むべき道筋を示す「未来の設計図」です。しかし、計画倒れに終わらせないためには、正確なデータに基づく現状分析と、リアルタイムな進捗管理が成功の鍵となります。SAP S/4HANA Cloudのような最新ERPは、経営データを一元管理し、迅速な意思決定を支援することで計画の実効性を飛躍的に高めます。未来の設計図を現実のものとするために、まずは情報収集から始めてみてはいかがでしょうか。