システムの新規導入や刷新を成功させるための第一歩、それが「RFP(提案依頼書)」の作成です。しかし、いざ作成するとなると、「何から書けばいいのか分からない」「どのような項目を盛り込むべきか判断に迷う」といった悩みに直面する担当者は少なくありません。
そんな時に大きな助けとなるのが、優れた「RFPサンプル」やテンプレートです。効果的なサンプルを参考にすることで、検討漏れを防ぎ、作成時間を大幅に短縮しながら、質の高いRFPを完成させることが可能になります。
この記事では、単なる雛形ではない、ビジネスの成功に直結するRFPを作成するためのサンプルと、その戦略的な活用法を徹底的に解説します。
この記事で分かること
RFPの作成は、プロジェクトの成功を左右する重要な作業ですが、ゼロから作り上げるのは多大な労力を要します。質の高いサンプルやテンプレートを活用することには、主に3つの大きなメリットがあります。
RFPには、プロジェクトの背景から要件、選定方法に至るまで、多岐にわたる項目を記載する必要があります。実績のあるサンプルをベースにすることで、構成を考える時間を節約し、自社の要件を記述するという最も重要な作業に集中できます。
実績のあるテンプレートは、多くのプロジェクトで必要とされてきた項目が網羅されています。これを利用することで、「セキュリティ要件の記載が抜けていた」「評価基準が曖昧だった」といった、後々のトラブルにつながる検討漏れを未然に防ぐことができます。
構造化されたフォーマットに沿って要件を整理していく過程は、プロジェクト関係者間での認識を統一する上で非常に有効です。また、ベンダーにとっても、整理されたRFPは要求事項を正確に理解しやすく、的を射た提案を作成するための助けとなります。
一般的なRFPは、大きく分けて「①概要」「②提案依頼要件」「③選定プロセス」の3つのパートで構成されます。ここでは、それぞれのパートに含まれる主要な項目とその役割を解説します。
これらの項目が、質の高い提案を引き出すための骨格となります。
このセクションでは、プロジェクトの背景や目的を伝え、ベンダーに自社の状況を理解してもらうことを目指します。
このセクションはRFPの核となる部分で、システムに求める要件を具体的に記述します。
このセクションでは、提案をどのように評価し、ベンダーを決定するかのプロセスを明示し、選定の公平性と透明性を担保します。
ここでは、成長企業が老朽化した販売管理システムを刷新し、新たにSaaS型のERPを導入するシナリオを想定して、主要な項目の書き方サンプルを紹介します。
【サンプル例文】
背景: 当社は創業以来、手作業と個別最適化されたExcelベースでの受注・販売管理を行ってまいりました。しかし、近年の事業拡大に伴い、部門間のデータ連携ミスや、リアルタイムでの経営状況の把握が困難であるといった課題が顕在化しています。このままでは、今後の更なる成長スピードに対応できないと判断いたしました。
目的: 本プロジェクトの目的は、販売・在庫・会計情報を一元管理できるSaaS型ERPを導入することにより、業務プロセスを標準化・効率化し、データに基づいた迅速な経営判断を実現する基盤を構築することです。
【サンプル例文】
SaaS導入、特に「Fit to Standard」を前提とする場合、機能要件は数百項目にわたる詳細なリストではなく、「実現したい業務プロセス(To-Beモデル)」と「絶対に譲れない必須要件(Must要件)」に絞って記載するのが現代的なアプローチです。
【サンプル例文】
実現したい主要業務プロセス:
必須要件(Must):
SaaS選定では、自社でコントロールできない非機能要件の確認が極めて重要です。
【サンプル例文】
テンプレートは強力なツールですが、使い方を誤ると逆効果になることもあります。以下の3つの点に注意し、賢く活用しましょう。
サンプルはあくまで汎用的な雛形です。自社のビジネスの特性、企業文化、プロジェクトの目的を十分に考慮し、「なぜこの項目が必要なのか」を自問自答しながら、項目を取捨選択・カスタマイズする作業が不可欠です。サンプルの項目をただ穴埋めするだけのRFPでは、本当に価値のある提案は引き出せません。
特に機能要件を記述する際、「〇〇という機能が欲しい」という手段(How)ばかりを羅列しがちです。しかし、より重要なのは「〇〇という業務課題を解決したい」という目的(What)を伝えることです。目的を共有することで、ベンダーは自社の知見を活かし、あなたが想像もしなかった、より優れた解決策を提案してくれる可能性があります。
機能要件に比べて定義が難しいため、非機能要件の記述が曖昧になったり、省略されたりするケースが散見されます。しかし、前述の通り、システムの品質やユーザー体験を決定づけるのは非機能要件です。特にSaaS選定においては、ベンダーが提供するサービスレベルが自社の要求水準を満たしているかを厳しく評価することが、プロジェクト成功の鍵となります。
ここでは、RFPのサンプルやテンプレートに関して多く寄せられる質問とその回答をまとめました。
はい、作成可能です。本記事で紹介したような構成とポイントを押さえ、特に「自社の課題」と「プロジェクトの目的」を自身の言葉で明確に記述することができれば、専門家でなくとも質の高いRFPの骨子は作成できます。技術的に不明な点は、ベンダーへの質問事項としてRFPに盛り込むことで、専門的な提案を引き出すことができます。
多くのITコンサルティング会社や、システム開発会社、SaaSベンダーが自社のWebサイトで無料のテンプレート(WordやExcel形式)を配布しています。IPA(情報処理推進機構)のような公的機関が提供する資料も非常に参考になります。複数のサンプルを比較し、自社のプロジェクトに最も適したものをベースとして活用することをお勧めします。
プロジェクトの「目的」に立ち返ることが最も重要です。例えば、「コスト削減」が最優先なら「価格」や「導入期間」の項目を、「データドリブンな経営」が目的なら「分析機能」や「外部システム連携」の項目を重視するなど、目的に応じて評価の重み付けを考えることが、ぶれない選定につながります。
はい、記載すべきです。どのような基準で提案を評価するかをRFPに明記することで、ベンダーは提案のポイントを絞りやすくなり、提案の質が向上します。また、選定プロセスの公平性・透明性を担保する上でも非常に重要です。「価格」「機能適合性」「サポート体制」など、重視する評価項目を伝えておきましょう。
ERPは企業の基幹業務全体に関わるため、一般的なWebサイト制作などのRFPサンプルではなく、会計、販売、在庫管理といった業務プロセスに関する要件定義が含まれた、より専門的なサンプルを参考にすることをお勧めします。特にSaaS型ERPを検討している場合は、「Fit to Standard」の考え方に基づき、機能要件を過度に詳細化せず、業務課題の解決策を問う形式のサンプルが現代的で有効です。
本記事では、RFPのサンプルをテーマに、その重要性から具体的な構成、SaaS時代の実践的な書き方までを解説しました。
優れたRFPサンプルは、RFP作成という複雑な作業を効率化し、プロジェクトの成功確率を高めるための強力な羅針盤となります。しかし、最も重要なのは、サンプルを単に模倣するのではなく、それを「たたき台」として、自社の課題と真摯に向き合い、プロジェクトの目的を自身の言葉で明確に描き出すことです。
RFPの完成は、ゴールではなく、最適なパートナーと共にビジネスの新たな価値を創造するためのスタートラインです。この記事を参考に、ぜひ貴社に最適なERPやSaaSの導入、そしてその先の事業成長を実現してください。