この記事でわかること
- 人的資本経営の意味と従来の人事管理との違い
- 人的資本経営が注目される背景と企業が取り組むメリット
- 人材版伊藤レポート2.0の3P・5Fと具体的な実践ステップ
- 人的資本経営に必要なKPIと情報開示のポイント
- ERP・人事システム・AIを活用した人材データの可視化方法
人的資本経営とは、従業員の知識やスキル、経験などを企業価値を生み出す資本として捉え、人材への投資を通じて持続的な成長を目指す経営手法です。
人材不足や働き方の多様化が進むなか、人材戦略と経営戦略を結び付ける重要性が高まっています。一方で、何から着手すべきか、どのように成果を測定すべきか悩む企業も少なくありません。
本記事では、人的資本経営の基本から実践手順、KPIの設定、情報開示、ERPやAIによるデータ活用まで、経営管理の視点から解説します。
人的資本経営とは?意味と基本的な考え方
人的資本経営とは、人材を企業価値の創出を支える重要な資本と捉え、その能力や可能性を引き出すことで、中長期的な企業価値向上を目指す経営のあり方です。単なる人事施策ではなく、経営戦略と一体で取り組む点に特徴があります。
人的資本とは何か
人的資本とは、従業員が持つ知識、技術、経験、能力、創造性など、企業活動を通じて価値を生み出す要素のことです。財務諸表上の資産とは異なりますが、企業の競争力や成長力を支える重要な経営資源と位置付けられます。
例えば、製造業では熟練技術者のノウハウや生産改善能力、サービス業では顧客対応力や専門知識、IT企業ではデジタル技術や新規事業を生み出す能力が人的資本に該当します。
人的資本は教育や実務経験、適切な配置などによって価値を高められます。そのため、企業には従業員の能力を把握し、継続的な成長を支援する仕組みが求められます。
人的資本経営と従来の人事管理の違い
人的資本経営と従来の人事管理の大きな違いは、人材を管理対象としてだけでなく、将来の価値を生み出す投資対象として捉える点です。
| 比較項目 | 従来の人事管理 | 人的資本経営 |
|---|---|---|
| 人材の捉え方 | 適切に管理する経営資源 | 価値を生み出す資本 |
| 主な目的 | 人事業務の効率化、労務管理 | 企業価値と組織能力の向上 |
| 人材育成 | 職務遂行に必要な教育 | 将来の経営戦略に必要な能力開発 |
| 評価指標 | 人件費、勤怠、採用人数など | スキル充足率、エンゲージメント、育成成果など |
| 意思決定 | 主に人事部門が担当 | 経営層・人事・事業部門が連携 |
ただし、従来の人事管理が不要になるわけではありません。勤怠管理や給与計算、適切な人事評価といった基礎業務を整備したうえで、経営戦略に沿った人材投資へと発展させることが重要です。
人的資本経営と人材マネジメントの関係
人的資本経営は、人材マネジメントを経営戦略と結び付けた考え方です。採用、配置、育成、評価、報酬などの施策を個別に実施するのではなく、企業が実現したい事業の方向性に合わせて設計します。
例えば、海外展開を強化する企業であれば、語学研修の受講者数だけでなく、海外事業を担える人材の充足状況や次世代リーダーの育成状況を把握する必要があります。
人事施策を実施すること自体ではなく、それが事業成果にどう貢献するかを考えることが、人的資本経営の基本です。
人的資本経営が注目される4つの背景
人的資本経営への関心が高まっている背景には、労働市場の変化、企業競争力の源泉の変化、情報開示の進展、デジタル技術の普及があります。特に、経営戦略を実行できる人材の確保と育成は、多くの企業に共通する課題です。
1. 少子高齢化と人材不足の深刻化
生産年齢人口の減少が進む日本では、必要な人材を外部採用だけで確保することが難しくなっています。企業が成長を続けるには、既存社員の能力開発や適材適所の配置、生産性向上が欠かせません。
特に中堅・中小企業では、専門人材や管理職候補の不足が事業拡大の制約になることがあります。採用強化と同時に、従業員の定着やリスキリング、次世代リーダーの育成に取り組む必要があります。
2. 無形資産による競争力の重要性
企業の価値は、設備や資金などの有形資産だけで決まるものではありません。技術力、ブランド、組織文化、従業員の専門能力といった無形の要素も、競争優位性を左右します。
新規事業の創出や業務改革を進めるには、従業員が新しい知識を習得し、部門を越えて協働できる環境が必要です。こうした組織能力を高めるため、人材への投資が経営上の重要テーマになっています。
3. 人的資本の情報開示に対する要請
人的資本に関する情報は、企業の持続的な成長力を評価するうえで重要な非財務情報です。日本でも、有価証券報告書における人的資本関連の開示制度が整備され、投資家との対話で重視されています。
2023年3月期からは、対象となる企業の有価証券報告書において、人材育成方針や社内環境整備方針、関連する指標などの開示が求められるようになりました。
さらに、2026年3月には内閣官房・金融庁・経済産業省による人的資本可視化指針の改訂版が公表されました。経営戦略と人材戦略を結び付け、人的資本投資の成果を説明する重要性が示されています。
なお、具体的な開示義務は企業の属性や適用される制度によって異なります。すべての企業に同一の項目の開示が義務付けられているわけではありません。
4. DX・AIの普及による必要スキルの変化
DXやAIの普及によって業務プロセスが変化し、従業員に求められるスキルも変わっています。既存業務を維持するだけでなく、新しい技術を活用して業務改革を推進できる人材が必要です。
経済産業省のデジタルガバナンス・コード3.0でも、デジタル人材の育成・確保や社員のスキル可視化、経営層を含む意識改革の重要性が示されています。
人的資本経営は、このような事業環境の変化に対応するための経営基盤としても注目されています。
人的資本経営に取り組む4つのメリット
人的資本経営のメリットは、人材の能力向上だけでなく、事業競争力や経営判断の質を高められる点にあります。ただし、効果を得るには、投資目的と成果指標を明確にすることが必要です。
従業員の生産性と専門能力を高められる
事業に必要なスキルを明確にして教育投資を行うことで、従業員の専門能力や業務遂行力の向上が期待できます。
例えば、営業部門でデータ分析研修を実施する場合、研修の修了率だけでなく、提案業務でのデータ活用状況や営業プロセスの改善結果を確認します。
教育と実務を結び付けることで、人材投資の成果を把握しやすくなります。
従業員エンゲージメントと定着率の向上につながる
キャリア形成の支援や公平な評価、働きやすい職場環境の整備は、従業員のエンゲージメント向上に寄与する可能性があります。
従業員が成長機会や仕事の意義を感じられる組織では、能力発揮や定着を促進しやすくなります。一方、従業員満足度の向上だけで離職を防げるとは限らないため、職場ごとの課題を分析することが重要です。
経営戦略に合わせた人材配置ができる
人的資本を可視化することで、各事業に必要な人材や能力と現状との差を把握しやすくなります。
例えば、新規事業に必要なデジタル人材が不足している場合、採用、社内育成、配置転換、外部専門家の活用といった選択肢を比較できます。
人員数だけでなく、保有スキルや経験、将来の事業計画まで踏まえて配置を検討できる点がメリットです。
投資家やステークホルダーへの説明力を高められる
人材戦略の目的や投資内容、成果を整理することで、企業がどのように持続的な成長を目指しているかを説明しやすくなります。
人材育成費用や管理職登用状況などの数値に加え、それらが経営戦略とどのようにつながるかを示すことが重要です。
人的資本情報の可視化は、投資家だけでなく、従業員や求職者、取引先との対話にも役立ちます。
人的資本経営の基本フレームワーク「3P・5F」とは
人的資本経営を実践する際には、経済産業省の「人材版伊藤レポート2.0」で整理された3P・5Fモデルが参考になります。3つの視点と5つの共通要素を使い、自社の経営戦略と人材戦略の関係を確認する考え方です。
3つの視点(3P)
3Pは、人材戦略を検討・実行する際に押さえるべき3つの視点を指します。
| 視点 | 内容 | 実務での確認事項 |
|---|---|---|
| 経営戦略と人材戦略の連動 | 事業目標と必要な人材・能力を結び付ける | 重点事業に必要な人材を定義しているか |
| As is・To beギャップの定量把握 | 現状と目標の人材構成・能力の差を可視化する | 必要スキルと保有スキルの差を把握しているか |
| 企業文化への定着 | 人材戦略を継続的な行動や組織文化につなげる | 評価制度や管理職の行動に反映されているか |
例えば、海外売上の拡大を経営目標とする企業であれば、海外事業に必要な人材像を定義し、現状の充足率を把握したうえで、採用・育成・配置の施策を実行します。
5つの共通要素(5F)
5Fは、人材戦略で検討すべき5つの共通要素です。すべての施策を同時に実施するのではなく、自社の経営課題に応じて優先順位を決めます。
| 共通要素 | 取り組み例 |
|---|---|
| 動的な人材ポートフォリオ | 事業計画に合わせた採用、育成、配置転換 |
| 知・経験のダイバーシティ&インクルージョン | 多様な経験を持つ人材の活用、意思決定への参加促進 |
| リスキル・学び直し | デジタル研修、専門スキル習得、キャリア転換支援 |
| 従業員エンゲージメント | 対話機会の充実、キャリア支援、組織課題の改善 |
| 時間や場所にとらわれない働き方 | 柔軟な勤務制度、働き方に応じた業務・評価制度の整備 |
3P・5Fは、形式的に項目を埋めるためではなく、自社の経営課題を人材施策に落とし込むために活用することが重要です。
人的資本経営の進め方|実践するための5つのSTEP
人的資本経営は、経営目標の整理から始め、必要人材の定義、データ分析、施策実行、効果検証の順に進めます。最初から大規模な制度改革やシステム導入を目指すよりも、重点事業を対象に小さく始める方法が現実的です。
STEP1:経営戦略と必要な人材像を明確にする
最初の取り組みとして、中長期の経営戦略を踏まえ、必要な組織能力と人材要件を整理する方法が考えられます。経営企画と人事部門だけでなく、各事業の責任者も参加して検討します。
- 中期経営計画や重点事業を確認する
- 成長に必要な業務能力・専門スキルを洗い出す
- 必要な人材の人数、役割、経験を定義する
- 経営層・人事・事業部門で優先順位を合意する
例えば、製造業でスマートファクトリー化を進める場合、生産技術だけでなく、設備データの分析やシステム運用ができる人材も必要になります。
役職や所属部署だけで人材を捉えず、実際に求められる能力まで具体化することが重要です。
STEP2:人的資本データを収集し現状を可視化する
次に、従業員の人数、保有スキル、経験、評価、研修履歴などを整理し、現状を把握します。必要に応じて、人事システムや勤怠管理システムに分散したデータを統合します。
- 従業員数・雇用形態・年齢構成
- 職種・役割・資格・専門スキル
- 採用・異動・昇進・離職の履歴
- 研修受講状況・能力開発実績
- エンゲージメント調査の結果
データの収集では、分析目的と利用範囲を明確にする必要があります。個人情報へのアクセス権限を設定し、必要以上の情報を収集しない運用が重要です。
STEP3:人材ギャップを分析し優先課題を決める
目標とする人材構成と現状を比較し、経営戦略の実行を妨げる課題を特定します。人数だけでなく、スキル、経験、管理職候補の育成状況なども分析対象です。
例えば、重点事業に必要な専門スキル保有者が不足している場合、その原因が採用難なのか、育成機会の不足なのか、配置の偏りなのかを確認します。
課題ごとに事業への影響度と改善の実行可能性を評価し、優先順位を設定します。これにより、経営上の重要領域に人材投資を重点的に配分しやすくなります。
STEP4:人材施策とKPIを設定して実行する
課題を明確にしたら、採用、育成、配置、評価制度などの具体的な施策に落とし込みます。同時に、施策の進捗と成果を判断するためのKPIを設定します。
| 経営課題 | 施策例 | KPI例 |
|---|---|---|
| 専門人材の不足 | リスキリング、社内公募 | 重点スキル充足率 |
| 若手社員の離職 | キャリア面談、管理職育成 | 若手社員の離職率 |
| 管理職候補の不足 | 後継者育成プログラム | 重要ポストの後継者充足率 |
| 新規事業の推進力不足 | 部門横断プロジェクト | 必要スキルを持つ参画人材の充足率 |
KPIは、測定しやすさだけで選ばないことが重要です。研修時間や受講率といった活動指標に加え、能力の獲得状況や事業成果につながる指標も組み合わせます。
STEP5:成果を検証し経営戦略へ反映する
人的資本経営は、施策を実行して終わりではありません。定期的にKPIを確認し、期待した成果が得られているかを検証する必要があります。
- KPIの実績と目標値を比較する
- 成果が出ていない要因を分析する
- 事業責任者と施策の有効性を検証する
- 採用・育成・配置計画を見直す
- 次期経営計画や人材投資予算に反映する
例えば、デジタル研修の受講率が高くても、実務で新しい技術が使われていなければ、業務での活用機会や管理職による支援を見直す必要があります。
施策と成果の関係を継続的に検証することで、人的資本経営を経営管理の仕組みとして定着させやすくなります。
人的資本経営で設定すべきKPIと情報開示のポイント
人的資本経営のKPIは、人材への投資状況、組織の状態、事業への貢献を把握できるように設定します。情報開示では、数値の多さよりも、経営戦略と人材施策の関係を説明できることが重要です。
人的資本経営で活用される主なKPI
KPIは、企業の事業特性や人材戦略によって適切な項目が異なります。以下は検討時に参考となる代表的な指標です。
| 分類 | KPI例 | 確認する目的 |
|---|---|---|
| 人材育成 | 研修時間、教育投資額、スキル習得率 | 能力開発の進捗 |
| 人材確保 | 採用充足率、離職率、定着率 | 必要人材の確保状況 |
| 人材配置 | 重要職種の充足率、社内公募による異動実績 | 適材適所の実現状況 |
| 組織活性化 | エンゲージメントスコア | 組織の活力や課題 |
| 多様性 | 女性管理職比率、男女間賃金差異など | 人材構成や機会の状況 |
| 後継者育成 | 重要ポストの後継者充足率 | 経営・事業継続への備え |
各指標を活用する際は、定義、対象者、集計期間を統一することが重要です。例えば、離職率についても、自己都合退職のみを対象にするか、すべての退職を含めるかによって結果が変わります。
また、エンゲージメントスコアは調査方法によって評価基準が異なるため、単純な他社比較ではなく、自社の継続的な変化を重視することが有効です。
人的資本情報の開示で押さえるべきこと
人的資本情報の開示では、経営戦略、人材戦略、人的資本投資、成果のつながりを説明することが重要です。2026年3月改訂の人的資本可視化指針でも、戦略に沿った指標設定、継続的なモニタリング、財務・人事両面からの説明が重視されています。
- 経営戦略に必要な人材像が明確になっているか
- 人材面の現状と目標との差を把握しているか
- 人材投資の目的と具体的な施策を説明できるか
- 施策の進捗や成果を客観的な指標で示せるか
- 開示対象データの定義や集計方法が統一されているか
例えば、海外事業の拡大を掲げる企業であれば、海外事業人材の育成方針、対象人材の充足状況、育成実績を関連付けて説明することが考えられます。
開示を目的として数値を集めるのではなく、経営判断に活用しているデータを適切に開示する仕組みが理想的です。
人的資本経営を支えるERP・人事システム・AIの活用
人的資本経営を継続的に推進するうえでは、人材データの収集・分析と経営情報の連携が有効な取り組みとなります。人事システムは従業員情報や育成履歴の管理を担い、ERPとの連携によって人材戦略と財務・事業計画を結び付けやすくなります。
人事データを一元管理するHCMシステム
HCM(Human Capital Management:人的資本管理)システムは、従業員の基本情報に加え、採用、育成、評価、配置などの人材管理を支援する仕組みです。
従業員情報が表計算ソフトや部門ごとのシステムに分散している場合、最新情報の確認や全社横断の分析に手間がかかります。
HCMシステムを活用すると、人材情報の管理方法を統一し、組織別の人員構成やスキル分布、育成状況などを把握しやすくなります。
ただし、システムを導入するだけでデータが正確になるわけではありません。データ項目の定義や更新責任、権限管理を整備する必要があります。
ERPと人事データを連携して経営判断に生かす
ERP(Enterprise Resource Planning:企業資源計画)は、会計、販売、調達、生産などの基幹業務情報を統合的に管理する仕組みです。HCMシステムと連携することで、人材情報を事業計画や財務情報と組み合わせて分析できます。
例えば、部門ごとの人員構成、労務費、収益性などを比較することで、人材配置や投資配分を検討しやすくなります。
| 連携するデータ | 分析の例 | 経営判断への活用 |
|---|---|---|
| 人員数・労務費・売上高 | 部門別の生産性分析 | 要員計画や業務改善 |
| 人材スキル・事業計画 | 重点事業の人材充足分析 | 採用・育成投資の配分 |
| 研修実績・業績指標 | 能力開発と成果の関係分析 | 教育プログラムの見直し |
| 組織構成・人件費予算 | 将来の要員コスト試算 | 中期経営計画の策定 |
なお、こうした分析結果は必ずしも因果関係を示すものではありません。生産性の変化には市場環境や設備投資なども影響するため、複数の情報を組み合わせて判断する必要があります。
SAP SuccessFactorsによる人的資本管理
SAPのクラウド人事・人材管理ソリューションであるSAP SuccessFactors Human Capital Management(SAP SuccessFactors HCM)は、人的資本経営を支えるシステムの選択肢の一つです。
コア人事、タレントマネジメント、人事アナリティクス、要員計画などの領域を支援し、従業員情報と人材施策を結び付けることができます。
例えば、SAP SuccessFactors Employee Centralでは、従業員や組織に関する基本情報を管理できます。人材情報の標準化によって、組織構成の把握や人事業務の効率化を支援します。
また、SAP SuccessFactorsの人事分析機能を活用することで、要員構成やスキルギャップなどを分析し、人材配置や育成施策の検討に役立てることができます。
利用できる機能は、契約する製品や構成、導入範囲によって異なるため、必要な業務要件と照らし合わせて確認することが重要です。
SAP Cloud ERPとの連携で人的資本と経営情報を結び付ける
SAP Cloud ERPなどの基幹業務システムとSAP SuccessFactors HCMを連携することで、人材情報と財務・業務情報を組み合わせた経営管理が可能になります。
例えば、人員計画と財務予算の整合性を確認したり、事業拡大に伴う人材需要を検討したりする用途が考えられます。
ただし、SAP Cloud ERPの導入によってすべての人事管理機能が自動的に利用できるわけではありません。必要なHCM製品、連携方式、追加設定を個別に検討する必要があります。
また、SAP S/4HANA Cloud Public Edition、SAP S/4HANA Cloud Private Edition、オンプレミス環境では、システム構成や運用上の条件が異なります。既存のERP環境を踏まえて連携方法を選択することが重要です。
AIによるスキル分析と人材配置の高度化
AIは、人的資本データを分析し、人材育成や配置の意思決定を支援する技術として活用できます。大量のデータから傾向を把握したり、必要なスキルと従業員の能力を比較したりする用途が考えられます。
- 保有スキルと必要スキルのギャップ分析
- 従業員の能力開発に関する提案
- 人材構成や組織状態の傾向分析
- 要員計画のシナリオ比較
- 人事担当者の情報検索や定型業務の支援
一部の業務システムでは、AIアシスタントなどを活用して、人事情報の検索や定型業務、分析関連業務を支援する機能が提供されています。ただし、利用できる機能や対応範囲は、製品、契約内容、利用環境、設定状況などによって異なります。
また、AIによる評価にはデータの偏りや判断根拠の不透明さといったリスクがあります。採用、昇進、人事評価など従業員の処遇に関わる判断では、AIの結果をそのまま採用せず、人による確認と適切なガバナンスを設けることが欠かせません。
人的資本経営でよくある課題と失敗を防ぐポイント
人的資本経営が形骸化する主な原因は、経営戦略との連動不足、データの分散、KPIの目的化などです。施策の数を増やすよりも、経営課題に対してどのような成果を生み出すかを明確にする必要があります。
人事部門だけで推進してしまう
人的資本経営を人事部門だけの取り組みにすると、教育や制度改革が事業戦略から切り離される可能性があります。
経営層が人材戦略の方向性を示し、事業責任者が必要能力を定義し、人事部門が施策の設計と実行を支援する体制が重要です。CFOや経営企画部門も関与することで、人材投資と財務計画を整合させやすくなります。
データが分散し分析に時間がかかる
人事情報が複数のシステムや表計算ソフトに分散していると、全社の人材状況を正確に把握することが難しくなります。
まずはデータの所在と管理責任者を整理し、共通の定義を設定することが重要です。システム連携や統合は、その後に必要な範囲から進めるとよいでしょう。
研修時間や投資金額だけを成果としてしまう
研修時間や教育投資額は、人的資本への投入状況を示す指標ですが、それだけでは成果を判断できません。
研修後のスキル習得状況や実務への適用、組織の生産性変化なども確認し、投資と成果の関係を検証する必要があります。
情報開示そのものが目的になってしまう
開示項目を満たすことだけを目的とすると、人的資本経営が報告業務に偏ってしまいます。
開示する数値は、経営判断や施策改善にも活用できることが望まれます。自社の経営戦略に関連する重要指標を優先し、継続的に測定できる管理体制を構築しましょう。
人的資本経営を中堅・中小企業で進めるポイント
人的資本経営は、大企業だけの取り組みではありません。中堅・中小企業でも、自社の事業課題に合った人材戦略を立て、既存の人材を育成・活用することから始められます。
最初から大規模な制度改革を目指さない
人員や予算に制約がある企業では、重要度の高い課題に対象を絞ることが効果的です。例えば、技術継承、管理職育成、若手人材の定着など、事業継続に影響する課題から着手します。
対象部署を限定して施策を実行し、成果を確認しながら全社へ広げる方法も考えられます。
既存の人事・経営データを活用する
人的資本経営を始めるために、必ずしも新しいシステムを導入する必要はありません。まずは既存の人事台帳、研修記録、勤怠情報、経営計画などから必要な情報を整理します。
ただし、手作業での集計負担が大きい場合や、拠点・事業の拡大によって管理が複雑化している場合は、人事システムやERPの導入・刷新を検討する価値があります。
人材戦略と業務基盤の整備を一体で考える
人的資本経営の成果を高めるには、人材育成だけでなく、従業員が能力を発揮できる業務環境を整えることも重要です。
例えば、基幹業務のデータが分断されている企業では、社員が情報収集や転記作業に時間を費やしている可能性があります。業務プロセスの標準化やデータ連携によって、より付加価値の高い仕事に人材を配置しやすくなります。
そのため、人的資本経営とDX・ERP導入を別々に考えるのではなく、経営戦略を支える組織・業務基盤の整備として検討することが有効です。
人的資本経営に関するよくある質問(FAQ)
人的資本経営とは簡単にいうと何ですか?
人的資本経営とは、人材を企業の成長を生み出す資本と捉え、育成や能力発揮への投資を通じて企業価値を高める経営手法です。従来の人事管理に加え、経営戦略と人材戦略を連動させる点が特徴です。
人的資本経営と健康経営の違いは何ですか?
人的資本経営は、人材への投資を通じて企業価値の向上を目指す経営の考え方です。一方、健康経営は、従業員の健康保持・増進を経営的な視点で考え、戦略的に実践する取り組みです。健康経営は、人的資本経営を支える重要な施策の一つと位置付けられます。
人的資本経営は中小企業にも必要ですか?
人的資本経営は中小企業にも有効な考え方です。人材不足や技術継承、管理職育成といった課題に対して、経営戦略に沿った採用・育成・配置を進めることができます。大規模なシステム投資を前提とせず、優先課題を絞って始めることが可能です。
人的資本経営ではどのようなKPIを設定すればよいですか?
人的資本経営のKPIは、経営戦略の実現に必要な人材課題から設定します。代表例には、重点スキル充足率、離職率、エンゲージメントスコア、後継者充足率などがあります。研修時間などの活動指標だけでなく、能力向上や事業成果に関する指標も組み合わせることが重要です。
人的資本経営にERPや人事システムは必要ですか?
人的資本経営を始めるためにERPや人事システムの導入が必須というわけではありません。ただし、従業員情報が分散している場合や、財務・事業データと組み合わせて分析したい場合には、システムの活用が有効です。SAP SuccessFactors HCMなどの人事ソリューションとERPを連携することで、データに基づく人材戦略の検討を支援できます。
人的資本経営を企業価値の向上につなげるために
人的資本経営は、人材の能力や可能性を引き出し、企業の持続的な成長につなげる経営の取り組みです。単に人材育成費用を増やすことや、人的資本情報を開示することが目的ではありません。重要なのは、経営戦略に必要な人材を明確にし、投資の成果を継続的に検証することです。
本記事の要点を整理すると、次のとおりです。
- 人的資本経営は、人材を価値創造の源泉として捉える経営手法である
- 経営戦略と人材戦略を連動させることが出発点となる
- 3P・5Fを参考に、自社の優先課題と具体的な人材施策を整理する
- KPIは投資状況だけでなく、能力向上や事業成果も踏まえて設定する
- 人事システムとERPの連携により、人材情報と経営情報を組み合わせた分析を進められる
まずは重点事業に必要な人材像を定義し、現在の人材構成やスキルとのギャップを確認しましょう。そのうえで、採用・育成・配置の優先順位を設定し、測定可能なKPIを使って改善を続けることが重要です。
また、人的資本経営を推進するうえでは、従業員が能力を発揮しやすい業務基盤の整備も重要です。特に人材不足や事業拡大への対応を進める企業では、人材戦略とあわせて基幹システムや業務プロセスの見直しを検討することが有効です。
中堅・成長企業の経営基盤を見直す際には、資料「今、中堅・成長企業が取り組むべき 経営・業務基盤の再構築(IPS提供)」も参考になります。人材不足などの経営環境の変化を踏まえ、業務基盤を再構築する必要性や、今後求められるERPのあり方を整理できます。ぜひご活用ください。
AIクラウドERP導入ガイド編集部
クラウドERPや基幹システムに関する最新動向を整理し、導入を検討している企業様に向けて、選定基準やメリット、失敗しないためのポイントを分かりやすく解説しています。
複雑なIT用語を排し、現場視点でDX推進を支援する実践的な情報発信を目指しています。


