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プロダクトポートフォリオマネジメントの分析方法と4つの象限を徹底解説

作成者: クラウドERP導入ガイド編集部|2025/12/23

多角化経営を進める企業にとって、限られた経営資源(ヒト・モノ・カネ)をどの事業に優先的に投資し、あるいはどの事業から撤退すべきかという判断は、企業の持続的な成長を左右する極めて重要な経営課題です。こうした資源配分の最適化を検討する際に、多くの企業で採用されている代表的なフレームワークが「プロダクトポートフォリオマネジメント(PPM)」です。

本記事では、ボストンコンサルティンググループ(BCG)が提唱したPPMの基礎知識から、「市場成長率」と「市場占有率(マーケットシェア)」の2軸で分類される4つの象限ごとの基本戦略について詳しく解説します。また、実際にバブルチャートを作成して分析を行う手順や、PPM分析の課題点、そして正確な分析と迅速な意思決定を支えるためのデータ統合の重要性についても触れていきます。

この記事で分かること

  • プロダクトポートフォリオマネジメント(PPM)の定義と目的
  • 4つの象限(花形・金のなる木・問題児・負け犬)の特徴と基本戦略
  • 具体的な分析手順とバブルチャートの作成方法
  • 分析の精度を高め、経営判断を加速させるためのポイント

PPMを正しく理解し活用することで、事業間のキャッシュフローのバランスを可視化し、論理的な投資判断を行うことが可能になります。自社の事業ポートフォリオを見直し、最適な経営戦略を立案するための手引きとして、ぜひ本記事をお役立てください。

プロダクトポートフォリオマネジメントとは何か

プロダクトポートフォリオマネジメント(PPM:Product Portfolio Management)とは、1970年代にボストン コンサルティング グループ(BCG)が提唱した、多角化企業の経営戦略立案において中心的な役割を果たすフレームワークです。

企業が展開する複数の事業や製品(プロダクト)を、市場における立ち位置や将来性に基づいて分類し、全社的な視点から「どの事業に投資し、どの事業から利益を回収するか」を見極めるために用いられます。経営資源には限りがあるため、すべての事業に均等に投資することは現実的ではありません。PPMを活用することで、客観的な指標に基づいた経営資源の最適配分が可能となり、企業全体の持続的な成長と収益最大化を目指すことができます。

経営資源の最適配分を行うためのフレームワーク

中堅以上の規模を持つ企業では、主力事業以外にも複数の事業を展開しているケースが一般的です。しかし、事業ごとに市場環境や収益構造は異なるため、経営層は常に「どの事業を伸ばし、どの事業を縮小すべきか」という難しい判断を迫られます。

プロダクトポートフォリオマネジメントは、こうした判断を「勘や経験」ではなく、数値に基づいたロジックで行うためのツールです。各事業が生み出すキャッシュフロー(現金収支)に着目し、資金の創出源となる事業と、資金の投下先となる事業を明確に区分します。これにより、企業全体でのキャッシュフローのバランスを保ちながら、長期的な競争力を維持するための戦略的な資源配分を実現します。

PPMを導入することで、経営層は主に以下のメリットを得ることができます。

  • 事業ごとの将来性と収益性を客観的に評価できる
  • 投資すべき事業と撤退すべき事業の優先順位が明確になる
  • 企業全体での資金需給のバランス(キャッシュフロー経営)を最適化できる
  • 事業間の相互関係を整理し、全社戦略の方向性を統一できる

特に、部門ごとにシステムが散在し、Excelなどでの個別管理が常態化している企業においては、全社横断的なデータを集約してPPM分析を行うことが、経営の見える化に向けた第一歩となります。

市場成長率と市場占有率の2軸で分析する仕組み

プロダクトポートフォリオマネジメントでは、各事業を評価するために「市場成長率(Market Growth Rate)」と「相対的市場占有率(Relative Market Share)」という2つの指標を軸として設定します。この縦軸と横軸で構成されるマトリクス上に各事業をプロットすることで、その事業が置かれている状況を視覚的に把握します。

評価軸 意味と分析のポイント
市場成長率
(縦軸)

その事業が属する市場が、どれくらいのスピードで拡大しているかを示します。一般的に、成長率が高い市場は魅力的ですが、競合他社との競争に勝つために設備投資や販促費などの多額の資金投入(キャッシュアウト)が必要となります。

相対的市場占有率
(横軸)

競合トップ企業に対する自社のシェアの割合を示します。シェアが高いほど規模の経済や経験曲線効果が働き、コスト競争力が強まるため、利益やキャッシュイン(資金流入)が大きくなる傾向があります。

この2つの軸を組み合わせることで、事業は「花形(Star)」「金のなる木(Cash Cow)」「問題児(Problem Child)」「負け犬(Dog)」の4つの象限のいずれかに分類されます。PPM分析の本質は、単に現状を分類することではなく、この分類に基づいて将来のキャッシュフローを予測し、適切な戦略を実行する点にあります。

正確な分析を行うためには、自社の売上データだけでなく、市場全体の規模や競合他社の動向を含めた信頼性の高いデータを収集することが不可欠です。

4つの象限の特徴と採用すべき基本戦略

PPM(プロダクトポートフォリオマネジメント)の4象限 花形 (Star) 積極投資・シェア維持 キャッシュフロー:均衡/マイナス ? 問題児 (Problem Child) 育成(投資)または撤退 キャッシュフロー:大幅マイナス ¥ 金のなる木 (Cash Cow) 利益回収・現状維持 キャッシュフロー:大幅プラス 負け犬 (Dog) 撤退・縮小 キャッシュフロー:均衡/マイナス 市場成長率 高 低 相対的市場占有率(マーケットシェア) 高 低

プロダクトポートフォリオマネジメント(PPM)では、事業や製品を「市場成長率」と「相対的市場占有率(マーケットシェア)」の2軸で分類し、4つの象限に分けて分析します。このフレームワークを用いることで、企業は限られた経営資源(ヒト・モノ・カネ)をどの事業に集中させるべきか、あるいはどの事業から撤退すべきかという投資判断を客観的に行うことが可能になります。

各象限は、事業の置かれた状況とキャッシュフローの特性が大きく異なります。まずは4つの象限の概要と、それぞれに求められる基本的な戦略方針を整理します。

象限 市場成長率 市場占有率 キャッシュフロー 基本戦略
花形 (Star) 均衡またはマイナス 積極投資・シェア維持
金のなる木 (Cash Cow) 大幅なプラス 利益回収・現状維持
問題児 (Problem Child) 大幅なマイナス 育成(投資)または撤退
負け犬 (Dog) 均衡またはマイナス 撤退・縮小

花形 Star は積極的な投資でシェア維持を目指す

「花形」は、市場成長率が高く、かつ自社の市場シェアも高い位置にある事業です。市場自体が拡大しているため売上の伸びが期待でき、トップシェアであることから高い収益性も見込めます。まさに企業の顔となる主力事業と言えるでしょう。

しかし、成長市場であるがゆえに競合他社の参入も多く、競争は激化します。現在のシェアを維持し、競合に打ち勝つためには、設備投資やマーケティング、研究開発への継続的かつ多額の資金投入が不可欠です。

  • 売上は大きいが、再投資が必要なため手元のキャッシュは残りにくい
  • 将来的に市場成長が鈍化した際、「金のなる木」へと移行させることが目標
  • 競合にシェアを奪われると「問題児」や「負け犬」に転落するリスクがある

このフェーズでは利益確保よりもシェアの維持・拡大を最優先事項とし、積極的な先行投資を行う経営判断が求められます。

金のなる木 Cash Cow で得た利益を他事業へ回す

「金のなる木」は、市場の成長は落ち着いていますが、自社が高いシェアを確保している事業です。市場が成熟しているため新規の設備投資や大規模な販促費をかける必要が少なく、安定した売上が立つため、多額の利益(キャッシュ)を生み出します。

企業にとっての資金供給源(キャッシュカウ)であり、ここで獲得した余剰資金を「花形」の育成や「問題児」へのテコ入れに回すことが、全社的なポートフォリオ最適化の鍵となります。

  • 投資は現状のシェアを維持できる最小限の範囲に留める
  • コストダウンや業務効率化を徹底し、利益率を最大化する
  • 得られたキャッシュフローを成長分野へ再配分する

経営層としては、この事業にいかに長く留まり、効率よく資金を回収し続けられるかが腕の見せ所となります。ただし、過度なコスト削減で製品品質やサービスレベルが低下し、シェアを失うことのないよう注意が必要です。

問題児 Problem Child は育成か撤退かの見極めが重要

「問題児」は、市場成長率は高いものの、自社のシェアが低い事業です。市場全体は伸びているため魅力的な分野ですが、競争力が弱いため利益が出にくい構造になっています。シェアを拡大して「花形」にするためには、競合に対抗するための莫大な投資が必要です。

そのまま放置すれば、市場成長の鈍化とともに「負け犬」になってしまう恐れがあります。そのため、経営者は非常に難しい二者択一を迫られます。

  1. 積極投資でシェアを奪いに行き、「花形」へと育成する
  2. 将来性や勝ち目がないと判断し、早期に「撤退」して損切りする

すべての問題児を花形にするだけの資金力を持つ企業は稀です。どの事業に勝算があるのか、市場データや自社のリソースを冷静に分析し、選別する「選択と集中」が最も求められる象限です。

負け犬 Dog からの撤退や事業縮小を検討する

「負け犬」は、市場成長率も低く、シェアも低い事業です。市場の将来性が乏しく、競争上の優位性もないため、基本的には利益を生み出しません。場合によっては赤字を垂れ流し、全社の足を引っ張る存在になっていることもあります。

基本戦略としては、撤退や事業売却、あるいは規模を縮小して細々と残存利益を得る方向で検討します。しかし、長年続けてきた事業への愛着や、雇用問題、取引先との関係などから、合理的な撤退判断が遅れるケースも少なくありません。

経営資源を成長分野へ集中させるためには、負け犬事業からの撤退を断行する決断力が必要不可欠です。サンクコスト(埋没費用)にとらわれず、将来のキャッシュフローに基づいた冷徹な判断が、企業の存続と成長を左右します。

プロダクトポートフォリオマネジメントの具体的な分析方法

市場成長率 (高 ⬆) 相対的市場占有率 (⬅ 高 / 低 ➡) 花形 (Star) 継続投資・シェア維持 問題児 (Problem Child) 育成(投資) または 撤退 金のなる木 (Cash Cow) 資金源・利益回収 負け犬 (Dog) 撤退・売却検討 事業A (収益源) 事業B 事業C 事業D 資金再配分

プロダクトポートフォリオマネジメント(PPM)は、単に事業を分類するだけでなく、客観的な数値に基づいて経営資源の配分を決定するための論理的なプロセスです。直感や過去の経緯に頼るのではなく、正確なデータを用いた分析を行うことで、経営層は自信を持って撤退や投資の判断を下すことができます。

ここでは、実際にPPM分析を進めるための具体的な手順を3つのステップで解説します。

自社の各事業における売上やシェアのデータを収集する

PPM分析の精度は、投入するデータの正確性に依存します。まずは、分析対象となるすべての事業(SBU:Strategic Business Unit)について、以下の2つの主要な指標を算出するためのデータを収集します。

  • 市場成長率:その事業が属する市場全体が、前年と比較してどの程度伸びているか
  • 相対的市場占有率:業界最大手の競合他社に対して、自社がどの程度のシェアを持っているか

特に「相対的市場占有率」の算出は重要です。単なる市場シェア(%)ではなく、トップ企業との対比で見ることによって、その事業の真の競争力を測ることができます。計算式は以下の通りです。

  • 自社が業界1位の場合:自社の売上高 ÷ 2位企業の売上高
  • 自社が2位以下の場合:自社の売上高 ÷ 1位企業の売上高

中堅規模の企業において課題となりやすいのが、これらのデータ収集プロセスです。部門ごとに異なるシステムや個別のExcelファイルで管理されている場合、データの定義がバラバラであったり、集計に膨大な時間がかかったりすることがあります。経営判断のスピードを上げるためには、全社の売上データや市場データが一元管理され、即座に取り出せる状態にあることが理想的です。

バブルチャートを作成して事業の位置づけを可視化する

データが揃ったら、縦軸と横軸を設定した座標上に各事業をプロットし、バブルチャート(散布図)を作成します。これにより、自社の事業ポートフォリオ全体を俯瞰(ふかん)することができます。

指標 分析のポイント
縦軸(Y軸) 市場成長率 市場の将来性や魅力度を示します。中心線(切り分けの基準)は、一般的にGDP成長率や業界平均の成長率などを設定します。高いほど資金流出(投資必要額)が多くなります。
横軸(X軸) 相対的市場占有率 自社の競争優位性や収益力を示します。通常、左に行くほどシェアが高くなるように設定します。中心線は「1.0(競合と同等)」や「0.7」などを基準とします。高いほど資金流入(キャッシュイン)が多くなります。
円の大きさ 事業規模(売上高) その事業が全社の中でどの程度のウェイトを占めているかを視覚的に表現します。円が大きいほど、経営へのインパクトが大きい事業です。

このチャートを作成することで、自社の事業が「花形」「金のなる木」「問題児」「負け犬」のどの象限に集中しているか、あるいはバランスよく分散しているかが一目で分かります。Excelなどの表計算ソフトでも作成可能ですが、経営会議などでリアルタイムにシミュレーションを行う場合は、BIツールやERPに統合された分析機能の活用が効果的です。

キャッシュフローの観点から資源配分の優先順位を決める

各事業の位置づけが明確になったら、最後に「キャッシュフロー(現金の流れ)」の観点から資源配分の方針を決定します。PPMの本質は、利益の額そのものよりも、キャッシュを生み出しているか、キャッシュを消費しているかというバランスを見ることにあるからです。

  1. 資金源の特定:「金のなる木」に分類された事業は、追加投資を抑えても利益を生み出す源泉です。ここで得たキャッシュを確実に回収します。
  2. 投資先の選定:回収したキャッシュを、将来の収益源となる「花形」へのシェア維持や、成長が見込める「問題児」の育成へ優先的に配分します。
  3. 撤退の判断:キャッシュを生み出さず、成長も見込めない「負け犬」や、競争に勝てる見込みのない「問題児」については、売却や撤退による資金回収を検討します。

この段階で重要になるのが、各事業の正確な収益性データです。売上高だけでなく、事業ごとの直接費や配賦された間接費を含めた損益、そして実際のキャッシュフローが正確に把握できていなければ、誤った投資判断を下すリスクがあります。部門最適ではなく全社最適の視点で資源配分を行うためには、会計システムと各業務システムが連携し、正しい数字に基づいた議論ができる環境が不可欠です。

PPM分析を実践する際の課題と注意点

PPM分析の落とし穴:見えない「シナジー効果」 数値上の分類だけで判断すると、事業間の重要なつながりを断ち切るリスクがある 市場成長率 市場占有率 高 低 高 低 花形 (Star) 問題児 (Problem Child) 金のなる木 (Cash Cow) 負け犬 (Dog) 技術・人材の供給 製造コスト吸収 主力事業 収益源 新規事業 不採算事業 (撤退候補?) ⚠️ 注意点 「負け犬」に見えても、 他事業を支えている場合がある。 安易な撤退は全体最適を損なう。

プロダクトポートフォリオマネジメント(PPM)は、企業の資源配分を決定するための強力なフレームワークですが、万能ではありません。特に、事業が多角化し組織が拡大している中堅企業においては、理論通りに分析を進めることが難しい現実的な壁が存在します。

PPMの分析結果だけを鵜呑みにした経営判断は、かえって企業の競争力を削ぐリスクさえあります。ここでは、PPMを実践する上で直面しやすい主な課題と、分析時に留意すべき点について解説します。

事業間のシナジー効果が反映されにくい

PPM分析の最大の弱点は、各事業(SBU:戦略的事業単位)をそれぞれ独立した存在として評価してしまう点にあります。PPMのフレームワークは、あくまで「市場成長率」と「市場占有率」という2つの軸で事業をプロットするため、事業間にある相互関係やシナジー効果は考慮されません。

例えば、PPM上では「負け犬(Dog)」や「問題児(Problem Child)」に分類される事業であっても、その事業が保有する技術や顧客基盤、あるいは製造ラインが、「花形(Star)」や「金のなる木(Cash Cow)」の事業を支えているケースがあります。

以下は、PPM上の評価と実態としての戦略的価値に乖離が生まれる典型的な例です。

PPM上の分類 一般的な基本戦略 見落とされがちなシナジー効果(例)
負け犬
(Dog)
撤退・縮小 主力製品の製造コストを吸収している(共通費の負担)。
若手技術者の育成の場として機能している。
問題児
(Problem Child)
育成または撤退 将来の「花形」事業に必要な新規顧客接点を開拓している。
ブランド全体の先進性を担保している。
金のなる木
(Cash Cow)
現状維持・収穫 過度な投資抑制により、製品品質が低下し、他事業のブランド毀損を招くリスクがある。

このように、数値上のマトリックスだけで「負け犬だから撤退」と短絡的に判断してしまうと、会社全体のバリューチェーンを断ち切ってしまう恐れがあります。PPM分析を行う際は、各事業が単独で生み出すキャッシュフローだけでなく、他事業への貢献度や技術的な波及効果といった定性的な要素も合わせて評価する必要があります。

部門ごとにデータが散在していると分析精度が落ちる

PPM分析を正しく行うためには、自社の各事業における正確な「売上高」「利益率」「市場シェア」などのデータが不可欠です。しかし、多くの企業において、これらのデータ収集こそが最大のボトルネックとなっています。

特に、会計システムや販売管理システムが部門ごとに個別最適化されている場合、あるいはExcelによるバケツリレーで数値管理が行われている場合、以下のような問題が発生しやすくなります。

  • 部門によって「売上」や「利益」の計上基準(定義)が異なり、横並びで比較できない
  • 各事業部からの報告データが出揃うまでに時間がかかり、リアルタイムな分析ができない
  • 手作業による集計ミスが頻発し、経営判断の根拠となるデータの信頼性が低い
  • 競合他社の動向や市場全体の成長率といった外部データと、社内データが紐づいていない

不正確なデータや、数ヶ月前の古いデータに基づいて作成されたバブルチャートは、経営の羅針盤としての機能を果たしません。市場の変化が激しい現代において、データの鮮度と精度は経営判断の生命線となります。

PPMを単なる「図解作成作業」に終わらせず、実効性のある経営戦略ツールとして活用するためには、全社のデータを統合的に管理し、必要な情報を即座に取り出せるIT基盤の整備が前提条件となります。データ収集に時間を浪費するのではなく、データに基づいた意思決定に時間を割く体制づくりが求められています。

正確な分析と迅速な経営判断を支えるERPの重要性

ERP導入によるPPM分析の高度化 従来:個別システム・Excel管理 販売管理 会計システム 生産管理 手作業・Excel集計 転記ミス・定義のズレ 膨大な工数 不正確・遅れた分析 「今の状況」が見えない 改善後:ERPによる統合管理 販売データ 会計データ 生産データ 統合データベース リアルタイム更新 正確・迅速なPPM分析 ★ ? ¥ 投資・撤退の即断即決

プロダクトポートフォリオマネジメント(PPM)は、企業の限られた経営資源を最適に配分するための強力なフレームワークですが、その実効性は「データの質」と「鮮度」に大きく依存します。多くの企業において、PPM分析が形骸化したり、現場の実感と乖離したりする原因の多くは、分析の前提となるデータ収集のプロセスに課題があるためです。

特に年商100億〜2000億円規模の中堅企業においては、事業の多角化に伴いシステムが部門ごとに乱立し、全社横断的なデータの把握が困難になっているケースが散見されます。ここで重要となるのが、基幹業務システムであるERP(Enterprise Resource Planning)の活用です。

全社のデータを統合し経営の見える化を実現する

PPM分析を行うためには、各事業(SBU)の売上高、市場成長率、市場占有率(シェア)、そして営業利益やキャッシュフローといった多岐にわたる指標を正確に把握する必要があります。しかし、会計システム、販売管理システム、生産管理システムなどがバラバラに稼働している環境では、これらのデータを統合するだけで膨大な工数がかかります。

Excelを用いたバケツリレー方式での集計は、転記ミスなどのヒューマンエラーを誘発するだけでなく、データの一貫性を損なうリスクがあります。例えば、営業部門が管理する「売上」と、経理部門が認識する「売上」の計上基準が異なれば、算出される市場シェアや成長率の数値も信頼性を欠くものとなります。

ERPを導入し、統合データベースによる一元管理を実現することで、部門間のデータの壁を取り払うことが可能です。これにより、経営層は「今、どの事業が真に利益を生み出しているか」を正確に把握できるようになります。正確なデータに基づくPPM分析であって初めて、撤退や縮小といった痛みを伴う経営判断に説得力を持たせることができるのです。

  • 部門ごとに散在するデータを自動で統合し、集計工数を削減できる
  • 定義が統一されたデータを用いることで、分析結果の信頼性が向上する
  • 製品別、地域別、顧客別といった詳細な粒度での収益性分析が可能になる

リアルタイムな情報に基づき投資判断を加速させる

市場環境の変化が激しい現代において、PPM分析は年に一度の経営会議のためだけに行うものではありません。「問題児(Problem Child)」が「花形(Star)」に育ちつつあるのか、あるいは「負け犬(Dog)」へと転落しつつあるのか、その兆候をいち早く捉える必要があります。

従来のシステム環境では、月次決算が締まり、各部門からの報告が出揃うまで数週間を要することも珍しくありませんでした。このタイムラグは、競争の激しい市場においては致命的な遅れとなり得ます。ERPを活用することで、日々の業務データがリアルタイムに会計データへと反映され、経営層は常に最新の事業状況をモニタリングすることが可能になります。

PPMにおける4つの象限への分類は固定的なものではなく、常に変動しています。リアルタイムな経営情報があれば、市場の急変に合わせて、「金のなる木(Cash Cow)」から得たキャッシュを、勝機が見えた「花形」事業へ即座に集中投資するといった機動的な判断が下せるようになります。

以下の表は、従来型のアナログな管理と、ERPを活用した管理におけるPPM分析の精度の違いを整理したものです。

比較項目 Excel・個別システムによる管理 ERPによる統合管理
データの鮮度 月次締め後、数週間遅れで確定 日次・リアルタイムで把握可能
データの精度 手作業による集計ミスや属人化のリスクあり システム連携により整合性が担保される
分析の粒度 事業部単位などの大枠に限られることが多い 製品・プロジェクト単位までドリルダウン可能
経営判断への影響 過去の結果に基づく事後的な対応になりがち 予兆を捉えた先行的な投資・撤退判断が可能

このように、ERPは単なる業務効率化ツールではなく、PPM分析の精度とスピードを劇的に高め、経営資源の配分という経営の根幹に関わる意思決定を支える基盤となるのです。

プロダクトポートフォリオマネジメントに関するよくある質問

PPM分析とSWOT分析の違いは何ですか?

PPM分析は市場成長率と市場占有率を軸に事業への資源配分を検討するフレームワークであるのに対し、SWOT分析は自社の内部環境と外部環境を強み・弱み・機会・脅威の視点で分析し、戦略の方向性を導き出す手法です。両者を組み合わせることで、より多角的な経営戦略を立案できます。

プロダクトポートフォリオマネジメントは古い手法ですか?

1970年代に提唱された歴史ある手法ですが、複数の事業を持つ企業が全体最適を図るための基本フレームワークとして現在も有効です。ただし、現代の複雑な市場環境においては、PPM単独ではなく、他の分析手法と併用して判断することが推奨されます。

中小企業でもPPM分析は活用できますか?

活用可能です。複数の製品やサービスを取り扱っている場合、どの事業に資金や人材を集中させるべきかを判断する指標となります。経営資源が限られている中小企業こそ、選択と集中を行うためにPPMの考え方が役立ちます。

PPM分析のデメリットや限界は何ですか?

事業間のシナジー効果(相乗効果)が考慮されない点や、財務的な視点に偏りやすい点が挙げられます。また、市場の定義の仕方によって分析結果が大きく変わる可能性があるため、客観的なデータに基づいた慎重な運用が必要です。

PPM分析はどのくらいの頻度で行うべきですか?

一般的には、中期経営計画の策定時や年度ごとの事業計画見直しに合わせて実施します。市場環境の変化が激しい業界では、半期や四半期ごとにモニタリングを行い、投資判断の修正が必要かどうかを確認することが望ましいでしょう。

まとめ

プロダクトポートフォリオマネジメント(PPM)は、企業が保有する複数の事業を「花形」「金のなる木」「問題児」「負け犬」の4つの象限に分類し、経営資源の最適配分を決定するための強力なフレームワークです。各事業の市場成長率と市場占有率を客観的に把握することで、撤退や投資の判断を論理的に行うことができます。

しかし、PPM分析を効果的に実践するためには、各事業部の売上、コスト、利益率といった正確なデータをリアルタイムに収集・統合する必要があります。部門ごとにデータが散在している状態では、分析に時間がかかるだけでなく、経営判断の遅れや誤りにつながるリスクもあります。

こうした課題を解決し、迅速かつ精度の高い経営判断を実現するためには、全社のデータを一元管理できるERP(統合基幹業務システム)の活用が不可欠です。ERPを導入することで、経営の「見える化」が進み、PPM分析に基づいた戦略的な資源配分をスムーズに実行できるようになります。

自社の事業ポートフォリオを最適化し、持続的な成長を目指すための第一歩として、まずはERPに関する情報収集から始めてみてはいかがでしょうか。