「自社のDXを推進したいが、どんなシステムやベンダーが最適なのか見当もつかない」
「複数のベンダーに声をかけたが、提案の前提がバラバラで比較できない」
新しいシステム導入を検討する際、多くの企業がこのような課題に直面します。この初期段階での情報収集の質が、プロジェクト全体の成否を左右するといっても過言ではありません。
その羅針盤となるのがRFI(情報提供依頼書)です。
本記事では、RFIとは何かという基本的な定義から、混同されがちなRFPとの違い、そしてシステム導入を成功に導くための戦略的な作成・活用方法まで、経営層やプロジェクト責任者が知っておくべき全てを網羅的に解説します。
この記事で分かること
システム導入プロジェクトを成功させるためには、初期段階での的確な情報収集が不可欠です。そのための重要なツールであるRFIについて、まずはその基本的な定義と目的を正しく理解しましょう。
RFI(Request for Information)とは、日本語で「情報提供依頼書」と訳されます。これは、企業が新しいシステムやサービスの導入を検討する初期段階で、発注先候補となりうるベンダーに対して、企業の基本情報、技術力、導入実績、提供可能な製品・サービスの概要といった客観的な情報を広く収集するために提示する文書です。
RFIの最大の目的は、まだ自社の要件が固まりきっていない段階で、市場にどのような選択肢が存在するのかを把握し、今後のプロジェクトの方針を固めるための意思決定の土台を築くことにあります。また、このプロセスを通じて、どのベンダーに具体的な提案を依頼(RFPを送付)するか、その候補を絞り込むためにも利用されます。
現代のビジネス環境は、クラウドサービスの普及により、システム導入の選択肢が爆発的に増加しています。特に、経営の根幹を支えるERP(統合基幹業務システム)のような領域では、従来のオンプレミス型からSaaS型まで、多種多様なソリューションが存在します。
このような状況下で、十分な情報収集を行わずにプロジェクトを進めてしまうと、自社の課題に合わないシステムを選んでしまったり、よりコストパフォーマンスの高い選択肢を見逃してしまったりするリスクが高まります。
RFIは、単なる「情報集め」ではありません。自社の現状を客観的に見つめ、市場の最新動向を把握し、プロジェクトの方向性を定めるための「戦略的な一手」なのです。特に成長企業にとっては、RFIを通じて得た情報を基に、将来の事業拡大を見据えた拡張性の高いシステム基盤を構想することが、持続的な成長を実現する上で極めて重要となります。
RFIと共によく使われる言葉に「RFP」「RFQ」があります。これらはシステム調達のプロセスで連携して使われますが、その目的とタイミングは明確に異なります。この違いを理解することが、適切なベンダー選定の第一歩です。
それぞれの文書の役割を、以下の表で整理してみましょう。
| RFI(情報提供依頼書) | RFP(提案依頼書) | RFQ(見積依頼書) | |
|---|---|---|---|
| 目的 | ベンダーの基本情報や市場動向を広く収集する | 自社の課題に対し、具体的な解決策(提案)を依頼する | 仕様が確定した製品・サービスに対し、価格(見積もり)を依頼する |
| タイミング | 企画・構想フェーズ(一番最初) | ベンダー選定フェーズ(RFIの後) | 価格交渉・最終決定フェーズ(RFPの後) |
| 内容の具体性 | 低(抽象的・網羅的) | 中(具体的・詳細) | 高(非常に具体的) |
| 主な質問内容 | ・企業概要、実績、技術力 ・製品/サービスの概要 ・業界の最新動向 |
・課題解決のための具体的な手法 ・システム構成、機能要件 ・プロジェクト体制、スケジュール |
・製品/サービスの価格 ・ライセンス費用、保守費用 ・支払い条件 |
| 提示する社数 | 多い(例:10~20社) | 中程度(例:3~5社) | 少ない(例:1~3社) |
このように、3つの文書は「情報収集(RFI)→ 提案依頼(RFP)→ 価格決定(RFQ)」という一連の流れの中で、それぞれの役割を担っています。いきなりRFPを作成するのではなく、まずRFIで市場の全体像を掴み、有望なベンダー候補を絞り込むことで、その後のRFPプロセスをより効率的かつ効果的に進めることができるのです。
RFIの作成には手間がかかりますが、その労力を上回る大きなメリットが存在します。ここでは、経営視点から見たRFI活用の4つのメリットを解説します。
自社だけで市場調査を行うには限界があります。RFIを活用すれば、複数のベンダーから体系立てられた情報を一度に、かつ効率的に収集できます。各社の回答を比較検討することで、最新の技術動向や業界の標準的な価格帯、多様なソリューションの存在などを短期間で深く理解することが可能になります。
RFIへの回答内容やその対応スピード、丁寧さなどから、各ベンダーの企業文化や得意領域、プロジェクトへの熱意などを垣間見ることができます。これにより、自社の文化や要件との相性が合わないベンダーを早い段階で候補から外すことができ、その後のRFPプロセスにおける時間と労力の浪費を防ぎます。
特にSaaS型ソリューションの評価において重要となるのが、TCO(Total Cost of Ownership:総所有コスト)の視点です。RFIの段階で、初期導入費用だけでなく、月額利用料、サポート費用、将来的な拡張費用などの料金体系について情報を収集することで、長期的な視点でのコスト感を早期に把握できます。これは、短期的な価格だけでなく、経営全体としての投資対効果を判断する上で不可欠な情報となります。
RFIは、一方的な情報要求の場ではありません。自社の課題やビジョンをベンダーに伝え、対話を開始する最初の機会です。この段階から丁寧なコミュニケーションを心がけることで、ベンダーは自社への理解を深め、より的確な情報提供や後の提案を行ってくれる可能性が高まります。将来の良きパートナーとなりうる企業との良好な関係を築く第一歩となるのです。
効果的なRFIを作成するためには、どのような情報を盛り込むべきでしょうか。ここでは、RFIに記載すべき必須項目を、書き方のポイントと共に解説します。
RFIに厳密なフォーマットはありませんが、一般的に以下の項目を網羅することで、ベンダーが回答しやすい、分かりやすい構成になります。
以下、各項目の書き方を具体的に見ていきましょう。
このRFIが何の目的で発行された文書なのかを簡潔に説明します。
自社がどのような事業を行っている企業なのかを簡潔に紹介します。これにより、ベンダーは業界特性などを踏まえた情報提供がしやすくなります。
なぜこのプロジェクトを検討しているのか、その背景と目的を伝えます。課題を具体的に記述することで、ベンダーはより的を射た情報を提供できます。
ここがRFIの核となる部分です。ベンダーからどのような情報を得たいのかを、質問形式で具体的にリストアップします。
【依頼項目サンプル】
回答の提出期限や提出方法、問い合わせ先などを明記します。
記載項目例:
RFIは作成して終わりではありません。その後の活用方法が、プロジェクトの方向性を大きく左右します。ここでは、RFIを最大限に活用し、失敗を避けるためのポイントを解説します。
RFI作成時によくある間違いが、現在の業務プロセスを基準に情報を集めようとすることです。しかし、それでは既存の非効率な業務を新しいシステムで再現してしまうだけになりかねません。
特にSaaS型ERPの導入を検討する場合、「Fit to Standard」、つまりシステムの標準機能に自社の業務を合わせていくという考え方が成功の鍵となります。
RFIの段階では、「自社のこの特殊な業務は実現可能か?」と問うのではなく、「業界のベストプラクティス(標準的な優良業務プロセス)はどのようなものか?」「貴社の標準機能を使えば、我々の業務はどう変わる可能性があるか?」といった視点で情報を収集しましょう。これにより、システム導入をきっかけとした業務改革のヒントを得ることができます。
収集した情報は、客観的な基準で評価する必要があります。事前に「評価シート」を用意し、「実績」「機能の方向性」「コスト感」「サポート体制」といった評価軸と、それぞれの重み付けを決めておくと良いでしょう。
各社の回答を評価シートに転記し、点数化することで、感覚的な判断ではなく、データに基づいた比較検討が可能になります。
RFIは、ベンダーを試すための「試験」ではありません。自社の課題解決を共に考えてくれるパートナーを見つけるための「対話の始まり」です。
回答内容に不明な点があれば、積極的に追加の質問をしたり、簡単な意見交換の場を設けたりすることも有効です。この対話を通じて、各ベンダーの課題理解度やコミュニケーションの質を見極めることができます。
RFIは、システム導入という長い旅の始まりに過ぎません。RFIで得た情報を基に、プロジェクトは次のステップへと進んでいきます。
RFIという最初のステップを丁寧に行うことが、このロードマップ全体をスムーズに進め、プロジェクトを成功に導くための確かな土台となるのです。
ここでは、RFIに関してよく寄せられる質問とその回答をまとめました。
一般的には10社から20社程度に送付するケースが多いです。あまりに少ないと市場の全体像を把握できず、多すぎると回答の比較・評価に膨大な時間がかかってしまいます。業界の主要ベンダーや、インターネット検索、展示会などで気になったベンダーをリストアップし、バランスの取れた数に絞り込むのが良いでしょう。
ベンダーによっては、リソースの都合や自社の戦略との不一致などから、RFIへの回答を見送る場合があります。これはある程度仕方のないことです。提出期限を過ぎても回答がない場合は、一度確認の連絡を入れてみるのは良いですが、深追いはせず、回答を寄せてくれた他のベンダーの評価に集中しましょう。
RFIの段階では、「概算費用」や「価格体系」について質問するのが一般的です。詳細な見積もりはRFPのフェーズで依頼するため、ここでは「初期費用はどのくらいか」「月額費用のモデルはユーザー数課金か、機能ごとの課金か」といった、大まかなコスト感を把握することが目的です。
はい、作成可能です。RFIで重要なのは技術的な詳細よりも、「自社がどのような課題を持っていて、どのような情報を知りたいのか」を明確に伝えることです。本記事で紹介した項目を参考に、まずは自社の状況を整理することから始めてみてください。技術的に不明な点は「貴社の推奨する構成は?」といった形で、ベンダーの知見を問う質問にするのも一つの手です。
ベンダーが質の高い回答を準備できるよう、RFPを提示してから回答期限までは最低でも2週間、できれば3~4週間程度の期間を設けるのが一般的です。複雑な内容を問う場合は、それに応じて十分な期間を設定することが、結果的に有益な情報を得ることに繋がります。
本記事では、RFI(情報提供依頼書)とは何か、その目的やRFPとの違い、そして具体的な作成方法と活用法について詳しく解説しました。
RFIは、数多くの選択肢の中から自社に最適なシステムとパートナーを見つけ出すための、羅針盤となる重要なプロセスです。特に、変化の速いSaaS型ソリューションを選定する上では、RFIを通じて市場の最新動向を正しく把握し、「Fit to Standard」の視点を持つことが成功の鍵を握ります。
この最初の情報収集のステップに時間と労力をかけることが、結果的にプロジェクト全体の手戻りをなくし、投資対効果を最大化することに繋がります。本記事を参考に、ぜひ戦略的なRFIの作成・活用に挑戦し、貴社のビジネスを加速させるシステム導入を実現してください。