「グローバルスタンダードとは何か。対応するとどんなメリットがあるのか。」
グローバルスタンダードは国際的な基準や規格のことです。グローバルスタンダードに対応することで、自社の競争力を示す効果やDXの推進、世間や取引先、投資家からの評価につながります。自社がグローバルスタンダードに対応するために必要な知識や見直すべき事項を確認しましょう。
グローバルスタンダードとは、国や地域を問わず広く受け入れられている国際的な基準や規格のことです。
グローバルスタンダードに則る製品やサービス、または業務運営をすることで、海外企業との取引やグローバル展開が円滑になる効果が期待できます。
この効果が生まれる背景として、グローバルスタンダードがない世界線を考えてみましょう。各国で言語、宗教、人種、土地柄などさまざまな要素が異なる中でも、企業は世界中の企業と競争や協力をしていく必要があります。
グローバルスタンダードがない状況では、企業間の取引において共通の前提条件がありません。そうなると、あらゆる場面で相互理解や調整のためのコストが必要です。例として、帳簿のつけ方や財務報告の形式が国ごとにバラバラであれば、国際的なM&A(合併・買収)や投資判断に膨大な時間と労力がかかります。
一方で、グローバルスタンダードが存在すれば、企業は同じ基準に基づいて情報を開示し業務を運営できます。これにより、取引先企業との信頼関係が築きやすくなり、ビジネスのスピードと透明性が大きく向上します。結果として、世界中の企業にメリットをもたらし、競争や協力が進みやすくなる効果が期待できます。
グローバルスタンダードに対応することで、国際的に見た場合でも、企業の信頼性や競争力の証明が可能です。
グローバルスタンダードは、大きく「デジュールスタンダード」と「デファクトスタンダード」の2つに分類されます。両者の違いを解説します。
デジュールスタンダードは、ISOやIECといった国際的な標準化機関によって正式に制定された規格のことです。
デジュールスタンダードは法的・制度的な裏付けがあることから、従うことで国際的な取引や技術連携において高い信頼性を得られます。逆にデジュールスタンダードに対応していなければ、取引をしてもらえないケースもあるでしょう。
デジュールスタンダードを制定するのは、政府機関や国際標準化機関などの正式な標準化機関です。専門家が集結し、文書化したものがデジュールスタンダードとなります。
デジュールスタンダードは国際市場での共通言語として機能することが特徴です。
デファクトスタンダードは、市場や利用者の間で自然と広まり、事実上の標準として受け入れられている製品、サービス、規格のことです。
デファクトスタンダードは標準化機関が定めたものではなく、市場やユーザー、業界の支持によって自然と決まります。特定の企業や製品が大部分のシェアを持つことで標準化されるケースが多いです。
デファクトスタンダードに従っていないから取引できない、という可能性はそれほど高くありません。しかし、従っていないことで「選ばれにくくなる」「業務上の非効率が生じる」などの不利な状況に陥る可能性は十分にあります。取引の円滑さや競争力の維持は企業が市場の優位性を確保するうえで重視すべき指標です。
デファクトスタンダードとして、暗黙の了解的に業界で事実上の標準となっている技術やシステムには、柔軟に対応していくことが重要となります。
グローバルスタンダードにはさまざまな分野の基準や規格が含まれており、業界や業務内容に応じて使い分けられています。デジュールスタンダードと、デファクトスタンダードの代表例を紹介します。
デジュールスタンダードの例として以下を紹介します。
ISO自体は、スイス・ジュネーブに本部を置く世界最大の標準化機関です。そのISOが定めた規格がデジュールスタンダードとして世界中で導入されています。
ISOが定めた規格は多くの業界で採用されており、品質・環境・情報セキュリティなど、あらゆる分野にわたります。
例えば「ISO 9001」は品質マネジメントシステムの国際規格であり、組織が継続的に製品やサービスの品質を改善する仕組みです。また「ISO 27001」は情報セキュリティ管理に関する国際規格として、企業のリスク管理体制を評価する際の指標となっています。
IEC自体は、電気・電子技術分野の国際規格を策定する機関です。IECが定めた規格がデジュールスタンダードとなっています。
IECはISOと連携しながら、電気機器の安全性や性能に関する国際的な規格を定めています。
例えば、医療機器のソフトウェア開発に関する「IEC 62304」は、開発プロセスにおける品質と安全を確保するための規格です。また「IEC 61508」は産業用制御システムにおける機能安全を規定しており、自動車や化学プラントなど高い安全性が求められる分野で重要視されています。
IECが定めた規格は国際取引や製品認証の大半の場面で求められます。
デファクトスタンダードの例として以下を紹介します。
SAP自体は、ドイツに本社を置くソフトウェア企業です。SAPが提供するERPソリューション(基幹業務システム)がデファクトスタンダードとなっています。
SAPが提供するのは財務、人事、調達、生産管理などのバックオフィス業務を統合的に管理できるソリューションです。現在、世界中の大企業に導入され、事実上の業界標準となっていることからデファクトスタンダードとしての地位を固めています。
特にグローバルに展開する企業にとって、SAPソリューションは各国の会計基準や税制、業務プロセスに柔軟に対応できることが強みです。公式に規格ではありませんが、機能性や利用実績によってデファクトスタンダードとされています。
PDF(Portable Document Format)は、アドビシステムズが開発した電子文書フォーマットです。
PDFは文書のレイアウトを保持したまま共有でき、閲覧環境に依存しにくいという特徴から、業界・業種を問わず広く利用されています。現在では国際標準(ISO 32000)となっており、デジュールスタンダードとなっていますが、もともと市場ではデファクトスタンダードの扱いでした。
PDFは契約書、報告書、マニュアルなど、多くのビジネス文書で使われており、グローバルなビジネス環境でも必須のフォーマットです。
自社がグローバルスタンダードに対応すべき理由として以下があります。
グローバルスタンダードに対応すべき理由として、国外に目を向けた競争力強化につなげることが挙げられます。
国内だけでなく、グローバル市場で事業を展開するには、各国の取引先やパートナーと共通の基準で業務しなければなりません。グローバルスタンダードに対応することで、信頼性の証明はもちろん、ビジネス障壁を下げて取引をスムーズに進められます。
特にグローバルスタンダードに対応するべきなのはバックオフィス業務(会計・財務・人事など)です。これらの業務は国や業界を問わず共通性が高く、標準化による効率化が見込めます。
グローバルスタンダードへの対応は、自社が国内外での信頼性を得るだけでなく、スムーズな海外進出にもつながる重要な一歩です。
DX(デジタルトランスフォーメーション)を進めるうえでも、グローバルスタンダードへの対応は不可欠です。
DX推進の内容は共通フォーマットや標準規格の採用が前提となっていることが多くあります。例として以下が挙げられます。
システム連携や自動化を実現する際にも、これらが採用されているシステムと連携することになるでしょう。グローバルスタンダードに対応しておくことで、システム上の連携がスムーズになります。このシステム上のスムーズな連携により、自社の業務効率化や、DXで目指す競争力強化も実現可能です。
グローバルスタンダードへの対応は、意識せずともDXの推進につながっていきます。
グローバルスタンダードへの対応は非財務情報の重要度を高めるためにも重要な要素です。
近年、投資家や市場は、売上や利益といった財務情報だけでなく、ESG(環境・社会・企業統治)などの非財務情報にも注目しています。これらの情報の正確な開示や、適切な企業評価をされるためには、共通の基準に基づいた報告体制が必要です。体制を作るためにグローバルスタンダードへの対応がよりよい実現方法となります。
非財務情報の評価向上は、国内外の投資家や顧客から高い企業評価を得やすくなります。今後、非財務情報がより重要視される可能性が高いため、グローバルスタンダードへの対応は大きなメリットです。
グローバルスタンダードへの対応は、単に外部の基準に従うだけではありません。自社がグローバルスタンダードに対応するためにできることとして以下があります。
属人化、対面主義、紙文化など、古くからある日本の働き方の慣習から脱却することがグローバルスタンダードの対応において重要です。
これらの慣習は、業務の効率化や標準化を妨げる要因となります。例えば、対面での承認や紙による文書管理に依存していると、テレワークや海外拠点との連携に対応できません。
グローバルスタンダードに対応するには、オンライン化を前提とした柔軟な働き方にシフトし、誰が担当しても再現性のある業務体制を整えることが求められます。
業務の標準化とデジタル化は、グローバルスタンダードに対応するうえで重要です。
グローバルスタンダードに則ることで業務が標準化されることもありますが、まずは自社内での業務プロセスの見直しから進めましょう。
例えば、部門ごとに異なるシステムを使用していたり、同じ業務でも手順がバラバラだったりするケースは少なくありません。プロセスを共通化し、ITツールによる自動化を組み込むことで、再現性の高い効率的な業務運営が可能となります。
標準化とデジタル化の取り組みが、結果としてグローバルスタンダードに準拠した体制の構築につながります。
グローバルスタンダードへの対応として、デジュールスタンダードとなっている国際規格への準拠が不可欠です。
ISOやIECなど、デジュールスタンダードは意識せずに満たせるものではありません。各分野における国際規格に準拠することは、グローバルスタンダードに適合した企業としての信頼を高めるうえで非常に効果的です。
デジュールスタンダードへの準拠は、社内体制や業務ルールを見直すきっかけにもなります。一度対応することで、今後の国際取引や新市場への参入に優位性を高めることが可能です。
先述したグローバルスタンダードへの対応に加えて、企業がグローバルスタンダード対応する際に解決すべき問題点として以下が挙げられます。
日本企業の独特の伝統がグローバルスタンダード対応への足かせとなります。
足かせとなるのは年功序列や終身雇用、横並び意識などの日本の企業文化です。これらの価値観は、国際基準が求める透明性・成果主義・多様性といった考え方と相容れない場合が多くあります。
これらは社内意思決定の遅さや、失敗を避ける風潮につながり、新しい基準やシステムへの柔軟な対応を難しくしています。日本企業の独特な文化により、グローバルスタンダードへの対応が後回しにされ、変化に乗り遅れてしまうケースが少なくありません。
企業のリソース不足もグローバルスタンダード対応において足かせとなります。
グローバルスタンダードへの対応には、多くの準備や投資が必要です。
例として、以下が求められます。
特に中小企業にとっては、時間的・人的・資金的なリソースの確保が大きな壁となります。専門知識を持った人材の確保が難しく、外部コンサルティングやツールへの依存度が高まる可能性もあるでしょう。
リソース不足が原因で、「ツール導入をしただけ」にとどまるリスクが生じます。
グローバルスタンダードへの対応は、必ずしも明確な基準が用意されているわけではなく、不確実性の高い課題に向き合うことを意味します。
「グローバルスタンダード」と一口にいっても、その内容や基準は分野によって異なります。特にデファクトスタンダードは、正式に規格化されたものではないこともあり、何を基準に自社を変えていくべきか、正確な判断を下すことが難しいです。
また開発やマーケティング、商品設計などの競争領域は独自性を高めることが必要なため、グローバルスタンダードに寄せすぎないことが大切な場合もあります。グローバルスタンダードに寄せすぎると独自性がない製品、サービスとなってしまい、競争力を失う可能性もあるためです。
国や市場、業界によって求められる基準が異なるため、どこに軸を置いて対応すべきか、方向性を定めること自体が大きなハードルとなります。
グローバルスタンダードは、国や地域を問わず広く受け入れられている国際的な基準・ルールのことです。グローバルスタンダードには国際機関が定めるデジュールスタンダードと、実質的な業界標準となっているデファクトスタンダードの2種類があります。
このグローバルスタンダードに対応することで、国際的な競争力を示し、国内外からの信頼性が高まります。
デファクトスタンダードとなっているSAPの導入で、自社のバックオフィス業務を国際標準に対応するところから始めてみましょう。