個別のシステム運用に負担を感じていませんか?システム統合により個別に運用されているシステムやサービスを1つのシステムにまとめることが可能です。統合により業務効率の向上や迅速な経営判断が行えるメリットが期待できます。本記事ではシステム統合のメリット・進め方から成功事例までを紹介します。
システム統合とは企業内で個別に運用されている複数のシステムやサービスを統合・連携させることです。
経済産業省が発表した「2025年の崖」では、既存システムにおける以下の問題がDX(デジタルトランスフォーメーション)推進の足かせと指摘されています。
参考:DXレポート ~ITシステム「2025年の崖」克服とDXの本格的な展開~(経済産業省)
個別のシステムが乱立している状況は、企業全体の成長を妨げる要因となり、システム統合による解決が求められているといえるでしょう。
既存システムがもたらすさまざまな問題を解消するために、大企業だけでなく中小企業でもシステム統合の必要性が注目されています。具体的には、データのサイロ化による業務効率の低下、迅速な意思決定の阻害といった問題です。これらを解消するため、ERP(統合基幹業務システム)に注目が集まっています。
システム統合は業務効率向上のほかに、社内全体の業務プロセス統一、特定の従業員スキルに依存した属人性の解消も期待できます。
これにより、誰が担当してもある程度の業務品質を維持できるようになり、ジョブローテーションや緊急時の要員代替といった柔軟な人員配置が可能です。結果的に働き方改革にもつながるでしょう。
システム統合は属人化から脱却し、変化に強い組織体制を構築する効果も併せ持つのです。
近年、システム統合を進めるうえで「Fit to Standard」という考え方が注目されるようになりました。
Fit to Standardとは、業務プロセスをパッケージの標準機能に合わせていく方式です。
主なメリットは以下のとおりです。
一方で、以下のデメリットも存在します。
標準機能での運用が難しい場合はカスタマイズを検討することになりますが、カスタマイズは将来的なブラックボックス化のおそれがあります。
カスタマイズを必要最小限に抑えることが、Fit to Standardの恩恵を最大限に活かすうえで望ましいといえるでしょう。
システム統合を検討する際はメリットとデメリットを十分に比較検討することが重要です。主なメリットとデメリットは以下になります。
システム統合の最大の特徴は、各部門に分散していた情報を一元的に管理できるようになる点です。
一元化によるメリットは以下のとおりです。
メリット | 理由 |
業務効率化 | 情報検索の迅速化と円滑な業務連携ができる |
迅速な意思決定 | 市場の変化や経営課題を素早く確認できる |
ミスの軽減 | 複数のシステムに同じような情報を転記する必要がなく、入力ミスが発生しにくい |
情報コストの削減 | データの連携作業や整合性確認が不要 |
例えば、営業部門が受注した案件情報がリアルタイムで生産部門や経理部門に連携されれば、生産計画の迅速な調整や正確な売上計上が可能になります。
システム統合は競争の激しいビジネス環境において、企業が持続的に成長していくための重要な基礎となるでしょう。
システム統合は多くのメリットをもたらしますが、一方で以下のようなデメリットが発生します。
デメリット | 理由 |
コストがかかる | 統合のための初期費用や運用費用といったコストがかかる |
業務プロセスが変更になる | パッケージ標準の採用により業務プロセスが見直しになる場合がある |
不具合が発生する | 操作に慣れていないことによるミスや、システム間の連携部分でのトラブルの可能性がある |
セキュリティ対策が不可欠 | セキュリティインシデントが発生した際の影響範囲が大きくなる |
特に業務プロセスの変更は、企業全体で見れば最適化された結果であっても、一部の部門や担当者にとっては手間が増えるケースもあり得ます。
デメリットを把握し、事前に対策を講じておくことが、システム統合を成功させるための不可欠な要素といえるでしょう。
システム統合を成功に導くためには計画的かつ段階的なアプローチが不可欠です。
思いつきや場当たり的な対応では期待した効果が得られないばかりか、現場の混乱を招きかねません。システム統合を効果的に進める方法は以下のとおりです。
システム統合に取り組むにあたり、「何のためにシステム統合を行うのか」という目的と、現状の「何を解決したいのか」という課題の明確化が重要です。
この目的と課題が明確になっていなければ、システム統合の方向性が定まらず迷走する恐れがあります。目的と課題を明確にすることで目指すべきゴールが共有され、関係者全員が同じ方向を向いて取り組むことができます。
この初期段階での丁寧な課題の掘り下げと目的の共有が、システム統合の成否を大きく左右するでしょう。
次に、現行の業務プロセスを詳細に分析し、各部門の業務フロー、使用しているシステム、データの流れなどを洗い出し可視化します。
可視化により、現状の業務がどのように行われているのか、どこに非効率な点や問題点が潜んでいるのかを把握できます。
この現行の業務プロセスの分析は次のステップである「要件の明確化」において、新しいシステムが満たすべき具体的な機能や性能を定義するための重要なインプットです。
丁寧な現行の業務プロセスの分析により改善点を具体的にイメージすることで、的確な要件定義、そして効果的なシステム統合へとつながります。
「現行の業務プロセスの分析」結果を踏まえ、システム統合によって実現したい「あるべき姿」を具体的に定義するステップが「要件の明確化」です。
重要な点は、これまでの部門ごとに最適化されたシステムの発想から脱却し、企業全体として効率的な業務プロセスを再構築する視点を持つことです。
「今までの個別システムは個別の業務では効果的であったが、今後は全体の最適化を優先するためにパッケージの業務プロセスに合わせる」といった戦略的な取捨選択が不可欠になります。
システムは「導入」がゴールではありません。従業員一人ひとりがシステムに習熟し、日々の業務に定着してはじめてその効果が生まれます。
システム選定では単なる機能・コスト比較ではなく、ベンダーのサポート体制、将来性、自社の業種・業態との適合性などを多角的に比較検討しましょう。
操作方法を教えるだけの研修ではなく、サポート体制を整備したりヘルプデスクを立ち上げたりして、従業員が「新システムで業務が楽になった」と実感できるように支援するとよいでしょう。
導入後もシステムの利用状況や効果を測定し、定期的な見直しが必要です。
利用者からのフィードバックを積極的に収集・分析することで、使いやすく効果的なシステムへと改善していくことができます。この見直しはシステムを変更するだけでなく、場合によっては業務プロセスそのものを見直す機会となります。
また、利用者からのフィードバックや改善要望を放置してしまうと、標準化した業務プロセスから外れて独自の運用を始めかねません。
フィードバックを受けてシステムや業務プロセスに取り込んでいくことが、システム統合の効果を持続させるうえで不可欠といえます。
システム統合は大きな変革をもたらしますが、以下の注意すべき点があります。
システム統合は単なるIT部門の課題ではなく、企業全体の経営戦略に関わる重要なプロジェクトです。
現場だけでなく経営層も関与し、全社一丸となって最適化していくという体制づくりと、全社への周知が重要になります。
システム統合プロジェクトを推進するにあたり、以下の妥当性を確認するとよいでしょう。
特に推進体制の妥当性については、業務に精通している人員がアサインされていなければ効果的な業務改善が望めません。
また、現場からは必要という要望があっても、実際にはほとんど利用されなかったり費用対効果の低かったりする機能はあえて実装しない判断も必要です。
これにより、過剰な実装を防ぎ、結果としてコスト超過やスケジュール遅延などのリスクを未然に防止することにつながります。
経営層を含む有識者でレビューし、要件の必要性や重要性、コストや納期への影響範囲、全社最適化に合致するかなどを総合的に判断することが重要です。
システム統合においては、既存システムに蓄積されたデータを新しいシステムへ移行する作業が発生します。このデータ移行は、プロジェクトの中でも特に時間とコストがかかり、注意を要するポイントの1つです。
すべてのデータを移行するのではなく、新しいシステムで必要なデータのみを移行対象とすることが望ましいでしょう。
新システムで利用しないデータを移行しないほうがよい理由は以下のとおりです。
移行しないデータについては、万が一の参照に備えてアーカイブとして別途保管するか、一定期間だけ旧システムを参照可能な状態で残しておく対応が現実的です。
移行するデータを取捨選択し、移行範囲を適切に定めることが、新システムの安定稼働につながります。
システム統合における移行アプローチとして、すべての業務システムを1度に切り替える「ビッグバン方式」と、段階的に移行を進める「段階的移行方式」の2つが主に考えられます。
いずれの方式が最適かは、統合対象システムの規模、複雑性、許容できるリスクの度合いなどによって異なりますが、多くの場合は段階的移行方式の方が低リスクと考えられています。
段階的移行方式のメリットは以下のとおりです。
ただし、以下のデメリットも存在します。
特に、事業の根幹をなす基幹システムの刷新においては、このデメリットを許容してでも段階的移行による着実な成功を選ぶ価値は十分にあるといえるでしょう。
本章では、システム統合により業務改革に成功した事例を紹介します。
「ガリガリ君」で知られる赤城乳業株式会社は、場当たり的なシステムの乱立とデータのサイロ化により、次のような課題を抱えていました。
トップダウンによる推進体制のもと、この課題に対しERPの導入とテンプレートの活用による標準化(Fit to Standard)を進め、以下の成果を達成しました。
この改革により、社内システムが最適化され、売り上げが2倍に増えたにもかかわらず不動在庫を1/4〜1/5程度に減らすことに成功しています。
この改革は「勘と経験」に頼る経営から脱却し、「データに基づき判断する仕組み」を実現した好例といえるでしょう。
日本一小さな村から世界一を目指すファインネクス株式会社は、主力製品の消滅という経営危機に加え、部門システムの乱立とデータの分断により、次のような課題を抱えていました。
社長のトップダウンによる推進体制のもと、世界標準のベストプラクティス活用による業務標準化(Fit to Standard)を進め、以下の成果を達成しました。
この改革により長期滞留品を1/3に削減するだけでなく、新しい事業の柱となる注力製品の転換に成功しています。
この事例は、データに基づく「選択と集中」を可能にした抜本的な経営改革の好例といえるでしょう。
80年以上の歴史を持つみがき棒鋼メーカーの小木曽工業株式会社は、システムの個別最適化とデータの分断により、次のような課題を抱えていました。
会長のトップダウンによる推進体制のもと、若手社員を中心としたプロジェクトメンバーを編成し、徹底した標準化(Fit to Standard)を進めた結果、以下の成果を達成しました。
正確なデータから適切な戦略を立てる構造が完成し、少ない人員で過去最高の売上を達成しつつ、新規取引を開拓するなど、企業の収益性を大きく向上させることに成功しています。
この改革は、標準化により「競合他社との明確な差別化」に成功した事例といえるでしょう。
システム統合は業務効率の向上、迅速かつ正確な経営判断の実現、そして競争力の強化につながる有効な業務改善策です。
特に、部門最適化されたシステムが乱立し、情報連携に課題を抱えている企業にとって、企業情報を一元管理し、経営の見える化を促進するという大きなメリットをもたらします。
システム統合にはコストや手間がかかり、注意すべき点も少なくありませんが、企業戦略の達成に重要な一歩となるでしょう。
システム統合の検討をおすすめします。