システムの老朽化は業務効率の低下やセキュリティリスクといった課題を生み出します。急速に変化するビジネス環境に対応するためには、課題の解消が必要です。本記事では、システム老朽化の概要から課題、老朽化の対策方法や進め方を解説します。
システムの老朽化・陳腐化とは、企業に導入されてから時間が経過したことで、現在の技術水準やビジネス環境に適さなくなった状態を指します。
長年にわたるカスタマイズの結果、正確な変更内容が不明になっている「レガシーシステム」は多くの企業で課題です。
経済産業省の「DXレポート」の中で、これらのレガシーシステムを放置した場合、最大で12兆円/年もの経済損失が生じると指摘しています。
また、関連調査では約7割の企業が「レガシーシステムがDXの足かせになっている」と回答。
もはやシステムの老朽化は、単なる情報システム部門の課題ではなく、企業の競争力そのものを左右する「経営課題」といえるでしょう。
参考:DXレポート ~ITシステム「2025年の崖」克服とDXの本格的な展開~(経済産業省)
老朽化したシステムが抱える最大のリスクは、ビジネス環境の変化に対応できなくなることです。老朽化したシステムが足かせとなり、高度化・巧妙化するサイバー攻撃への対応が難しくなるだけでなく、迅速な業務改革の妨げになります。ここでは、システム老朽化の課題を解説します。
老朽化したシステムは、業務効率を低下させる原因となります。
システムが部門最適化を目的にしているため、システム間で連携しておらず、同じようなデータを何度も別々のシステムに入力する手間が発生するためです。
このような非効率な作業は従業員のモチベーションを低下させるだけでなく、本来注力すべきコア業務の時間を奪うため、企業全体の競争力を低下させる要因といえるでしょう。
OSやベンダーによる保守サポートには期限があり、サポート期間が終了すると新たな脆弱性が発見されても修正プログラムが提供されなくなります。新たなサイバー攻撃が発生しても対応できずに、企業の機密情報や顧客の個人情報が漏えいするリスクがあり危険です。
また、度重なるカスタマイズ部分には、ベンダーのサポートが及ばない未知の脆弱性が潜んでいる可能性があります。
老朽化したシステムは、企業の信頼を揺るがしかねないセキュリティリスクを抱えているといえるでしょう。
老朽化したシステムは、運用保守コストを目に見えないところで増大させます。
古いハードウェアは保守サポートが切れていることが多く、故障のたびに修理費用や交換費用が発生するためです。また、長年にわたる独自のカスタマイズがシステムを複雑にし、わずかな修正や法改正への対応にも多大な時間と費用がかかるようになります。
老朽化したシステムは企業の利益を圧迫し、企業の競争力を低下させる危険な要因といえるでしょう。
現在、IT人材の不足が深刻な社会問題となっています。企業は、その人材不足の中でレガシーシステムをメンテナンスしなければなりません。
古いプログラミング言語や特殊な技術で構築されたシステムは、現在の若い技術者が学習する機会が少なく、扱える人材はベテランに限られます。今後、老朽化したシステム仕様を理解している人材がリタイアしていくと、その知識やノウハウが失われ、システムの運用や改修が困難です。
また、システムのベンダー側でも同様に、古い技術を扱える人材のリタイアにより十分なサポートが受けられなくなるおそれがあります。
これは単なる保守の問題ではなく、障害発生時に事業が停止するリスクと事業環境の変化に合わせた迅速なシステム更新が望めないという、成長機会の損失といえるでしょう。
システムの老朽化は、経営の意思決定のスピードを鈍化させる一因です。
各部門のシステムにデータが分散して保存されていると、全社の経営状況を把握するために必要な情報を集めるのに時間がかかります。例えば、正確な売上や在庫のデータをリアルタイムで確認できないため、市場のチャンスを逃したり、過剰在庫を抱えたりするリスクが生じます。
迅速なデータ分析に基づいた経営判断ができないことは、機会の損失を招き企業の成長を妨げる大きな足かせとなるでしょう。
システムの老朽化に気づいていても、どのタイミングで対策に踏み切るべきか判断に迷うことも少なくありません。ここでは、老朽化対策を始めるべき代表的な3つのタイミングを紹介します。
ベンダーが提供する保守サービスの停止は、対策を講じるべきタイミングの1つです。保守サポートが終了すると、システムの不具合や障害が発生しても公式なサポートを受けられなくなります。
また、セキュリティ上の脆弱性が発見されても修正プログラムが提供されず、サイバー攻撃に対処できません。
保守サービスの停止は重大なトラブルや情報漏えいにつながり、事業継続を阻害する要因です。
ビジネス環境の変化に既存システムが対応できない場合も、老朽化対策のタイミングです。
近年、ビジネス環境は生成AIなどの技術革新、顧客ニーズの多様化、働き方改革などにより大きく変化しており、業務プロセスも変化が求められています。
しかし、業務効率化を目的として新しいシステムを導入しようとしても、既存システムとデータ連携ができなければ十分な効果が得られません。データ連携ができないということは、同じ情報を二重入力する作業が発生することを意味します。
本来削減すべき作業を増やすだけでなく、従業員のモチベーション低下や入力ミスを誘発する大きな原因となります。
このシステムと業務の不一致は、対策を講じるべき明確なサインです。
システムのトラブル対応を行える人員が不足したときも、老朽化対策を検討すべきタイミングです。
長年システムを担当してきたベテラン社員の退職により、システムの内容がわかる人がいなくなる事態は深刻なリスクです。また、保守を委託している外部のベンダーも同様で、十分なサポートが受けられなくなるケースも想定されます。
安定した運用体制を維持できない状態は、システムが限界を迎えている証です。
システムの老朽化に対する具体的な対策には、大きく分けて2つの選択肢があります。
いずれの方法を採用するかは、自社の状況に合わせて以下の内容を検討する必要があります。
既存システムの改修は、現在の業務プロセスを大きく変える必要がない点が最大のメリットです。
慣れ親しんだシステムをベースにするため、従業員の抵抗感が少なく、新しいシステムとの連携といった課題解決が期待できます。
しかし、既存システムの改修には以下のデメリットがあります。
既存システムの改修は根本的な問題解決ではなく、あくまで延命措置と考えた方がよいでしょう。
システムの老朽化がもたらす課題を根本的に解決するためには、「新システムの導入」が有効な選択肢です。最新の技術を基盤としたシステムは、セキュリティを強化し、業務効率の向上が期待できます。
新システムの導入には、特定の業務に特化した「個別パッケージシステム」と、企業全体の情報を一元管理する「統合型パッケージシステム」の2つのアプローチが考えられます。
解決できる課題の範囲や導入後の効果は以下のとおりです。
個別パッケージシステムとは、会計、販売、人事など、特定の業務領域に特化して開発されたソフトウェアです。
その分野の専門的な機能が豊富に備わっているため、導入した業務領域の課題は解決しやすく、業務効率を大きく向上できるでしょう。
個別パッケージを導入する際は以下の注意点があります。
老朽化したシステムからは脱却しても、過剰なカスタマイズによって新たなレガシーシステムになっては意味がありません。
なるべくカスタマイズは行わずに、標準的な機能を用いた運用が望ましいといえるでしょう。
統合型パッケージシステムは、さまざまな業務情報を1つのシステムで管理する考え方です。
統合型パッケージシステムのメリットは以下のとおりです。
デメリットは以下のとおりです。
個別業務で最適にならない場合、該当部署の従業員から「効率が悪くなった」「手間が増えた」といった不満につながるおそれがあります。
全体として大きな利益を得るには必要なプロセスであることを丁寧に説明し、理解を促す必要があるでしょう。
関連記事:システム統合とは?統合のメリット・進め方から成功事例までを紹介
システムの老朽化対策を成功させるには、計画的なプロセスを経ることで失敗のリスクを低減できます。対策を具体的に進めるステップは以下のとおりです。
最初に行うべきは、現状のシステムにおける課題を具体的に洗い出すことです。
「業務効率が悪い」「コストが高い」といった漠然とした問題意識だけでは、以降のステップで具体的な対策が策定できません。「どの業務の、どのプロセスに、どれくらいの時間がかかっているか」「保守費用の内訳はどうなっているか」など、定量的・定性的に課題を可視化します。
ここで明確になった課題リストが、今後の対策の方向性を決めるためのインプットとなるため、非常に重要な工程です。
次に、洗い出した課題をふまえ「何を実現したいのか」という目的を明確にします。
例えば、「全社の販売・在庫・財務データを一元化し、月次の経営会議に必要なデータ作成期間を3週間から1日に短縮する」といった具体的な目標設定です。この目的が後の対策方法の選定や、導入後の効果測定の重要な基準となります。
プロジェクトを成功に導くために、経営層から現場の従業員といった、関係者全員で目的意識を共有することが重要です。
課題と目的が明確になったら、具体的な対策方法を検討します。
まずは、部分的な「システム改修」で対応するのか、全面的な「新システム導入」を目指すのかを決定します。システム改修を選択した場合は、いつまでこのシステムを利用するのか検討が必要です。システム刷新を選択した場合は、次にどのシステムを利用するかを選定する段階に入ります。
各システムの機能、コスト、導入期間などを比較するだけでなく、将来の事業拡大や環境変化にも対応できるかといった長期的な視点での判断が重要です。
対策方法が決まったら、実際の導入・改修フェーズに移ります。
システム改修の場合は以下に注意する必要があります。
特に、ドキュメントの作成はシステムのブラックボックス化を防ぐための必須項目です。
新システム導入の場合は、以下に注意する必要があります。
導入後のサポートが不十分な場合、「使いづらい」と評価され現場で独自の運用になるおそれがあります。
導入後の丁寧なサポートと定着支援こそが、プロジェクトの成否を分けるポイントです。
システムは導入して終わりではありません。導入後、設定した目的が達成できているかを定期的に測定し、評価・改善の実施が重要です。もし効果が不十分な場合は、原因を分析しシステムの追加設定や業務プロセスの見直しといった改善活動を継続的に行います。
このPDCAサイクルを回し続けることで、システムはビジネスの変化に合わせて進化し、企業の競争力を維持できるでしょう。
ファインネクス株式会社では、主力製品であるコンピュータのCPUで使われるPGAピンが今後使用されなくなるという危機に直面していました。
次期商品を開発しようとしても、システムは部門ごとに分断・老朽化しており、製品ごとの正確な損益データが存在せず、次の戦略を立てるための経営判断ができない状態だったのです。
この経営課題を解決するため、同社は会計から生産までを一元管理できる統合型パッケージシステム(ERP)の導入をトップダウンで決断しました。特に注力したのは、「業務にシステムを合わせるのではなく、業務プロセスをシステムに合わせる」という方針を徹底した点です。
対策の結果、製品別の損益をリアルタイムで可視化できるようになり、データに基づく迅速な経営判断が可能になりました。次期主力商品の転換と全社的な生産性向上を達成したのです。
トップダウンの方針のもと、各部門が「自部署の最適」から「全体の最適」へと視点を変え、業務プロセスの標準化に成功した好例といえるでしょう。
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老朽化したシステムは、業務効率の低下やコスト増大、セキュリティリスクといった深刻な問題を引き起こします。これらの課題を解決する対策には、既存システムの改修や新システムの導入がありますが、根本的な解決を目指すならシステム刷新が有効です。
特に、データが一元管理され、全社的な業務効率化が図れる統合型パッケージシステムは、現代のビジネス環境において有効な選択肢です。
システムの老朽化という課題に対し、将来の成長に向けた一歩として対策を検討してみてはいかがでしょうか。