【動画】SAP DXセミナー ~先ずはここから。間接業務の クイックウィン ホールウィン 全社的なDXの先行成功体験~

調達戦略の策定手順とフレームワーク|コスト・リスク・ESGを最適化する経営アプローチ

 クラウドERP導入ガイド編集部

調達戦略の策定手順とフレームワーク|コスト・リスク・ESGを最適化する経営アプローチ

原材料価格の高騰、為替の乱高下、地政学リスクによるサプライチェーンの分断、そして脱炭素をはじめとするサステナビリティへの要請――。企業を取り巻く調達環境は、かつてないほど複雑化し、不安定になっています。

かつてのように「決まったものを安く買う」だけの受動的な購買活動では、企業の利益を守り抜くことはおろか、事業継続すら危ぶまれる時代となりました。いま、成長企業に求められているのは、現場任せの「購買」から、経営視点に基づいた「戦略的調達」への転換です。

本記事では、調達戦略の定義や重要性、策定に役立つフレームワーク、そして戦略を絵に描いた餅にせず、確実に実行するためのシステム基盤(ERP)について、経営層および経営企画部門の方々に向けて詳しく解説します。

この記事でわかること

  • 調達戦略の定義と、経営における重要性
  • 現代の調達が直面する「コスト・リスク・ESG」の3つの課題
  • 「Kraljicマトリックス」を活用した品目別戦略の立案
  • 戦略的パートナーシップを築く「SRM」の重要性
  • 戦略を形骸化させないためのデータ基盤(ERP)の役割

調達戦略とは?経営における重要性と「購買」との違い

「調達戦略」という言葉を聞いたとき、単なる「値引き交渉の計画」や「仕入先のリストアップ」をイメージしていないでしょうか。まずは言葉の定義を明確にし、なぜ今、経営層が調達に深く関与すべきなのかを解説します。

調達戦略の定義と目的

調達戦略とは、企業の経営目標(利益最大化、事業継続、ブランド価値向上など)を達成するために、必要なリソース(モノ・サービス)を「どのサプライヤーから」「どのような条件・関係性で」「どのような手法を用いて」調達するかを定める中長期的な方針のことです。

その目的は、単なる購入価格の低減(QCDの最適化)だけではありません。技術革新の取り込み、サステナビリティへの対応、そして供給リスクの最小化を含めた「総合的な企業価値の向上」を目指す点に本質があります。

オペレーショナルな「購買」とストラテジックな「調達」の違い

実務の現場では混同されがちな「購買」と「調達」ですが、戦略的な観点では明確に区別されます。

  • 購買(Purchasing):
    日々の発注、納期管理、検収処理、支払管理といった「定型的なオペレーション業務」を指します。効率性と正確性が求められる領域です。
  • 調達(Procurement):
    サプライヤーの選定・評価、価格交渉、契約締結、市場分析といった「戦略的なソーシング業務」を含みます。購買の上位概念であり、経営判断が求められる領域です。

調達戦略を策定するということは、日々の「購買」業務を、経営に直結する「調達」へと昇華させるプロセスでもあります。

成長企業に調達戦略が必要な理由

特に成長企業において調達戦略が重要視される理由は、大きく2つあります。

  1. 利益率へのダイレクトなインパクト
    製造業や卸売業において、売上原価(外部調達コスト)が売上高に占める割合は非常に大きいです。「調達コスト削減」は、売上を伸ばすことと同等、あるいはそれ以上に利益率改善への即効性を持ちます。
  2. 事業継続性(BCP)の確保
    特定のサプライヤーに依存しすぎている場合、その企業の倒産や被災が、自社の生産停止に直結します。リスクを分散し、強靭な供給網を築くことは、企業の存続に関わる重要課題です。
中堅成長企業におけるIT活用による業務改革
経験者が語る「ERPを通じた経営改革」SAP事例集 中堅中小企業版

現代の調達戦略で重視すべき3つの視点|コスト・リスク・ESG

現代の調達戦略は、単なる安値追求だけでは成り立ちません。経営層は、以下の3つの視点のバランスを取る「最適解」を見つけ出す必要があります。

TCO(総保有コスト)の最小化

「購入単価」を下げることは重要ですが、それだけでは不十分です。物流費、在庫保管費、品質不良による廃棄ロス、発注にかかる管理コストなどを含めた「TCO(Total Cost of Ownership:総保有コスト)」の視点で判断する必要があります。
例えば、単価が安い海外調達であっても、輸送費やリードタイムの長さによる在庫リスクを考慮すると、国内調達の方がTCOは安くなるケースもあります。

サプライチェーンの強靭化(リスク管理)

地政学リスクや自然災害に備え、サプライチェーンのレジリエンス(回復力)を高める必要があります。

  • マルチソーシング(複数社購買): 1社依存を脱却し、複数の供給元を確保する。
  • 在庫戦略の見直し: ジャストインタイム(JIT)の効率性だけでなく、有事に備えた戦略在庫を持つ。
  • サプライチェーンの可視化: 2次、3次サプライヤーまで把握し、ボトルネックを特定する。

サステナブル調達(ESG)への対応

環境(Environment)、社会(Social)、ガバナンス(Governance)への配慮は、もはや企業の義務です。CO2排出量の少ない部材の選定や、サプライヤーの人権問題(強制労働など)に対するデューデリジェンスが求められます。
「安いが環境負荷が高い」サプライヤーを選定することは、将来的なブランド毀損や取引停止のリスクに直結するため、ESGを考慮した選定基準の策定が不可欠です。

調達戦略策定に役立つ3つのフレームワーク

複雑な状況を整理し、客観的なデータに基づいて戦略を立案するために、グローバルスタンダードとなっている3つのフレームワークを紹介します。

Kraljicマトリックス(Kraljic Matrix)

1983年にピーター・クラルジック氏(Peter Kraljic)が提唱した、最も有名な調達ポートフォリオ分析の手法です。「利益への影響度(購入金額の大きさ)」と「供給リスク(代替の難しさ)」の2軸で、調達品目を以下の4つのカテゴリーに分類し、それぞれに適した「カテゴリー戦略」を立案します。

  1. 戦略品目(高利益影響・高リスク):
    エンジンの基幹部品や希少素材など。サプライヤーとの長期的パートナーシップ構築や、共同開発が基本戦略となります。
  2. ボトルネック品目(低利益影響・高リスク):
    金額は小さいが、これがないと製品が作れない特殊部品など。在庫を多めに持つ、代替品を探すなどの供給確保が最優先です。
  3. レバレッジ品目(高利益影響・低リスク):
    汎用的な原材料や電力など。供給元が多く代替が容易なため、「集中購買」や入札による競争原理を働かせ、コスト削減を狙います。
  4. ノンクリティカル品目(低利益影響・低リスク):
    事務用品や消耗品などの「間接材調達」。手間をかけずに効率的に調達することが重要で、カタログ購買や業務のアウトソーシングによる効率化を目指します。

ファイブフォース分析(調達版)

マイケル・ポーター氏が提唱した業界環境分析のフレームワークを、調達市場に応用します。

  • サプライヤーの交渉力: 売り手市場か買い手市場か。
  • 代替品の脅威: 別の素材や技術で代替可能か。
  • 新規参入の脅威: 新しいサプライヤーが登場する可能性。
  • 買い手(自社)の交渉力: 自社の発注量は市場でどれほどの影響力を持つか。
  • 業界内の競合: 他社との取り合いになっていないか。

これらを分析することで、サプライヤーに対して強気に出るべきか(価格交渉)、協調路線を取るべきか(安定確保)のスタンスを明確にします。

SWOT分析

内部環境(自社の調達部門のリソース、スキル、システム基盤)と、外部環境(市場トレンド、法規制、技術革新)を掛け合わせ、自社の立ち位置を可視化します。

  • 強み(Strengths)× 機会(Opportunities): 自社の購買力を活かし、新興市場のサプライヤーを開拓する。
  • 弱み(Weaknesses)× 脅威(Threats): 調達業務が属人化しており、法規制対応の遅れがリスクになっているため、「調達DX」を急ぐ。

競争力を高める調達戦略の策定プロセスと具体策

フレームワークを用いた分析結果を基に、実際に戦略を策定し実行に移すまでの手順を4つのステップで解説します。

Step1:現状分析(支出分析とサプライヤー評価)

戦略策定のスタートラインは、現状の可視化です。「何に(品目)」「誰から(サプライヤー)」「いくらで(単価・総額)」買っているのかを正確に把握する「支出分析(Spend Analysis)」を行います。

また、既存のサプライヤーに対して、品質・コスト・納期・経営安定度・ESG対応などの軸で「サプライヤー評価」を実施します。ここで重要なのは、各部署に散らばっている「購買データ分析」を一元的に行うことです。データが散在している状態では、正しい現状認識ができません。

Step2:カテゴリー戦略の立案(集中購買・間接材調達)

Kraljicマトリックス等の分類に基づき、カテゴリーごとの具体的な戦術を落とし込みます。

  • 集中購買の推進: 各拠点・各部署でバラバラに発注していた品目を本社で一括契約し、ボリュームディスカウントを引き出す。
  • 間接材調達の見直し: 事務用品やPCなどをカタログ購買システムに集約し、発注業務を自動化・省力化する。
  • 仕様の標準化(VA/VE): 過剰品質を見直し、汎用品を活用することでコストを下げる。

Step3:SRM(サプライヤー・リレーションシップ・マネジメント)の強化

現代の調達戦略において最も重要なのがSRMです。SRMとは、サプライヤーを単なる「取引先」ではなく「ビジネスパートナー」と捉え、双方の利益を最大化するための関係管理手法です。

  • 戦略的パートナーシップ: 重要サプライヤーとは定期的なトップ面談や技術交流を行い、新製品の共同開発や優先供給枠の確保を目指します。
  • サプライヤー支援: サプライヤーの品質改善や生産性向上を支援し、結果として自社の調達コスト削減や品質向上に繋げます。

Step4:KPI設定と調達組織の構築

「誰が」「いつまでに」やるのか、ロードマップを策定します。
戦略の進捗を測るためのKPI(コスト削減率、納期遵守率、グリーン調達比率など)を設定します。また、戦略を実行するためには、従来の事務処理中心の組織から、バイヤーが交渉や市場分析に集中できる体制(CPO設置やバイヤー育成)への変革が必要です。

調達戦略の実行基盤となる「購買管理システム」とERP

どれほど優れた戦略を策定しても、日々の業務でデータに基づいた実行とモニタリングができなければ、それは「絵に描いた餅」に終わります。ここで重要になるのが、戦略実行の基盤となるシステムの存在です。

戦略実行を阻む「データの分断」と「購買内部統制」の課題

多くの企業で調達戦略が失敗する最大の原因は、データが整備されていないことにあります。

  • 発注はメールやFAXで行われ、データとして残っていない。
  • 見積書はPDFや紙で保管され、過去データの比較ができない。
  • 各部門が独自のExcelで管理しており、全社の支出総額が見えない。

このような環境では、支出分析を行うために膨大な時間を要し、迅速な意思決定ができません。また、発注のログが残らないため、「購買内部統制」の観点でもリスクが高まります。
まず、戦略実行の足元を固めるためには、日々の発注・受入業務をデジタル化し、データを蓄積する「購買管理システム」の導入、あるいはその機能を持つシステムの活用が不可欠です。

全社最適を実現するERP(統合基幹業務システム)の価値

しかし、単独の購買管理システムを導入するだけでは不十分なケースがあります。調達データが会計システムや在庫管理システムと連携していなければ、データの二重入力やタイムラグが発生し、全社的な経営判断に遅れが生じるためです。

こうした課題を解決するのが「ERP(Enterprise Resource Planning)」です。
ERPは、調達、在庫、生産、販売、会計などの基幹業務データを一つのデータベースで統合管理します。ERPの購買機能を活用することで、以下のようなメリットが生まれます。

  1. リアルタイムな予実管理: 発注した瞬間に予算消化状況や支払予定が可視化され、精度の高いコスト管理が可能になります。
  2. 業務プロセスの標準化: システムに沿って業務を行うだけで、属人化の排除と内部統制の強化が実現します。
  3. 全社最適の視点: 販売計画や在庫データと連動することで、「必要なものを、必要な時に、必要な量だけ」調達する最適化が可能になります。

成長企業が「SaaS型ERP」を選択すべき理由

かつてERPは大企業向けの高額なシステムでしたが、近年はクラウドベースの「SaaS型ERP(購買管理クラウド)」が主流となり、中堅・成長企業での導入が進んでいます。

調達戦略を実行する上で、SaaS型ERPには以下の利点があります。

  • スモールスタート: 初期投資を抑え、必要な機能から導入できるため、「調達DX」の第一歩として最適です。
  • 変化への対応: インボイス制度や電子帳簿保存法などの法改正、市場環境の変化に合わせて、ベンダー側で機能がアップデートされるため、常に最新の管理手法を取り入れられます。
  • 拡張性: ビジネスの成長に合わせて機能を追加したり、外部のサプライヤー管理システムとAPI連携させたりすることが容易です。

調達戦略に関するよくある質問(FAQ)

調達戦略の策定や見直しにおいて、経営者や担当者が抱きがちな疑問に回答します。

調達戦略の見直しはどのくらいの頻度で行うべきですか?

基本的には年に1回、事業計画の策定に合わせて見直すのが理想です。ただし、原材料価格の急激な変動や地政学リスクの発生など、外部環境に大きな変化があった場合は、期中であっても柔軟に修正する必要があります。SaaS型ERPなどを活用し、常に最新の購買データをモニタリングできる環境があれば、迅速な修正が可能になります。

SRMを成功させるための具体的なポイントは?

「透明性」と「双方向のコミュニケーション」です。一方的な値下げ要求や納期短縮の強要は、長期的な関係を損ないます。自社の事業計画や需要予測を早期に共有し、サプライヤー側の課題もヒアリングしながら、共にコスト削減や品質向上に取り組む姿勢が重要です。

中小企業でもKraljicマトリックスのような分析は必要ですか?

はい、企業の規模に関わらず有用です。むしろリソースが限られている中小企業こそ、「どの品目に注力すべきか」「どこを効率化(間接材調達など)すべきか」という選択と集中を行うために、こうした分析が不可欠です。簡易的でも良いので、自社の調達品を分類してみることをお勧めします。

調達コスト削減の限界を感じた場合、次に取り組むべきことは?

単価の引き下げ(価格交渉)には限界があります。次のステップとしては、設計部門と連携した「仕様の見直し(VE:Value Engineering)」や、発注頻度・ロットサイズの最適化による物流コスト削減、あるいは業務プロセスの自動化による「管理コスト(プロセス自体のコスト)」の削減に目を向けるべきです。

専用の調達システムとERP、どちらを導入すべきですか?

調達業務の高度化と同時に、全社的な経営数値の見える化を目指すのであれば、財務・会計・在庫と連動する「ERP」が推奨されます。一方で、特定の資材(例:化学物質管理が必要な原材料など)に特化した深い機能が必要な場合は、専用の「調達管理システム」を導入し、ERPと連携させる形が望ましいでしょう。重要なのは、データが分断されない構成にすることです。

まとめ:調達戦略は企業の利益と持続可能性を支える経営アジェンダ

調達戦略は、単なる現場の業務改善プランではありません。それは、企業の利益構造を変革し、予測不能なリスクから事業を守り、将来の成長を支えるための重要な経営アジェンダです。

Kraljicマトリックスなどのフレームワークを用いて自社の調達状況を客観的に分析し、「カテゴリー戦略」や「サプライヤー管理(SRM)」といった具体的な施策に落とし込むこと。そして、それらを属人的な努力ではなく、ERPという強固な「データ基盤」の上で運用し続けること。これが、変化の激しい時代を勝ち抜くための鍵となります。

まずは自社の購買データを可視化し、現状の立ち位置を知ることから、調達戦略の策定を始めてみてはいかがでしょうか。

ストーリーでわかる!ERP基礎知識と導入のポイント
この記事を書いた人
クラウドERP導入ガイド編集部
クラウドERP導入ガイド編集部
CONTACT

お気軽にご相談ください