製造業の経理実務や経営分析において、「売上原価」と「製造原価」は頻繁に使用される用語ですが、その定義や範囲を正確に区別できていますでしょうか。両者は密接に関係しているものの、決算書における役割や計算プロセスには明確な違いがあります。最大の違いは、製造原価が「当期に製品を完成させるためにかかった費用の総額」であるのに対し、売上原価は「当期に販売された製品に対応する費用」であり、在庫の増減が計算に大きく影響する点です。本記事では、これら2つの原価の違いや計算式、損益計算書と製造原価報告書での表示区分について詳しく解説します。
この記事で分かること
- 売上原価と製造原価の定義と決定的な違い
- 損益計算書・製造原価報告書における表示場所と見方
- 仕掛品や製品在庫を考慮した計算式の流れ
- 正確な原価管理が経営判断やコスト削減に与えるメリット
売上原価と製造原価の決定的な違い

製造業の経営管理において、「売上原価」と「製造原価」は頻繁に使用される用語ですが、この2つは似て非なるものです。両者の違いを正しく理解していないと、決算書の数字を読み誤り、適切な経営判断ができなくなる恐れがあります。
結論から申し上げますと、両者の決定的な違いは「販売されたかどうか」という点にあります。製造原価は「製品を作るためにかかった費用の総額」を指すのに対し、売上原価は「そのうち、実際に売れた製品に対応する費用」を指します。
それぞれの違いを整理すると、以下の表のようになります。
| 項目 | 売上原価 | 製造原価 |
|---|---|---|
| 定義 | 販売された製品にかかった原価 | 当期に製品を製造するためにかかった費用 |
| 対象範囲 | 売れた分のみ | 作った分すべて(売れ残り含む) |
| 掲載される決算書 | 損益計算書(P/L) | 製造原価報告書(C/R) |
| 在庫との関係 | 在庫分は含まれない | 在庫(棚卸資産)になるものが含まれる |
この違いを把握することは、正確な利益管理を行うための第一歩です。以下でそれぞれの詳細について解説します。
売上原価とは売れた商品に対応する原価
売上原価とは、当期の売上高を獲得するために直接かかった費用のことです。会計には「収益費用対応の原則」というルールがあり、収益(売上)が得られた時点で、それに対応する費用を計上する必要があります。
したがって、当期に製造した製品であっても、期末までに売れずに倉庫に残っている場合、その製品にかかった費用は売上原価には含まれません。売れ残った分は「棚卸資産(製品在庫)」として貸借対照表上の資産に計上され、翌期以降に持ち越されます。
売上原価の性質として、以下の点が挙げられます。
- 売上が計上されて初めて費用として認識される
- 企業の「売上総利益(粗利)」を算出する基礎となる
- 在庫の増減によって金額が変動する
つまり、どれだけ大量に製品を作ったとしても、それが売れない限りはPL(損益計算書)上の売上原価は増えず、利益も減少しないというのが会計上の仕組みです。この仕組みを理解せずに過剰在庫を抱えると、帳簿上の利益は出ていてもキャッシュフローが悪化するという事態を招きます。
製造原価とは製品を作るためにかかった費用の総額
製造原価(当期製品製造原価)とは、その会計期間中に製品を完成させるために投入されたコストの合計額を指します。ここには、販売されたかどうかは関係ありません。
製造原価は、主に以下の3つの要素で構成されています。
- 材料費:製品の素材となる原材料や部品の費用
- 労務費:工場で働く従業員の給与、賞与、福利厚生費など
- 経費:工場の減価償却費、水道光熱費、外注加工費など
製造プロセスにおいて発生したこれらの費用は、まず「仕掛品」として集計され、製品が完成した段階で「製品」勘定へと振り替えられます。この完成した製品のトータルコストが製造原価です。
製造原価報告書(C/R)で計算されたこの金額は、損益計算書(P/L)の売上原価を計算するための「仕入」のような役割を果たします。製造原価は工場の生産効率や原価管理の指標として重要であり、これを正確に把握することがコスト削減の第一歩となります。
決算書における売上原価と製造原価の表示場所
企業の収益性を正確に把握するためには、決算書(財務諸表)のどこにどのような原価情報が記載されているかを理解することが不可欠です。特に製造業においては、一般的な「損益計算書」だけでなく、その内訳を示す「製造原価報告書」とのつながりを読み解くことが、経営判断の精度を高める第一歩となります。
本章では、これら2つの書類における表示場所と、それぞれの数値がどのように連携しているかについて解説します。
損益計算書における売上原価の記載
損益計算書(P/L)は、企業の一定期間における経営成績を示す書類です。この中で「売上原価」は、売上高から最初に差し引かれる費用として表示され、企業の基礎的な収益力である「売上総利益(粗利)」を決定づける重要な要素となります。
製造業における損益計算書では、売上原価は単一の数値として計上されることもありますが、内訳として以下の計算プロセスが記載されることが一般的です。
- 期首製品棚卸高(前期から繰り越された製品在庫)
- 当期製品製造原価(当期に完成した製品の原価)
- 期末製品棚卸高(当期に売れ残り、翌期へ繰り越す製品在庫)
売上原価は、これらの要素を用いて「期首製品棚卸高 + 当期製品製造原価 - 期末製品棚卸高」という式で算出されます。つまり、損益計算書上に表示される売上原価は、製造にかかった費用の総額ではなく、あくまで「売り上げた製品に対応する原価」のみが計上されるという点がポイントです。
以下は、損益計算書における売上原価の表示イメージです。
| 項目 | 金額(単位:百万円) |
|---|---|
| Ⅰ 売上高 | 2,000 |
| Ⅱ 売上原価 | |
| 1. 期首製品棚卸高 | 200 |
| 2. 当期製品製造原価 | 1,400 |
| 3. 期末製品棚卸高 | ▲ 300 |
| 売上原価 合計 | 1,300 |
| 売上総利益 | 700 |
この表にある「当期製品製造原価」の1,400百万円という数値は、損益計算書の中だけで算出されるものではありません。この数値の根拠となる詳細な内訳を示したものが、次に解説する「製造原価報告書」です。
製造原価報告書における製造原価の内訳
製造原価報告書(C/R)は、損益計算書の付属明細書として作成される書類であり、製造業において「製品を作るためにいくらかかったか」を詳細に示すものです。
損益計算書では一行(または一項目)で扱われていた「当期製品製造原価」がどのように構成されているか、その発生源泉を以下の3つの要素に分解して表示します。
- 材料費(製品の素材となる原材料の費用)
- 労務費(工場で働く従業員の賃金や給与)
- 経費(減価償却費、水道光熱費、外注加工費など)
製造原価報告書では、当期に投入したこれらの費用の合計(当期総製造費用)に、作りかけの状態である「仕掛品」の在庫調整を行って、最終的な製品製造原価を導き出します。
製造プロセスにおけるお金の流れを整理すると、以下のようになります。
| 項目 | 金額(単位:百万円) |
|---|---|
| Ⅰ 材料費 | 600 |
| Ⅱ 労務費 | 400 |
| Ⅲ 経費 | 450 |
| 当期総製造費用 | 1,450 |
| Ⅳ 期首仕掛品棚卸高 | 50 |
| Ⅴ 期末仕掛品棚卸高 | ▲ 100 |
| 当期製品製造原価 | 1,400 |
このように、製造原価報告書の最終値である「当期製品製造原価(1,400百万円)」が、先ほどの損益計算書の該当項目へと転記されます。
経営層や部門責任者がコスト削減や利益率改善を検討する際、損益計算書を見るだけでは「原価が高い」という事実しか分かりません。しかし、製造原価報告書をあわせて確認することで、「材料費が高騰しているのか」「労務費や経費の負担が増しているのか」といった具体的な原因分析が可能になります。
正確な原価管理を行うためには、これら2つの決算書のつながりを正しく理解し、部門システムやExcelで散在しがちな原価データを統合的に管理できる体制を整えることが重要です。
売上原価と製造原価の計算式と算出の流れ
製造業における会計処理では、費用がどのように製品の価値へと転嫁され、最終的に費用として計上されるかという「原価の流れ」を理解することが極めて重要です。ここでは、製造原価の構成要素から始まり、仕掛品や製品在庫の調整を経て売上原価が算出されるまでの一連の計算プロセスを解説します。
製造原価の3要素である材料費と労務費と経費
製造原価とは、製品を製造するために要した費用の総額を指しますが、原価計算基準においては大きく「材料費」「労務費」「経費」の3つの要素に分類されます。これらを正確に把握し、製品ごとに適切に集計することが原価計算の第一歩となります。
- 材料費:製品の製造に必要な物品の消費額(素材、買入部品、燃料など)
- 労務費:製造業務に従事する従業員に対する労働の対価(賃金、給料、賞与、退職給付引当金繰入額など)
- 経費:材料費、労務費以外の原価要素(減価償却費、水道光熱費、修繕費、外注加工費など)
さらに、これらの費用は特定の製品に直接紐づけることができる「直接費」と、複数の製品に関わり共通して発生する「間接費」に区分されます。間接費は、適切な配賦基準を用いて各製品に割り振る計算が必要です。
| 区分 | 直接費(特定の製品に直接賦課できる) | 間接費(配賦計算が必要) |
|---|---|---|
| 材料費 | 主要材料費、買入部品費 | 補助材料費、工場消耗品費 |
| 労務費 | 直接工賃金 | 間接工賃金、事務員給料 |
| 経費 | 外注加工費 | 減価償却費、電力料、ガス代 |
特に中堅規模以上の企業においては、間接費の配賦計算が複雑化しやすく、Excel等での管理では正確な製品別原価の把握が困難になるケースが散見されます。
仕掛品と製品在庫による調整の仕組み
当期に発生した材料費、労務費、経費の合計(当期総製造費用)が、そのまま「当期製品製造原価」になるわけではありません。製造ラインには、まだ完成していない「仕掛品」が存在するためです。
完成品としての原価を算出するためには、期首時点での仕掛品在庫を足し合わせ、期末時点で残っている仕掛品在庫を差し引く調整計算を行います。
- 期首仕掛品棚卸高:前期から繰り越された、製造途中の製品価値
- 当期総製造費用:当期に投入した材料費、労務費、経費の合計
- 期末仕掛品棚卸高:当期末時点でまだ完成していない製造途中の製品価値
計算式としては以下のようになります。
当期製品製造原価 = 期首仕掛品棚卸高 + 当期総製造費用 - 期末仕掛品棚卸高
この計算により、当期に「完成した製品」の原価が確定します。製造プロセスが長く、工程内に仕掛品が多く滞留する業態では、この仕掛品の評価額が期間損益に大きな影響を与えるため、正確な在庫評価が求められます。
売上原価を求める具体的な計算式
最後に、損益計算書(P/L)に計上される「売上原価」を算出します。製造原価は「作った製品のコスト」であるのに対し、売上原価は「売れた製品のコスト」です。したがって、作ったけれど売れずに残っている「製品在庫」の調整を行う必要があります。
売上原価を求める計算式は以下の通りです。
売上原価 = 期首製品棚卸高 + 当期製品製造原価 - 期末製品棚卸高
この計算の流れを整理すると、以下の表のようなステップになります。
| ステップ | 計算内容 | 算出されるもの |
|---|---|---|
| Step 1 | 材料費 + 労務費 + 経費 | 当期総製造費用 |
| Step 2 | 期首仕掛品 + 当期総製造費用 - 期末仕掛品 | 当期製品製造原価 |
| Step 3 | 期首製品 + 当期製品製造原価 - 期末製品 | 売上原価 |
このように、売上原価を確定させるためには、製造現場での費用の集計だけでなく、仕掛品や製品在庫の正確な棚卸データが不可欠です。複数の部門やシステムにデータが散在している状態では、決算の早期化や精緻な原価管理を実現することは難しく、統合的なデータ管理基盤の重要性が高まっています。
販管費と売上原価の違いと区分
決算書を作成する際、あるいは経営分析を行う上で、費用を「売上原価」にするか「販売費及び一般管理費(販管費)」にするかの区分は非常に重要です。この区分を誤ると、売上総利益(粗利)と営業利益の数値が実態と乖離してしまい、正しい経営判断ができなくなる恐れがあります。
ここでは、両者の定義の違いと、判断に迷いやすい具体的な費目の取り扱いについて解説します。
収益獲得への貢献形態による分類
売上原価と販管費の最大の違いは、その費用が「製品そのものの製造・調達」に直接紐づいているか、それとも「販売活動や企業維持」のために発生したかという点にあります。
売上原価は、製品を製造するために要した材料費や工場の労務費、あるいは商品を仕入れるためにかかった費用を指します。これらは、売上が計上されたタイミングで費用化されるのが原則です。
一方、販管費は「販売費」と「一般管理費」の合計です。営業担当者の人件費や広告宣伝費、本社の家賃や役員報酬などがこれに該当します。販管費は、製造活動とは直接関係なく、期間の経過とともに発生する費用(期間費用)として扱われます。
- 売上原価:製造や仕入れに直接要した費用(工場部門の費用など)
- 販管費:販売活動や管理活動に要した費用(営業・管理部門の費用など)
両者の違いを整理すると、以下のようになります。
| 区分 | 売上原価 | 販管費(販売費及び一般管理費) |
|---|---|---|
| 主な性質 | 製品の製造・調達コスト | 販売活動・企業管理コスト |
| 関連する利益 | 売上総利益(粗利)に影響 | 営業利益に影響 |
| 費用の発生場所 | 工場、製造現場、仕入先 | 本社、営業所、店舗 |
| 代表的な勘定科目 | 材料費、製造ラインの人件費、外注加工費 | 役員報酬、広告宣伝費、交際費、減価償却費(本社) |
営業利益と売上総利益への影響
なぜこの区分が経営層にとって重要かというと、どの段階の利益を重視するかによって、打つべき施策が変わるからです。
売上原価に計上すべき費用を誤って販管費として処理してしまうと、売上総利益(粗利)が見かけ上高く算出されてしまいます。逆に、販管費とすべきものを売上原価に含めれば、粗利率が悪化したように見え、製造現場のコスト管理に問題があるという誤ったシグナルを送ることになりかねません。
正しい原価計算に基づく利益管理は、製品ごとの収益性を正しく評価し、撤退や注力の判断を行うための土台となります。
判断に迷いやすい費目の事例
実務上、売上原価か販管費かの判断が難しいグレーゾーンが存在します。企業会計原則や税法上の取り扱いを踏まえつつ、自社の管理会計ルールとして明確に定義しておく必要があります。
物流費・運送費の取り扱い
物流費は、その発生タイミングによって区分が異なります。
- 引取運賃(仕入諸掛):材料や商品を仕入れる際にかかった運賃は、取得原価の一部として「売上原価(または材料費)」に含めます。
- 発送運賃(販売諸掛):完成した製品を得意先へ納品する際にかかる運賃は、販売のための費用であるため「販管費(荷造運賃など)」として処理します。
ただし、工場から物流センターへの横持ち費用などをどう扱うかは、企業の管理方針によって異なる場合があります。
研究開発費の計上区分
新製品の開発や技術改良のために支出される研究開発費は、原則として発生時に「販管費」として処理されます。これは、将来の収益獲得が不確実であり、現在の製造コストには含めないという考え方に基づくものです。
しかし、特定の製品製造のために特別に要した試験研究費や、製造ラインの改良にかかった費用などは、製造原価に含まれるケースもあります。詳しくは国税庁の指針などを参照し、税理士や会計士と相談の上で決定することが望ましいでしょう。
人件費の振り分けとシステムによる管理
最も複雑になりがちなのが人件費です。工場の製造ラインで働く従業員の給与は「労務費(売上原価)」ですが、工場の事務員や工場長の給与も、通常は「製造間接費」として売上原価に含まれます。
一方で、本社の人事部や経理部の社員は「販管費」となります。問題となるのは、技術営業や生産管理など、製造と販売の両方に関わる部門や、複数の役割を兼務している社員の扱いです。
正確な利益管理を行うためには、業務日報などで工数を管理し、活動内容に応じて売上原価と販管費に按分計算を行うことが理想的です。しかし、Excelなどの手作業でこの配賦計算を毎月行うのは限界があります。
こうした複雑な費用の配賦や、リアルタイムな予実管理を実現するためには、部門や業務ごとのデータを統合的に管理できるERPの活用が有効な解決策となります。
正確な原価計算が経営判断に与える影響
売上原価や製造原価の計算は、単に決算書を作成して税務申告を行うためだけの手続きではありません。経営層にとって、正確な原価情報は企業の収益構造を理解し、適切な経営判断を下すための「羅針盤」となります。
特に年商規模が拡大し、取り扱う製品数や事業領域が増えるほど、原価の構成は複雑化します。どんぶり勘定のままでは、どの製品が利益を生み出し、どの工程に無駄があるのかが見えなくなってしまいます。ここでは、正確な原価計算が具体的にどのような経営メリットをもたらすのかを解説します。
製品ごとの利益率の把握と価格設定への活用
正確な原価計算を行う最大の目的の一つは、製品別や顧客別の収益性を可視化することです。全社的に黒字であっても、個別の製品を見ると赤字を垂れ流しているケースは珍しくありません。
製造原価を正確に把握することで、以下のような戦略的な意思決定が可能になります。
- 真の利益貢献度に基づいた製品ポートフォリオの見直し
- 市場競争力を維持しつつ利益を確保できる適切な価格設定(プライシング)
- 不採算製品に対する撤退や設計変更の判断
- 営業部門に対する、利益率を重視した販売戦略の立案指示
例えば、売上高は大きいものの利益率が極端に低い製品がある場合、製造原価の内訳を詳細に分析することで、材料費が高すぎるのか、あるいは製造工程に時間がかかりすぎているのかを特定できます。この情報がなければ、経営層は「売上は上がっているのに利益が残らない」という状況の原因を突き止めることができません。
また、新規受注時の見積もり作成においても、過去の正確な実績原価データは不可欠です。根拠のある原価データに基づく見積もりは、赤字受注のリスクを回避し、適正な利益を確保するための防波堤となります。
コスト削減ポイントの可視化と予実管理
原価計算は、コスト削減(原価低減)の活動においても中心的な役割を果たします。単に「経費を削減せよ」と号令をかけるだけでは、現場はどこを削ればよいか分からず、必要な品質維持コストまで削減してしまう恐れがあります。
効果的なコスト管理を行うためには、「標準原価」と「実際原価」の差異分析が有効です。あらかじめ設定した目標値である標準原価に対し、実際にかかった原価がどれだけ乖離しているかを分析することで、問題の所在を明確にできます。
| 原価差異の種類 | 主な要因 | 経営判断のアクション例 |
|---|---|---|
| 価格差異 | 原材料の市場価格変動、仕入先の変更など | 購買部門への仕入先見直し指示、販売価格への転嫁検討 |
| 数量差異 | 歩留まりの悪化、材料の浪費など | 製造現場の技術指導、品質管理体制の強化 |
| 賃率差異 | 予定より高い時給の人員の配置、残業の増加など | 人員配置の最適化、生産計画の見直し |
| 操業度差異 | 設備の稼働率低下、生産量の減少など | 営業活動の強化による受注増、遊休資産の処分検討 |
このように、原価差異を詳細に分析することで、それが「外部環境によるもの」なのか「内部の非効率によるもの」なのかを区別できます。経営層は、この分析結果に基づいて、購買戦略の見直しや生産プロセスの改善といった具体的な指示を出すことが可能になります。
正確な予実管理(予算と実績の管理)は、企業の利益体質を強化するために欠かせないプロセスです。しかし、多くの企業ではExcelや個別のシステムが乱立しており、これらの情報をリアルタイムに収集・分析することに多大な工数を要しています。次章では、こうした課題を解決するためのシステム基盤について解説します。
複雑化する原価管理における課題とERPの有効性
前章までは、売上原価と製造原価の計算ロジックや、正確な計算がもたらす経営上のメリットについて解説しました。しかし、理論上の計算方法を理解していても、実務の現場では「正確なデータが集まらない」「計算に時間がかかりすぎる」といった課題に直面する企業が少なくありません。
特に年商100億円を超える中堅企業規模になると、取り扱う製品数や部品点数が膨大になり、Excelや会計ソフト単体での管理は限界を迎えます。本章では、多くの企業が陥りがちな原価管理の課題と、それを解決するためのERP(統合基幹業務システム)の有効性について解説します。
Excelや個別システムによる原価計算の限界
多くの企業では、生産管理システム、販売管理システム、会計システムがそれぞれ独立して稼働しており、原価計算のために各システムからデータをCSVで出力し、Excelで集計・配賦を行っているケースが散見されます。この「バケツリレー方式」の業務フローには、経営判断を鈍らせるいくつかの重大なリスクが潜んでいます。
- データの整合性が取れない:生産部門の在庫データと経理部門の棚卸資産データが一致せず、原因究明に多大な工数を要する。
- 属人化とブラックボックス化:複雑なExcelマクロを組んだ担当者しか計算ロジックを理解しておらず、退職や異動で業務が停止するリスクがある。
- タイムラグの発生:月次決算が締まるまで正確な原価が判明せず、異常値への対策が翌月以降に後手に回る。
また、部門ごとに最適化された「個別システム」が乱立している状態では、全社的なデータの流れが分断されています。例えば、設計変更による部品コストの変動や、製造現場での歩留まり悪化が、即座に会計上の原価に反映されないため、経営層が見ている数字と現場の実態に乖離が生じてしまうのです。
以下の表は、個別システム・Excel管理と、統合型システム(ERP)による管理の違いを整理したものです。
| 比較項目 | 個別システム・Excel管理 | ERP(統合型システム)管理 |
|---|---|---|
| データの連携 | 手動入力やCSV連携が必要(分断) | 単一データベースで自動連携(統合) |
| 原価の把握時期 | 月次決算締め後(遅延) | リアルタイムに近い把握が可能 |
| 配賦計算の精度 | 概算や単純な基準になりがち | 活動基準原価計算など詳細設定が可能 |
| 経営への活用 | 過去の結果確認(事後報告) | 予実分析と将来予測(意思決定) |
ERP導入によるリアルタイムな原価把握と経営の見える化
複雑化する原価管理の課題を解決する手段として、ERPの導入や刷新が有効です。ERPの最大の特徴は、受注、生産、購買、在庫、販売、会計といった企業の基幹業務を一つのデータベースで統合管理することにあります。
ERPを導入することで、製造現場で日報が入力された瞬間に、労務費や材料費の情報が裏側で会計データとして連携されます。これにより、月次決算を待たずに「今、どの製品で利益が出ていないのか」を把握することが可能になります。
原価管理においてERPがもたらす具体的なメリットは以下の通りです。
- 標準原価と実際原価の差異分析の迅速化:予定していたコスト(標準原価)と実際にかかったコスト(実際原価)のズレを即座に検知し、材料費の高騰なのか、作業効率の低下なのかといった原因をドリルダウンして分析できます。
- 配賦計算の自動化と精緻化:Excelでは困難だった複雑な配賦基準(機械稼働時間や作業時間など)に基づく計算をシステムが自動で行うため、製品ごとの収益性をより正確に可視化できます。
- 全社最適の視点:部門間のデータの壁を取り払うことで、営業部門は最新の原価に基づいた適正な見積もり提示が可能になり、製造部門はコスト意識を持った生産活動が行えるようになります。
従来の会計システムは「制度会計(税務署や株主への報告)」を主目的としていましたが、現代の経営環境において求められているのは「管理会計(経営判断のための会計)」のスピードと質です。
ERPによって原価の「見える化」を実現することは、単なる事務作業の効率化ではなく、利益体質の強化に直結する経営戦略そのものといえます。
売上原価と製造原価に関するよくある質問
売上原価と製造原価の簡単な違いは何ですか?
製造原価は「その期に製品を作るためにかかった費用の総額」であり、売上原価は「その期に売れた製品に対応する原価」です。作った製品がすべて売れるとは限らないため、在庫の増減によって両者の金額は異なります。
製造原価は売上原価に含まれますか?
はい、最終的には含まれる関係にあります。製造原価はいったん「製品」という資産になりますが、その製品が販売された時点で「売上原価」として費用化され、損益計算書に計上される流れとなります。
売上原価の計算式を教えてください。
売上原価は「期首製品棚卸高+当期製品製造原価-期末製品棚卸高」の計算式で求められます。期首にあった在庫と当期に作ったものの合計から、売れ残った期末在庫を差し引くことで算出します。
決算書ではどこに記載されますか?
売上原価は「損益計算書(P/L)」の売上高の直下に記載され、売上総利益を算出するために使われます。一方、製造原価は「製造原価報告書(C/R)」に記載され、その内訳が示されます。
サービス業にも製造原価はありますか?
一般的なサービス業には製造原価という概念はなく、代わりに「売上原価(役務原価)」として計上されます。ただし、ソフトウェア開発などプロジェクト単位で原価を集計する場合は、製造業に近い原価計算を行うことがあります。
まとめ
売上原価は「売れた商品に対応する原価」、製造原価は「当期に製品を作るためにかかった費用の総額」という決定的な違いがあります。正確な利益管理を行うためには、在庫の増減を含めた計算式の理解と、費目ごとの適切な原価管理が欠かせません。
しかし、Excelや個別システムでの管理は、計算の複雑化やタイムラグといった課題を招きがちです。ERPを導入すれば、リアルタイムな原価把握と予実管理が可能となり、迅速な経営判断へとつながります。収益性の高い体制を構築するために、まずは自社に合ったERPの情報収集から始めてみてはいかがでしょうか。
執筆者
クラウドERP導入ガイド編集チーム
メッセージ
クラウドERPや基幹システムに関する情報を整理し、導入を検討している方に向けて分かりやすく解説しています。



