
経費精算や出張管理、請求書処理といったバックオフィス業務は、依然として多くの企業で非効率なアナログ作業が残り、従業員の負担増やガバナンス上の課題となりがちです。
こうした課題を解決し、企業の生産性を飛躍的に向上させるソリューションとして世界中で導入されているのが、経費精算・管理クラウドの「SAP Concur(エスエーピー・コンカー)」です。
SAP Concurは単なる経費精算システムではなく、出張手配から請求書処理、データ分析までを統合管理し、企業の成長を支える経営基盤となり得ます。
この記事で分かること
- SAP Concurの基本的な機能と世界で選ばれる理由
- 導入によって得られる業務効率化やコスト削減などのメリット
- 具体的な料金体系と費用の目安
- 他の経費精算システムとの比較と選定のポイント
本記事では、SAP Concurの概要から具体的な機能、料金、導入メリット、さらには他のシステムとの比較までを網羅的に解説します。経費精算システムの導入や乗り換えを検討している方はもちろん、SAP Concurについて詳しく知りたい方も、ぜひ最後までご覧ください。
SAP Concurとは?
SAP Concur(エスエーピー・コンカー)とは、株式会社コンカーが提供する、企業の経費精算、出張管理、請求書管理といった間接費業務全体を統合的に管理・効率化するクラウドソリューションです。
従来、多くの企業で紙やExcelを用いて行われてきた各種申請・承認プロセスをデジタル化し、従業員と経理部門双方の業務負担を大幅に削減します。 単なる業務効率化ツールに留まらず、支出データをリアルタイムに可視化・分析することで、コスト削減やガバナンス強化、さらにはデータに基づいた迅速な経営判断を支援するプラットフォームとしての役割を担います。
世界的なビジネスソフトウェア企業であるSAPグループの製品であり、その信頼性と拡張性の高さから、企業の規模や業種を問わず、世界中の多くの企業で導入が進んでいます。
| 項目 | 概要 |
|---|---|
| 提供元 | 株式会社コンカー(SAPグループ) |
| 主な領域 | 経費精算、出張管理、請求書管理などの間接費管理 |
| 特徴 |
|
| 導入対象 | 中小企業からグローバルに展開する大企業まで、幅広い規模の企業 |
世界中で利用されるグローバルスタンダード
SAP Concurが多くの企業から選ばれる大きな理由の一つが、その圧倒的なグローバル対応力です。全世界で数万社以上の導入実績を誇り、出張・経費管理クラウドシステムにおける「グローバルスタンダード」としての地位を確立しています。
特筆すべきは、多言語・多通貨への対応力です。 英語や日本語はもちろんのこと、主要な各言語に対応しており、海外拠点を持つ企業やグローバルに事業を展開する企業は、世界中の拠点で統一された経費管理ポリシーを適用し、ガバナンスを効かせることが可能になります。
各国の複雑な税制や法規制の変更にも迅速にアップデート対応するため、企業はコンプライアンスを遵守しながら、安心してコア業務に専念できる環境が整います。
SAP Concurの主な機能一覧
SAP Concurは、経費精算や出張管理、請求書処理といった間接費管理の領域を幅広くカバーする多彩な機能をモジュールとして提供しています。
それぞれの機能は独立して導入することも、組み合わせて利用することで相乗効果を発揮することも可能です。
ここでは、SAP Concurが提供する主な4つの機能について、その役割と特徴を詳しく解説します。
| 機能モジュール | 主な役割 | 特に効果を発揮する部門 |
|---|---|---|
| Concur Expense | 立替経費の精算業務全般を自動化・効率化 | 全従業員、経理部門、承認者 |
| Concur Travel | 出張の申請から手配、旅程管理までを一元化 | 出張者、管理部門、承認者 |
| Concur Invoice | 取引先からの請求書の受領から支払処理までを自動化 | 経理部門、購買部門、承認者 |
| Intelligence | 蓄積された間接費データを分析・可視化し、経営判断を支援 | 経営層、経理部門、管理部門 |
Concur Expense|経費精算と経費管理
Concur Expenseは、従業員の立替経費精算に関わるあらゆるプロセスを自動化し、効率化するための中心的な機能です。従業員の申請負荷と経理部門のチェック業務を大幅に削減し、会社全体の生産性向上に貢献します。
- 領収書のデジタル化と自動入力: スマートフォンのカメラで領収書を撮影するだけで、AI-OCR機能が日付や金額、支払先などを自動で読み取り、経費明細を作成します。 これにより、手入力の手間とミスを撲滅します。
- 多彩なデータ連携による入力レス: 法人カードや交通系ICカードの利用履歴、各種Webサービス(タクシー配車アプリやQRコード決済など)の決済データを自動で取り込み、経費精算レポートに反映させることが可能です。
- 経費規程の自動チェック: 事前に設定した社内規程に基づき、申請内容をシステムが自動でチェックします。 違反の可能性がある項目にはアラートが表示されるため、承認者の確認負荷が軽減され、ガバナンス強化に繋がります。
- モバイル対応による場所を選ばない申請・承認: スマートフォンアプリを利用して、外出先や移動中でも経費の申請や承認が可能です。 経費精算のために帰社する必要がなくなり、業務のスピードアップが図れます。
Concur Travel |出張申請と予約手配
Concur Travelは、出張の事前申請から、航空券や宿泊先などの予約手配、旅程管理までを一元的に行える機能です。 出張規定を遵守させながら、出張者本人によるスムーズな手配を可能にし、出張コストの最適化と危機管理体制の強化を実現します。
- 出張申請と承認ワークフロー: 出張の目的や旅程、概算費用などをシステム上で申請し、承認を得るプロセスを電子化します。承認された情報に基づいて、その後の予約手配を進めることができます。
- オンラインでの一括予約: 連携している旅行代理店(BTM)や予約サイトを通じて、会社の出張規定に準拠した航空券、新幹線、宿泊施設、レンタカーなどを従業員自身が検索・予約できます。
- 出張規定の遵守(ガバナンス強化): 規定外の予約をしようとすると警告を表示したり、承認が必要な設定にしたりすることで、カラ出張などの不正防止やコスト管理の徹底を図ります。
- 旅程管理と危機管理: 出張者の旅程や現在地を一元的に把握できるため、災害や事件といった不測の事態が発生した際に、迅速な安否確認と適切な対応指示が可能になります。
Concur Invoice| 請求書管理と支払処理
Concur Invoiceは、取引先から受け取る請求書の処理プロセス全体をデジタル化し、自動化する機能です。 紙やPDFなど様々な形式で届く請求書を一元管理し、支払業務の効率化とペーパーレス化を促進します。
- 請求書の電子データ化: 紙の請求書はスキャンによるAI-OCRでの読み取り、PDFの請求書はそのままアップロードすることで、支払申請に必要な情報を自動でデータ化します。
- 柔軟な承認ワークフロー: 請求内容や金額に応じて、承認ルートを柔軟に設定できます。システム上で承認プロセスが完結するため、書類を回覧する手間や時間が不要になります。
- 購買データとの自動突合: 事前に登録した発注データ(PO)と請求書の内容をシステムが自動で突合し、差異がないかを確認。経理担当者の目視によるチェック作業を大幅に削減します。
- 会計システムへの自動連携: 承認が完了した支払データは、会計システムやERPに自動で連携され、仕訳作成や支払処理にスムーズに繋がります。 二重入力の手間を省き、データの整合性を担保します。
Intelligence|分析とレポーティング
Intelligenceは、Concur ExpenseやConcur Travel、Concur Invoiceに蓄積された膨大な間接費データを分析・可視化するための機能です。 データに基づいた客観的な現状把握を可能にし、経営層の戦略的な意思決定を支援します。
- 経費データの可視化と分析: 部門別、費目別、プロジェクト別など、様々な切り口で経費データをダッシュボードやレポートに表示。 誰が、いつ、何に、いくら使っているかを直感的に把握できます。
- 豊富な標準レポート: 約200種類もの豊富な標準レポートが用意されており、経費規程の違反状況、出張費のトレンド、サプライヤーへの支払状況などをすぐに確認できます。
- 不正利用の検知: 同席者の重複した接待交際費の申請や、短期間での異常な経費利用などを分析し、不正や私的利用の兆候を検知。コンプライアンス体制の強化に貢献します。
- コスト削減機会の特定: 出張における航空券の早期予約率や、特定のサプライヤーへの発注集中度などを分析することで、より有利な価格交渉や経費削減に繋がるインサイトを得ることができます。
SAP Concurを導入する5つのメリット
SAP Concurの導入は、単なる経費精算システムの刷新に留まらず、企業経営に多岐にわたるメリットをもたらします。
生産性の向上からガバナンス強化、さらにはデータに基づいた経営判断の迅速化まで、その効果はバックオフィス部門に限りません。ここでは、SAP Concurがもたらす代表的な5つのメリットを詳しく解説します。
①バックオフィス業務の効率化と生産性向上
SAP Concur導入による最大のメリットは、経費精算や請求書処理に関わる圧倒的な業務効率化です。 従来の紙ベースの業務では、申請者、承認者、経理担当者のそれぞれが多くの手作業に時間を費やしていました。
- 申請者:領収書の糊付け、交通費の経路検索と転記、申請書の作成
- 承認者:申請内容の目視での確認、押印のための出社
- 経理担当者:申請内容のダブルチェック、会計システムへの再入力、ファイリング
SAP Concurは、これらの手作業を自動化することで、間接業務にかかる工数を劇的に削減します。 例えば、スマートフォンのカメラで領収書を撮影するだけでAI-OCR機能が日付や金額を自動でデータ化したり、交通系ICカードやコーポレートカードの利用履歴を自動で取り込んだりすることが可能です。
これにより、従業員は本来注力すべきコア業務に多くの時間を再配分できるようになり、組織全体の生産性向上に直結します。
②ガバナンス強化と不正利用の防止
企業の信頼性を維持し、持続的な成長を遂げるためには、内部統制(ガバナンス)の強化が不可欠です。SAP Concurは、経費利用における不正の防止と早期発見を強力に支援します。
従来の目視によるチェックでは、カラ出張や二重申請といった不正を完全に見抜くことは困難でした。 SAP Concurでは、あらかじめ設定した社内規程に基づいて、申請内容をシステムが自動でチェックします。 例えば、「日当の上限額を超えていないか」「同じ領収書が使い回されていないか」といった項目を自動検知し、違反があればアラートを表示したり、承認者に通知したりします。
これにより、承認者のチェック負荷を軽減しつつ、人的ミスや意図的な不正のリスクを大幅に低減できます。 さらに、AIを活用した不正検知機能により、人の目では気づきにくい巧妙な不正の兆候も捉えることが可能となり、組織全体のコンプライアンス意識向上にも貢献します。
③ペーパーレス化によるコスト削減と環境配慮
経費精算や請求書処理のデジタル化は、直接的・間接的なコスト削減に大きく貢献します。紙の申請書や領収書を電子化することで、これまでかかっていた様々なコストが不要になります。
| 削減されるコストの種類 | 具体例 |
|---|---|
| 直接コスト | 用紙代、印刷代、インク代、領収書や請求書の郵送費、書類の保管スペースにかかる費用(キャビネット代、倉庫代など) |
| 間接コスト | 書類のファイリングや過去の書類を探し出すための人件費、テレワークの阻害要因となる紙の受け渡し業務 |
SAP Concurは電子帳簿保存法に対応しているため、スマートフォンで撮影した領収書データなどを正式な証憑として扱うことができ、紙の原本を保管する必要がなくなります。 これにより、完全なペーパーレス化が実現し、年間で数万枚規模の紙削減を達成する企業も少なくありません。
また、紙の使用量を削減することは、環境負荷の低減にもつながり、企業の社会的責任(CSR)やESG経営の観点からも重要な取り組みと言えます。
④電子帳簿保存法やインボイス制度への対応
近年、企業の経理業務に大きな影響を与える法改正が続いています。特に、電子帳簿保存法とインボイス制度(適格請求書等保存方式)への対応は、多くの企業にとって喫緊の課題です。
SAP Concurは、これらの法制度に標準機能で対応しています。 電子帳簿保存法に関しては、スキャナ保存や電子取引の要件を満たすための機能を備えており、公益社団法人日本文書情報マネジメント協会(JIIMA)の認証も取得しています。
これにより、企業は法令を遵守した形で、領収書や請求書の電子データを適切に保存・管理できます。
また、2023年10月に開始されたインボイス制度にも対応しており、受領した請求書が適格請求書の要件を満たしているかの確認や、登録番号の管理などを効率的に行うことが可能です。
法改正のたびにシステムを改修したり、運用フローを大幅に見直したりする必要がなく、常に最新の法令に準拠した業務プロセスを維持できる点は、SAP Concurを導入する大きなメリットです。
⑤経営状況の可視化とデータドリブンな意思決定
SAP Concurは、経費精算、出張、請求書支払いに関するあらゆるデータを一元的に蓄積・管理します。これにより、これまで部門ごとや個人ごとに散在していた支出データを統合し、リアルタイムで経営状況を可視化することが可能になります。
標準搭載されている分析機能「Intelligence」を活用すれば、「どの部門で」「どのような経費が」「いつ」増減しているのかといった傾向をダッシュボードで直感的に把握できます。
例えば、特定の費目のコストが突出している部門を特定して経費削減を促したり、プロジェクトごとの費用対効果を正確に測定したりするなど、データに基づいた具体的なアクションにつなげることができます。
これらのデータは、単なるコスト管理に留まらず、将来の予算策定や経営戦略の立案においても極めて重要な情報資産となります。勘や経験に頼るのではなく、客観的なデータに基づいて迅速かつ的確な意思決定を行う「データドリブン経営」の実現を強力に後押しします。
SAP Concurの料金体系
SAP Concurの料金は、企業の規模や利用する機能、従業員数などに応じて柔軟に設定されるため、公式サイトでは具体的な価格が公開されておらず、原則として個別見積もりとなっています。
これは、各企業の固有の課題や業務フローに最適化された形でソリューションを提供するためです。本章では、SAP Concurの料金体系に関する基本的な考え方と、導入を検討する上での費用の目安について解説します。
料金プランの基本的な考え方
SAP Concurの利用料金は、主に以下の要素の組み合わせによって決定されます。自社の要件と照らし合わせながら、どの要素がコストに影響を与えるかを把握することが、適切なプラン選定の第一歩となります。
- 利用する製品ラインナップ
経費精算の「Concur Expense」を基本に、出張管理の「Concur Travel」や請求書管理の「Concur Invoice」といった製品を組み合わせることで料金が変動します。必要な機能を過不足なく選択することが可能です。 - 企業の規模に応じたプラン
主に中堅・中小企業向けの「Standardプラン」と、より高度な機能や複雑な組織構造に対応できる中堅・大企業向けの「Professionalプラン」が用意されており、企業のフェーズに合わせた選択ができます。 - 課金モデル
料金の算出基準として、実際にシステムを利用した従業員数に基づく「アクティブユーザー課金」や、提出された経費レポート数に応じた「レポート課金」といったモデルが存在します。 これにより、利用実態に即したコスト管理が実現します。 - オプション機能の有無
会計システムとのデータ連携を自動化するオプションや、より高度な分析を可能にする「Intelligence」機能など、業務効率化や経営判断を支援する各種オプションを追加することで料金が加算されます。
導入費用と月額費用の目安
前述の通り、正確な料金は見積もりによる算出が必須ですが、ここでは導入を検討する際の参考となる一般的な費用感をご紹介します。特に経費精算システムである「Concur Expense」のプランは、多くの企業で導入の起点となっています。
| プラン名 | 対象企業規模 | 初期費用(導入支援費) | 月額費用 |
|---|---|---|---|
| Concur Expense Standard | 中堅・中小企業 | 0円~ | 30,000円程度~ |
| Concur Expense Professional | 中堅・大企業 | 個別見積もり | 個別見積もり |
中堅・中小企業向けのStandardプランは、初期費用を抑え、比較的短期間で導入できるよう設計されているのが大きな特徴です。 これにより、専任のIT担当者がいない企業でもスムーズに利用を開始できます。
一方、Professionalプランでは、企業の複雑な経費規程や多岐にわたる承認フロー、基幹システム(ERP)との連携などを実現するために、専門のコンサルタントによる導入支援が提供されます。 そのため、初期費用は個別見積もりとなりますが、自社の業務に完全にフィットした、拡張性の高いシステムを構築することが可能です。
最終的な費用は、企業の状況によって大きく異なります。まずは自社の課題を整理し、複数の製品ラインナップやオプションの中から何が必要かを見極めた上で、ベンダーや販売代理店に相談し、詳細な見積もりを取得することをおすすめします。
他の経-p精算システムとSAP Concurの違いを比較
経費精算システムの選定において、自社の規模や事業内容、将来の展望に合った製品を見極めることは極めて重要です。ここでは、SAP Concurが他の経費精算システムとどのような点で一線を画すのか、3つの主要な観点から比較・解説します。
特に、事業のグローバル展開やグループ全体のガバナンス強化を視野に入れる企業にとって、この違いはシステム選定の決定的な要因となり得ます。
機能の網羅性と拡張性
多くの経費精算システムが、その名の通り「経費精算」の効率化に特化しているのに対し、SAP Concurは経費管理に留まらない包括的な機能を提供します。
具体的には、出張申請から航空券や宿泊先の手配までを一元管理する「Concur Travel」や、請求書の受け取りから支払い処理までを自動化する「Concur Invoice」といった機能が同一プラットフォーム上で連携します。
これにより、従業員の経費利用から取引先への支払いまで、企業全体の支出管理(Spend Management)を統合的に最適化できる点が最大の特徴です。
国内の多くのシステムでは、出張手配は別のサービス、請求書処理はまた別のシステムといったように、機能ごとにツールが分断されがちです。 SAP Concurは、これらの業務プロセスをシームレスに繋ぎ、データの一元化と業務の全体最適を実現します。
基幹システム(ERP)や外部サービスとの連携力
SAP Concurのもう一つの大きな強みは、SAP S/4HANAをはじめとする基幹システム(ERP)とのネイティブな連携力にあります。
経費精算や請求書支払いのデータは、最終的に会計システムやERPに取り込まれ、経営判断のための財務諸表を作成するために利用されます。SAP Concurは、SAP社の製品であるため、SAP ERPとのデータ連携が標準で深く作り込まれており、マスタデータの同期や仕訳データの自動連携がスムーズに行われます。 これにより、手作業によるデータ入力や転記ミスを撲滅し、月次決算の早期化にも貢献します。
他の経費精算システムもAPI連携によってERPとの接続は可能ですが、導入企業側で個別の開発が必要になるケースも少なくありません。 その点、SAP Concurはグループ全体の会計基盤とシームレスに連携し、リアルタイムでの経営状況の可視化を強力に支援します。
グローバル対応と多言語・多通貨対応
海外に拠点を持つ企業や、従業員の海外出張が多い企業にとって、システムのグローバル対応は必須要件です。
SAP Concurは、世界中の多くの国で利用されているグローバルスタンダードなソリューションであり、多言語・多通貨対応はもちろんのこと、各国の複雑な税制や法規制(電子インボイス制度など)にも標準機能で対応しています。
例えば、出張先の国で利用した経費をその国の通貨で申請し、現地の税法に準拠した形で処理するといったことが可能です。
国内特化型のシステムの場合、日本の法制度への対応は手厚い一方で、海外の法規制への対応や多言語サポートは限定的であることが多いです。 グローバル規模で統一された経費ポリシーを適用し、グループ全体のガバナンスを徹底したいと考える企業にとって、SAP Concurのグローバル対応力は他のシステムにはない大きなアドバンテージとなるでしょう。
| 比較項目 | SAP Concur | 代表的な国内経費精算システム |
|---|---|---|
| 機能の網羅性 | 経費精算、出張管理、請求書管理を統合した支出管理プラットフォーム | 経費精算機能が中心。他機能は限定的か、外部サービスとの連携で対応 |
| ERPとの連携 | SAP ERPと標準で深く連携。データがシームレスに統合される | API連携が主。個別の開発や設定が必要となる場合がある |
| グローバル対応 | 多言語・多通貨、各国の法規制に標準対応。グローバルでの利用実績が豊富 | 主に日本国内での利用を想定。海外対応は限定的な場合が多い |
| 主なターゲット | 中堅・大企業、グローバル企業 | 中小企業から中堅企業 |
SAP Concur導入で失敗しないためのポイント
SAP Concurは経費精算・管理業務を劇的に効率化し、ガバナンス強化や経営の可視化に貢献する強力なソリューションです。しかし、その多機能性ゆえに、ただ導入するだけでは期待した効果を最大限に引き出せないケースも少なくありません。
導入プロジェクトを成功に導き、投資対効果(ROI)を最大化するためには、事前の準備と計画が極めて重要です。
ここでは、SAP Concurの導入で失敗しないために押さえておくべき、特に重要な2つのポイントを掘り下げて解説します。
導入目的を明確化する
なぜSAP Concurを導入するのか、その目的が曖昧なままでは、プロジェクトの方向性が定まらず、関係者の足並みも揃いません。 「業務を効率化したい」といった漠然とした目標ではなく、自社の経営課題と紐づけた、具体的で測定可能な目標を設定することが成功の第一歩です。
目的を明確化するためには、まず現状の課題を洗い出すことから始めましょう。以下のような視点で課題を整理することが有効です。
- 業務プロセス上の課題:経費申請から承認、精算までのリードタイムが長い、差し戻しが多い、月末の経理部門の業務が逼迫しているなど。
- コスト・ガバナンス上の課題:出張費や交際費などのコストが適切に管理できていない、不正・不適切な経費利用のリスクがある、経費規定の遵守が徹底されていないなど。
- 経営管理上の課題:経費データがリアルタイムに把握できず、迅速な経営判断に活かせていない、部門別・プロジェクト別のコスト分析ができていないなど。
- 制度対応上の課題:電子帳簿保存法やインボイス制度への対応が急務であるなど。
これらの課題の中から、特に優先度の高いものを特定し、SAP Concurを導入することで「何を」「どこまで」「いつまでに」解決するのかを具体的な目標(KPI)として設定します。例えば、以下のような目標が考えられます。
| 課題領域 | KPI設定例 |
|---|---|
| 業務効率化 | 従業員の経費精算にかかる時間を月平均X時間削減する |
| コスト削減 | 出張費を年間Y%削減する |
| ガバナンス強化 | 規定違反の経費申請率をZ%以下に抑制する |
| ペーパーレス化 | 経費精算に関わる紙の利用を3ヶ月以内にゼロにする |
このように定量的で具体的な目標を経営層から現場の従業員まで、関係者全員で共有することで、導入プロジェクトが「自分ごと」となり、全社的な協力体制を築きやすくなります。
社内の運用体制を整備する
SAP Concurは導入して終わりではなく、むしろ導入してからが本当のスタートです。システムを円滑に社内へ浸透させ、継続的に活用していくためには、それに合わせた運用体制の整備が不可欠です。 体制整備を怠ると、せっかく導入したシステムが十分に活用されず、部分的な利用に留まってしまうリスクがあります。
重点的に整備すべき項目は以下の通りです。
- 推進体制の構築と役割分担
導入プロジェクトを牽引する専任のチームを組成し、責任者を明確にすることが重要です。経理部門だけでなく、情報システム部門、人事部門、そして実際にシステムを利用する各事業部門の代表者などを巻き込み、部門横断的な体制を構築することが望ましいでしょう。経営層にもプロジェクトの重要性を理解してもらい、強力なコミットメントを得ることで、全社的な改革をスムーズに進めることができます。 - 既存業務の見直しと新ルールの策定
SAP Concurの導入を機に、既存の経費精算規定や申請・承認フローそのものを見直す絶好の機会と捉えましょう。 システムの標準機能に合わせて業務プロセスを標準化することで、より大きな効率化が期待できます。特に、電子帳簿保存法に対応したペーパーレス運用を徹底するためのルール(例:領収書の即時スキャン、原本の早期破棄)や、不正を防止するための承認フローなどを明確に定義し、社内規定として整備する必要があります。 - 従業員へのトレーニングとサポート体制
新しいシステムの導入は、従業員にとって一時的な負担増や操作への不安につながることがあります。 全従業員を対象とした操作説明会の実施や、分かりやすいマニュアルの配布は必須です。 また、導入後に発生するであろう質問やトラブルに対応するためのヘルプデスクを設置するなど、従業員が安心して新しいシステムを使えるような手厚いサポート体制を準備しておくことが、スムーズな定着の鍵となります。 - 導入効果の測定と継続的な改善
導入前に設定したKPIに基づき、定期的に効果測定を行いましょう。申請から承認までの時間や差し戻し率、従業員からの問い合わせ件数などをモニタリングし、課題が見つかれば運用ルールを見直したり、追加のトレーニングを実施したりと、継続的に改善サイクル(PDCA)を回していくことが重要です。これにより、SAP Concurの利用価値を長期的に高めていくことができます。
これらのポイントを入念に準備し、計画的に導入プロジェクトを進めることで、SAP Concurは単なる経費精算ツールに留まらず、企業の生産性向上と競争力強化に貢献する強力な経営基盤となるでしょう。
SAP Concurに関するよくある質問
SAP Concurの料金はどのように決まりますか?
SAP Concurの料金は、利用する機能(Concur Expense, Concur Travelなど)や従業員数、契約内容によって変動する個別見積もり制です。詳細な料金については、公式サイトから問い合わせる必要があります。
SAP Concurは中小企業でも導入できますか?
はい、導入できます。SAP Concurは大企業向けのイメージがありますが、従業員規模や業種を問わず導入可能なプランが用意されており、多くの中小企業でも活用されています。
SAP Concurはどのような会計ソフトと連携できますか?
SAP S/4HANA CloudをはじめとするSAP製品群はもちろん、国内の主要な会計ソフトやERPと連携するための標準コネクタやAPIが提供されています。具体的な対応製品については、導入時に確認することをおすすめします。
SAP Concurだけで電子帳簿保存法に対応できますか?
SAP Concurは、領収書の電子保存(スキャナ保存)や電子取引データの保存など、電子帳簿保存法の要件に対応する機能を備えています。JIIMA認証も取得しており、法令に準拠した運用を支援します。
SAP Concurの導入にはどのくらいの期間がかかりますか?
導入期間は、企業の規模や利用する機能の範囲、既存システムとの連携要件などによって異なります。一般的には、数ヶ月から半年程度の期間を見ておくのが目安とされています。
まとめ
本記事では、世界中で利用されている経費精算・管理クラウドであるSAP Concurについて、その機能や導入メリット、料金体系、他システムとの違いを解説しました。SAP Concurは、単なる経費精算の効率化に留まらず、出張手配から請求書処理までを統合的に管理し、バックオフィス業務全体の生産性を向上させるソリューションです。
ガバナンス強化やペーパーレス化、法制度への対応といったメリットに加え、蓄積されたデータを分析・活用することで、経営状況を可視化し、データに基づいた迅速な意思決定を支援します。
特に、機能の網羅性や拡張性、グローバル対応力に優れており、事業の成長や海外展開を見据える企業にとって強力な基盤となるでしょう。
経費精算という領域のDXを成功させることは、より大きな経営課題の解決につながります。SAP Concurで収集・整理された経費データや請求データは、最終的に会計システムや基幹システムであるERPに連携されることで、その価値を最大限に発揮します。経費精算の効率化をきっかけに、会計、販売、人事といった企業全体のデータを統合管理するERPの導入を検討することは、経営の全体最適化に向けた重要なステップです。
この機会に、自社の成長戦略を支えるERPについても情報収集を始めてみてはいかがでしょうか。



