クリーンコアとは?SAPシステムを崩さない標準化戦略とメリット・実現手順

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この記事でわかること

  • クリーンコアの意味とSAPが推進する背景
  • クリーンコアを構成する5つの基本原則
  • クリーンコアを実現するメリットと注意点
  • SAP S/4HANAやSAP BTPを活用した実現方法
  • クリーンコア戦略を進める具体的な手順

クリーンコアとは、ERPの標準機能を最大限に活用し、不要なカスタマイズやシステムの複雑化を抑えるための考え方です。SAPが推進するクリーンコア戦略では、ERPの安定性を維持しながら、業務の変化に対応できる柔軟なシステムを目指します。

クリーンコアは、単にアドオン開発を削減する取り組みではありません。業務プロセスやデータ、システム連携などを含めた基幹システム全体の最適化が求められます。本記事では、クリーンコアの基本的な考え方から、SAPにおける実現方法、導入時の注意点まで詳しく解説します。

クリーンコアとは

クリーンコア(Clean Core)とは、ERPシステムの中核部分をできる限り標準的な状態に保ち、継続的な改善や機能拡張をしやすくするための設計・運用方針です。

SAPは、クリーンコアを継続的なビジネス変革とシステムのモダン化を支える基本原則として位置付けています。ERPの標準機能を活用しながら、必要な独自機能を適切な方法で実現することが重要です。

クリーンコアが目指すERPの姿

クリーンコアが目指すのは、標準機能を基盤として利用しながら、企業独自の業務要件にも対応できるERPです。

従来のERPでは、既存業務にシステムを合わせるため、アドオン開発や独自のカスタマイズが積み重なるケースがありました。導入当初は業務を効率化できても、改修が増えるほどシステム全体の構造を把握しにくくなります。

また、ERPのアップグレード時に独自機能の修正や動作確認が必要となり、システムの刷新が難しくなる場合もあります。

クリーンコアでは、こうした課題を解消するため、標準機能で対応できる業務と、独自の仕組みが必要な業務を切り分けることを重視します。

企業の競争力に直結しない業務はできる限り標準化し、独自性が必要な部分には適切な拡張方法を採用します。これにより、ERPの安定性と業務上の柔軟性を両立しやすくなります。

クリーンコアとFit to Standardの違い

クリーンコアとFit to Standardは密接に関連していますが、対象とする範囲が異なります。

Fit to Standardは、ERPの標準機能に業務プロセスを適合させる導入アプローチです。一方、クリーンコアは、業務プロセスに加えて拡張機能、データ、システム連携、運用まで含めた考え方です。

比較項目 クリーンコア Fit to Standard
目的 ERPの複雑化を抑え、継続的な改善を可能にする ERPの標準機能を前提に業務を設計する
対象範囲 業務、拡張、データ、連携、運用 主に業務プロセスと標準機能
主な取り組み 独自開発の見直し、標準APIの利用、データ管理など 現行業務と標準機能の差分確認、業務の標準化
実施時期 導入・移行時から運用開始後まで継続 主にERP導入・刷新時の業務設計

つまり、Fit to Standardはクリーンコアを実現するための重要なアプローチの一つです。導入時に業務を標準化しても、運用開始後に独自開発を無秩序に増やせば、システムは再び複雑化します。

クリーンコアを維持するには、導入後も標準化と拡張機能の管理を続ける必要があります。

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SAPがクリーンコアを推進する背景

SAPがクリーンコアを推進する背景には、従来型ERPの複雑化や、クラウド環境で継続的に新機能を取り入れる必要性があります。

業務のデジタル化が進むなか、基幹システムには安定した処理だけでなく、新たなビジネスモデルや技術に対応できる柔軟性も求められています。

アドオン開発の増加によるシステムの複雑化

独自のアドオン開発が増えると、ERPの保守や改修にかかる負担が大きくなる可能性があります。

例えば、販売管理システムに独自の価格計算処理を追加した場合、関連する受注処理や請求処理にも影響することがあります。こうした独自機能が複数の業務にまたがって存在すると、一つの変更に対して広範囲の影響調査が必要です。

さらに、開発時の担当者しか仕様を把握していない場合、属人化によって改修や障害対応が難しくなることも考えられます。

クリーンコアは、不要な独自開発を減らし、システムの構造を整理することで、このような技術的負債の蓄積を抑えるための考え方です。

クラウドERPへの移行と継続的なアップデート

クラウドERPの機能改善を継続的に取り入れるためにも、クリーンコアは重要です。

クラウドERPでは、提供形態に応じてベンダーが機能改善やアップデートを提供します。しかし、標準機能への依存関係を考慮せずに独自開発を行うと、更新時の互換性確認や修正が必要になる可能性があります。

クリーンコアの原則に沿った拡張方法を採用することで、標準機能への影響を抑え、将来の更新に対応しやすいシステムを構築できます。

ただし、クリーンコアに対応すれば更新時のテストが不要になるわけではありません。業務への影響確認や回帰テストなどは、引き続き必要です。

AIや新しいデジタル技術の活用

AIや新たなデジタル技術を業務に取り入れやすくすることも、クリーンコアが重視される理由です。

例えば、販売実績や在庫データを活用した需要予測、経理業務の自動化、業務担当者への情報提供などでは、正確なデータと安定したシステム連携が求められます。

独自仕様が複雑に組み込まれていると、必要なデータを抽出したり、新しいサービスと接続したりする際に追加開発が必要になる場合があります。

業務プロセスやデータの管理方法を整理し、標準的なインターフェースを活用することで、AIをはじめとする新技術を導入するための基盤を整えやすくなります。

クリーンコアを構成する5つの基本原則

SAPが示すクリーンコア戦略は、プロセス、拡張性、データ、統合、運用の5つの基本原則で構成されています。

クリーンコアを実現するには、アドオン開発だけでなく、基幹システムを取り巻く業務や管理体制を含めた取り組みが必要です。

基本原則 主な考え方 具体的な取り組み例
プロセス 業務を可能な限り標準化する 業務フローの見直し、Fit to Standard
拡張性 標準機能への影響を抑えて機能を追加する 公開APIやSAP BTPの活用
データ データの品質と一貫性を維持する マスターデータ管理、データ品質管理
統合 安全で標準化された方法でシステムを連携する API連携、連携方式の標準化
運用 適切なガバナンスと継続的な改善を行う 変更管理、拡張機能の定期評価

プロセス:標準業務を最大限に活用する

プロセスの原則では、SAPの標準機能に業務をできる限り合わせ、不要な業務の複雑さを減らします。

例えば、部門ごとに異なる購買申請や承認方法を採用している企業では、業務の共通化によって承認フローを整理できる可能性があります。部門独自の運用が必要な場合も、まず標準機能で対応できる範囲を確認することが重要です。

すべての業務を一律に標準化するのではなく、企業の競争力につながる独自業務を見極めながら進めます。

拡張性:コアへの影響を抑えて機能を追加する

拡張性の原則では、ERPの中核部分を直接変更することをできる限り避け、適切な方法で独自機能を実現します。

SAPでは、製品やバージョンに応じて、公開されたAPIや拡張ポイントを利用する方法、ERP内で拡張する方法、SAP Business Technology Platform(SAP BTP)などを利用して外部に機能を構築する方法が用意されています。

例えば、独自の取引先向けポータルが必要な場合、ERP本体に画面や処理を直接追加するのではなく、外部アプリケーションとして構築する方法が考えられます。

必要な機能を維持しながら、ERP本体の更新に伴う影響を小さくすることが目的です。

データ:正確で一貫性のある情報を管理する

データの原則では、ERPで利用するデータの品質を維持し、適切なルールに基づいて管理します。

例えば、同じ取引先が複数の名称やコードで登録されていると、売上分析や債権管理の際に正確な集計が難しくなります。

このような問題を防ぐには、マスターデータの登録基準や更新ルールを明確にし、重複や不整合を継続的に確認することが大切です。

また、データの保管期間やアクセス権限を管理することも必要です。正確で適切に管理されたデータは、経営分析やAI活用の信頼性を高める基盤になります。

統合:標準的な方法でシステムを連携する

統合の原則では、標準化されたインターフェースを活用し、安全で保守しやすいシステム連携を目指します。

多くの企業では、ERP以外にも販売管理、物流、人事、顧客管理などのシステムを利用しています。これらを個別の独自プログラムで接続すると、連携先の変更によって広範囲の修正が必要になる場合があります。

標準APIや適切な連携基盤を採用すれば、システム間の依存関係を整理しやすくなります。ただし、APIを使用するだけで連携が適切になるわけではありません。認証、エラー処理、データの整合性なども考慮する必要があります。

運用:クリーンな状態を継続的に維持する

運用の原則では、導入後もERPが複雑化しないように、管理体制と改善プロセスを整備します。

例えば、新しい機能の追加要望が出た際には、標準機能で対応できるか、既存の拡張機能を活用できるか、新たな開発が本当に必要かを確認します。

また、独自機能の利用状況を定期的に調べ、使われなくなったプログラムを整理することも重要です。

クリーンコアは一度実現すれば完了するものではありません。継続的に評価・改善する運用体制を整えることが、長期的な効果につながります。

クリーンコアを実現する4つのメリット

クリーンコアを実現すると、ERPの保守性向上や運用負担の軽減、新機能への対応力向上などが期待できます。

特に、長期間利用しているERPの刷新やクラウド移行を検討する企業にとって、システムの複雑性を抑えることは重要な課題です。

アップグレード時の負担を軽減できる

クリーンコアのメリットは、ERPのアップグレードに伴う改修や動作確認の負担を軽減しやすいことです。

独自開発が標準機能の内部構造に強く依存している場合、アップグレードによって想定外の影響が発生することがあります。

公開APIや正式に提供されている拡張方式を使用し、依存関係を整理しておけば、独自機能の修正範囲を抑えやすくなります。

結果として、新しい機能や改善を取り入れる際の計画を立てやすくなり、継続的なシステム改善につながります。

保守・運用コストの削減につながる

不要なアドオンや独自処理を減らすことで、ERPの保守・運用コストを削減できる可能性があります。

独自開発が多いシステムでは、改修費用だけでなく、仕様調査、障害対応、テスト、開発担当者の引き継ぎなどにもコストが発生します。

標準機能への集約によって管理対象のプログラムを減らせれば、こうした作業の効率化が期待できます。

ただし、外部への機能分離には新たな開発費用やクラウドサービスの利用料が発生する場合があります。導入費用だけではなく、中長期的な総保有コスト(TCO)で評価することが大切です。

業務の標準化と効率化を進めやすい

クリーンコアは、企業内の業務プロセスを整理し、標準化を進めるきっかけになります。

例えば、複数拠点で異なる発注方法や在庫管理ルールを採用している場合、ERP刷新に合わせて共通化を検討できます。

業務フローを統一できれば、部門間での情報共有や業務の引き継ぎが容易になる可能性があります。また、各拠点で共通のデータを利用できるようになれば、経営状況の把握にも役立ちます。

ただし、業務標準化には現場の協力が欠かせません。システムの変更だけではなく、業務手順や役割分担の見直しも必要です。

AIや新機能を導入しやすくなる

ERPの標準化とデータ連携の整備によって、AIや新しいアプリケーションを活用するための環境を構築しやすくなります。

SAPでは、ビジネス向けAI機能をSAP Business AIとして展開しています。こうした機能を業務に取り入れるには、対象となる製品や利用環境に応じたデータ基盤や連携方式が重要です。

クリーンコアの原則に沿ってシステムを整理することで、新しい技術の導入時に既存の独自開発との調整が必要になる場面を減らせる可能性があります。

なお、クリーンコアへの対応だけでAI機能が利用できるわけではありません。必要な契約、製品要件、データの利用条件などは個別に確認する必要があります。

SAPでクリーンコアを実現するための技術と製品

SAP環境でクリーンコアを実現するには、ERPの標準機能に加え、適切な拡張技術やクラウドサービスを組み合わせることが重要です。

代表的な選択肢として、SAP S/4HANAの拡張機能、SAP BTP、ABAP Cloudなどがあります。

SAP S/4HANAとクリーンコアの関係

SAP S/4HANAは、企業の会計、販売、購買、生産などの基幹業務を統合的に管理するERP製品です。クリーンコアは、SAP S/4HANAをできる限り標準的な状態で利用し、継続的な改善を進めるための考え方として活用できます。

ただし、SAP S/4HANAには異なる提供形態があり、利用できる拡張方法や更新の管理方法も同一ではありません。

提供形態 主な特徴 クリーンコア実現時の考え方
SAP S/4HANA Cloud Public Edition 標準化されたクラウドERPとして提供される 標準機能と提供される拡張方式を中心に設計する
SAP S/4HANA Cloud Private Edition 既存のSAP資産や個別要件を考慮しやすいクラウドERP 既存開発を評価し、標準化と適切な拡張方式への移行を進める
SAP S/4HANA(オンプレミス) 企業側の管理方針に応じたシステム運用が可能 独自開発や既存連携を整理し、将来の更新を考慮した設計を進める

特に、既存システムから移行する企業では、現在のアドオンをそのまま残すのではなく、標準機能への置き換えや廃止を検討することが重要です。

なお、Public Edition、Private Edition、オンプレミスでは、機能や拡張技術の対応状況が異なります。実際の設計時には、利用する製品とリリースに対応したSAP公式ドキュメントを確認する必要があります。

SAP BTPを活用したサイドバイサイド拡張

SAP Business Technology Platform(SAP BTP)は、アプリケーション開発、統合、データ活用などを支援するプラットフォームです。

クリーンコアでは、SAP BTP上に独自のアプリケーションを構築し、ERP本体と連携させるサイドバイサイド拡張が選択肢となります。

例えば、取引先専用の注文画面や独自の承認アプリケーションをERP本体とは別に構築し、公開APIなどを通じて必要な情報を連携する方法です。

ERP本体と拡張アプリケーションを分離することで、それぞれの開発や変更を管理しやすくなる可能性があります。

ただし、すべての独自機能をSAP BTPに移す必要はありません。処理の内容やデータ連携の頻度、応答速度などを考慮し、適切な拡張方式を選択します。

ABAP Cloudを活用した拡張開発

ABAP Cloudは、公開された開発オブジェクトやクラウド対応の開発モデルを活用し、アップグレードへの影響を抑えたABAP開発を実現するための仕組みです。

SAPが提供する正式な拡張ポイントやAPIを利用することで、標準オブジェクトへの直接的な依存を減らせます。

例えば、標準機能だけでは対応できない業務ロジックを、許可された開発方式で追加することが考えられます。

従来のABAPによる独自開発がすべて禁止されるわけではありませんが、既存開発の継続利用と新規開発の方針は分けて検討することが重要です。

特にPrivate Editionやオンプレミスでは、既存資産を評価しながら段階的に開発方式を見直すアプローチが考えられます。

クリーンコアにおける拡張方式の選び方

独自機能が必要な場合は、業務要件とERP本体への依存度を考慮して拡張方式を選択します。

SAPの拡張方法は、大きく次のように整理できます。

拡張方式 主な用途 選択時のポイント
キーユーザー拡張 画面項目の追加、軽微な業務ロジックの変更など 標準の拡張機能で要件を満たせるか
開発者拡張 ERP内で実行する独自ロジックやアプリケーション 公開オブジェクトを活用できるか
サイドバイサイド拡張 独自アプリケーション、外部向けサービスなど ERP本体から分離できるか、連携要件を満たせるか

例えば、画面に項目を追加するだけであれば、キーユーザー拡張で対応できる可能性があります。一方、外部システムと連携する独立したアプリケーションが必要なら、サイドバイサイド拡張が適している場合があります。

重要なのは、独自開発を完全になくすことではなく、必要な機能を適切な場所に配置することです。

クリーンコア戦略の進め方【5つのSTEP】

クリーンコア戦略は、現行システムの調査から業務の標準化、拡張機能の再設計、運用体制の整備まで段階的に進めます。

特に既存のSAP ERPから移行する企業では、現在の独自開発を正確に把握し、必要性を評価することが重要です。

STEP1:現行システムとアドオンを可視化する

最初に、現在利用しているERPの構成や業務プロセス、独自開発の状況を整理します。

長期間運用しているシステムでは、利用されなくなった機能や、標準機能で代替できる独自プログラムが残っている可能性があります。

そのため、アドオンの数を調べるだけでなく、利用状況や業務上の重要性も確認します。

  • 導入済みのアドオンや独自プログラムを一覧化する
  • 各機能の利用部門と利用頻度を調べる
  • 標準機能を直接変更している箇所を確認する
  • 外部システムとの連携方式を整理する
  • 不要な機能や重複する処理を洗い出す

SAP環境では、SAP Readiness Checkなどの分析手段も検討できます。ただし、利用できる分析内容や必要な前提条件は対象システムによって異なります。

現状を可視化することで、今後の標準化や開発方針を判断するための基礎情報を整えられます。

STEP2:業務プロセスを標準機能と比較する

次に、現在の業務プロセスを整理し、SAPの標準機能で対応できる範囲を確認します。

この段階では、現行業務をそのまま再現することを前提にせず、業務自体を見直すことが重要です。

例えば、複数部門で独自の帳票を使用している場合、標準帳票への統一や出力項目の見直しによって対応できる可能性があります。

標準化によって問題が生じる業務については、その理由を確認し、法令対応や競争力の維持などの観点から独自機能の必要性を判断します。

情シス部門だけで判断せず、実際に業務を担当する現場部門と協力して進めることが大切です。

STEP3:アドオンの廃止・標準化・再構築を判断する

現行アドオンを評価し、廃止、標準機能への置き換え、拡張方式の変更、継続利用などに分類します。

独自機能が存在するからといって、すべて再開発する必要はありません。業務への影響と費用対効果を考慮しながら、対応方針を決めます。

判断区分 判断の目安 対応例
廃止 利用されていない、業務上の必要性が低い 不要な帳票や独自処理を削除する
標準化 SAPの標準機能で代替できる 独自の承認処理を標準ワークフローへ移行する
再構築 独自機能が必要で、既存方式では更新時の影響が大きい 公開APIやSAP BTPを活用して再設計する
継続利用 業務上必要で、直ちに置き換えることが難しい 影響範囲を管理し、将来の改善対象として残す

例えば、独自の請求帳票を複数利用している場合、標準帳票で代替可能なものは集約し、取引先ごとの必須要件があるものだけを残す方法が考えられます。

優先順位は、業務上の重要性、改修リスク、開発費用などを踏まえて決めます。

STEP4:適切な拡張方式とシステム連携を設計する

残す必要がある独自機能については、クリーンコアの原則に沿って設計し直します。

画面の軽微な変更ならキーユーザー拡張、ERP内部の業務ロジックなら開発者拡張、独立したアプリケーションならサイドバイサイド拡張など、要件に応じて検討します。

また、外部システムとの連携については、利用できる公開APIや連携サービスを確認し、変更時の影響を抑えられる構成を目指します。

設計時には、機能面だけでなく、セキュリティ、データ整合性、応答性能、障害発生時の復旧方法なども評価する必要があります。

拡張方式を決めた後は、設計基準を文書化し、新規開発でも同じ基準を適用できるようにします。

STEP5:運用ルールと継続的な改善体制を整える

最後に、運用開始後もクリーンコアを維持するための管理ルールを整備します。

例えば、現場から新しい機能の開発要望があった場合、標準機能で代替できるかを最初に確認し、必要に応じて拡張方式を審査する流れを設けます。

また、独自機能の利用状況やシステム連携の状態を定期的に評価することも重要です。

管理指標としては、以下のようなものが考えられます。

  • 独自開発プログラムの数と利用状況
  • 標準機能で処理できる業務の割合
  • 公開APIを利用している連携の割合
  • アップグレード時に必要となる改修件数
  • 障害対応や保守作業にかかる工数

これらの指標を継続的に確認することで、改善すべき領域を把握しやすくなります。クリーンコアは導入時だけの活動ではなく、日常のIT運用にも組み込むことが重要です。

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クリーンコアを進める際の注意点

クリーンコアはERPの複雑性を減らすための有効な考え方ですが、無理な標準化や独自機能の廃止は業務上の問題につながる可能性があります。

実現にあたっては、事業上の必要性やシステム全体への影響を確認しながら進めることが大切です。

アドオンをすべて廃止する必要はない

クリーンコアは、アドオン開発を全面的に禁止する考え方ではありません。

企業独自の業務プロセスが競争力につながっている場合、必要な機能を残すことも重要です。例えば、独自の製造工程管理や特殊な受注処理などは、標準機能だけでは十分に対応できない可能性があります。

そのような場合は、適切な拡張方式を利用することで、業務要件とクリーンコアの両立を目指します。

アドオンの数だけで良し悪しを判断するのではなく、必要性や開発方式、保守性を評価することが大切です。

業務標準化には現場部門との合意が必要

ERPの標準機能を活用するには、現場部門の業務を変更する必要が生じる場合があります。

例えば、これまで部門独自の承認手順を採用していた場合、標準ワークフローへの変更によって担当者の役割や作業手順が変わる可能性があります。

情シス部門だけで標準化を進めると、実際の業務要件を十分に把握できず、現場に負担が生じるおそれがあります。

変更の目的やメリットを共有し、必要に応じて業務手順の整備や教育を実施することが重要です。

SAP BTPへの機能分離だけでは不十分

独自機能をSAP BTPなどの外部環境へ移すだけでは、クリーンコアが実現するとは限りません。

例えば、ERP内部の非公開オブジェクトに依存した連携を残したまま機能を分離すると、アップグレード時の問題が解消されない可能性があります。

また、連携処理が過度に複雑になると、システム全体の運用負担が増える場合もあります。

そのため、ERP本体から機能を分離する際は、公開APIの利用可否やデータ連携方式、運用体制まで含めて設計する必要があります。

短期的な開発費用だけで判断しない

クリーンコアの取り組みでは、初期費用だけではなく、将来的な保守や更新にかかる費用も評価することが重要です。

例えば、既存のアドオンをそのまま移行する方が、短期的には費用を抑えられる場合があります。しかし、将来のアップグレードで追加改修が必要になれば、長期的なコストが増える可能性があります。

一方、独自機能を再構築する場合も、初期開発やデータ移行、利用者教育などの負担が発生します。

それぞれの選択肢について、開発費用、運用費用、更新時のリスク、業務への影響を比較して判断しましょう。

クリーンコアに関するよくある質問

ここでは、クリーンコアの導入やSAPでの実現方法について、よくある質問に回答します。

クリーンコアとアドオン開発は両立できますか?

クリーンコアとアドオン開発は両立できます。重要なのは、標準機能への影響を抑えた方法で独自機能を実現することです。SAPでは、公開APIやABAP Cloud、SAP BTPなどを活用した拡張方法が用意されており、要件に応じて選択できます。

クリーンコアはSAP S/4HANA Cloud Public Edition以外でも必要ですか?

クリーンコアは、Private EditionやオンプレミスのSAP S/4HANAでも重要な考え方です。ただし、提供形態によって利用できる開発方式やシステム更新の仕組みは異なります。既存の独自開発が多い環境では、段階的に標準化や拡張方式の見直しを進めることが考えられます。

クリーンコアを実現するにはSAP BTPが必須ですか?

SAP BTPは、すべてのクリーンコア対応に必須というわけではありません。標準機能の活用やERP内で提供される拡張方式によって対応できる場合もあります。一方、独立したアプリケーションの開発や外部システムとの連携が必要な場合は、SAP BTPが有力な選択肢になります。

クリーンコアとFit to Standardは同じ意味ですか?

クリーンコアとFit to Standardは同じ意味ではありません。Fit to Standardは、ERPの標準機能に業務を合わせる導入アプローチです。クリーンコアは、業務の標準化だけでなく、拡張機能、データ、統合、運用まで含めた広い概念です。

既存のSAP ERPでもクリーンコアに移行できますか?

既存のSAP ERPでも、クリーンコアの考え方を取り入れて段階的に改善することは可能です。まずはアドオンの利用状況や外部連携を調査し、不要な機能の廃止や標準機能への置き換えを検討します。そのうえで、業務上必要な独自機能について適切な拡張方式を選択することが重要です。

クリーンコアを実現して継続的に進化できるERPを目指そう

クリーンコアは、ERPの標準機能を積極的に活用しながら、システムの複雑化を抑え、継続的な改善を進めやすくするための考え方です。SAPでは、業務プロセス、拡張性、データ、統合、運用の5つの原則を重視し、安定性と柔軟性を両立できるERP環境を目指しています。

クリーンコアを実現するうえでは、以下のポイントが重要です。

  • ERPの標準機能を優先し、不要なカスタマイズを減らす
  • 独自機能が必要な場合は、適切な拡張方式を選択する
  • 業務プロセスだけでなく、データやシステム連携も見直す
  • 既存のアドオンを評価し、廃止・標準化・再構築を判断する
  • 導入後も管理ルールを整備し、継続的な改善を進める

特に、既存のSAP ERPからの移行やクラウドERPの導入を検討している企業では、現行業務と独自開発の状況を整理することが第一歩です。すべての機能を一度に変更するのではなく、業務への影響や費用対効果を確認しながら、優先順位を決めて進めましょう。

また、クリーンコアは情シス部門だけで完結する取り組みではありません。現場部門や経営層とも目的を共有し、業務改革とシステム刷新を一体的に進めることが重要です。

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