この記事でわかること
- 職務分掌の意味と職務権限・業務分掌との違い
- 職務分掌を明確にする目的とメリット
- 部署別の職務分掌の具体例
- 職務分掌表の作り方と運用時の注意点
- ERPを活用して職務分掌と内部統制を強化する方法
職務分掌とは、組織内の業務や役割、責任の範囲を部署や担当者ごとに明確にすることです。適切な職務分掌は、業務の効率化や責任の明確化だけでなく、不正やミスの発生リスクを低減する内部統制の強化にもつながります。
一方、担当範囲が曖昧だったり、特定の担当者に業務が集中したりすると、業務の属人化やチェック機能の形骸化を招く可能性があります。
本記事では、職務分掌の基本的な考え方から、部署別の具体例、職務分掌表の作成手順まで解説します。ERPを活用して職務分掌を実際の業務に反映する方法も紹介するため、組織体制の見直しに役立ててください。
職務分掌とは
職務分掌とは、企業や組織における業務を整理し、それぞれの部署や担当者が担う役割と責任を明確にすることです。誰が何を担当するのかを定めることで、組織全体の業務を円滑に進めやすくなります。
例えば、購買業務であれば、発注を担当する人、納品を確認する人、支払いを承認する人を分けるといった方法が考えられます。
職務分掌は単に仕事を分けるための仕組みではありません。業務上の責任を明確にし、適切な確認・承認体制を構築するうえでも重要な役割を果たします。
職務分掌と職務権限の違い
職務分掌は業務の担当範囲を定めるものであり、職務権限は担当者がどこまで判断・決定できるかを定めるものです。両者は密接に関係していますが、役割が異なります。
| 項目 | 職務分掌 | 職務権限 |
|---|---|---|
| 目的 | 業務や責任の担当範囲を明確にする | 意思決定や承認の権限を明確にする |
| 主な内容 | 担当部署、業務内容、責任範囲 | 決裁権限、承認範囲、判断できる金額 |
| 具体例 | 購買部門が発注業務を担当する | 一定金額を超える発注は部長が承認する |
| 関連する規程 | 職務分掌規程 | 職務権限規程、決裁権限規程 |
例えば、営業部門が見積書の作成を担当すると定めるのが職務分掌です。一方、値引き率や契約金額に応じて、誰が承認するかを決めるのが職務権限に該当します。
どちらか一方だけでは、業務上の責任と判断基準を十分に整理できません。職務分掌と職務権限を組み合わせ、担当業務と承認権限の両方を明確にすることが重要です。
職務分掌と業務分掌の違い
職務分掌と業務分掌は、どちらも組織内の仕事の分担を明確にするための考え方です。一般的には、業務分掌が部署・組織単位の業務範囲を示すのに対し、職務分掌は役職や担当者単位の役割まで具体化する際に使われます。
例えば、経理部門が決算業務を担当すると定めるのは業務分掌、経理担当者が仕訳を入力し、経理責任者が内容を承認すると定めるのは職務分掌と整理できます。
ただし、両者に法律上の統一的な区分があるわけではなく、企業によって用語の使い方は異なります。自社で規程を整備する際は、それぞれの定義と管理対象を統一しておくことが大切です。
職務分掌と内部統制の関係
職務分掌は、内部統制を機能させるための重要な仕組みの一つです。特に、相互にチェックすべき業務を異なる担当者に割り当てることで、不正や誤りが発生するリスクを抑えられます。
金融庁が公表している財務報告に係る内部統制の基準では、内部統制の目的として、業務の有効性・効率性、報告の信頼性、法令等の遵守、資産の保全が示されています。
例えば、取引先の登録から請求書の処理、支払いの承認までを一人で担当している場合、誤った支払いを見逃すおそれがあります。こうしたリスクを軽減するには、取引の登録・実行・承認・確認といった職務を適切に分離することが効果的です。
この考え方は職務分離(Segregation of Duties:SoD)とも呼ばれ、企業の内部統制やシステムのアクセス権限管理において重視されています。
職務分掌を明確にする4つの目的・メリット
職務分掌を明確にする目的は、業務効率の向上、責任範囲の明確化、不正・ミスの防止、組織運営の安定化です。担当業務を整理することで、日常業務だけでなく、組織の拡大や人員変更にも対応しやすくなります。
業務の重複や抜け漏れを防止する
職務分掌を整備すると、部署間や担当者間で重複している業務や、誰も担当していない業務を把握しやすくなります。
例えば、営業部門と経理部門の双方が売掛金の入金状況を個別に管理している場合、確認作業が重複するだけでなく、管理するデータに差異が生じる可能性があります。
担当範囲と情報共有のルールを明確にすれば、不要な作業を削減し、業務の抜け漏れも防ぎやすくなります。部門間の連携を円滑にするうえでも、職務分掌の整備は有効です。
責任の所在を明確にする
職務分掌によって業務の責任者を定めると、問題が発生した際の報告先や対応主体を明確にできます。
担当者が決まっていない業務では、対応の遅延や部門間の責任の押し付け合いが生じるおそれがあります。特に複数部署が関わる業務では、実行担当者だけでなく、最終的な責任者を決めておくことが重要です。
責任の所在が明確になれば、業務の進捗確認や改善活動も進めやすくなります。ただし、責任を特定の個人に集中させるのではなく、組織として支援できる体制も必要です。
不正やヒューマンエラーを防止する
職務分掌を適切に設計することで、不正やヒューマンエラーを防止・発見しやすい体制を構築できます。特に、金銭や資産を扱う業務では、実行者と承認者を分けることが重要です。
例えば、支払いデータを作成した担当者とは別の責任者が内容を確認することで、振込先や金額の誤りに気づく機会が生まれます。
ただし、単に担当者を分けるだけでは十分ではありません。確認内容や承認基準を明確にし、適切な証跡を残すことで、内部統制の実効性を高められます。
業務の属人化を防ぎ、組織変更に対応しやすくする
職務分掌は、担当者に依存しない業務体制の構築にも役立ちます。業務内容や責任範囲を整理しておけば、異動や退職が発生しても引き継ぎを進めやすくなります。
特に成長過程にある企業では、従業員の増加に伴い、従来の役割分担では対応できなくなることがあります。
職務分掌を定期的に見直すことで、組織規模や事業内容に合った体制へ変更しやすくなります。また、業務内容が可視化されるため、人員配置や教育計画を検討する際の判断材料としても活用できます。
職務分掌の具体例を部署別に紹介
職務分掌の内容は、部署や業務の性質によって異なります。実際の運用では、担当業務だけでなく、責任者や他部署との連携範囲まで整理することが大切です。
ここでは、一般的な企業を想定した職務分掌の例を紹介します。
| 部署 | 主な担当業務 | 役割分担のポイント |
|---|---|---|
| 営業部門 | 顧客対応、見積作成、受注管理、売上計画 | 契約条件の決裁や売上計上との役割分担を明確にする |
| 経理・財務部門 | 仕訳入力、債権債務管理、決算、資金管理 | 取引入力、支払実行、承認、照合の担当を整理する |
| 人事・労務部門 | 採用、勤怠管理、給与計算、人事評価 | 個人情報へのアクセス権限や給与データの承認を管理する |
| 購買部門 | 仕入先選定、見積取得、発注、契約管理 | 発注、検収、請求書処理の担当を必要に応じて分ける |
| 製造・物流部門 | 生産計画、製造管理、在庫管理、出荷管理 | 在庫の移動・修正・確認に関する責任範囲を整理する |
| 情報システム部門 | システム運用、アカウント管理、セキュリティ管理 | 権限の申請・承認・設定・監査を適切に分離する |
経理・財務部門における職務分掌
経理・財務部門では、金銭の管理や財務報告の信頼性を確保するため、職務分掌が特に重要です。取引を記録する担当者と、その取引を確認・承認する担当者を分けることが基本的な考え方となります。
例えば、請求書の内容確認、支払データの作成、支払承認、銀行口座の照合を適切に分担します。
また、経理部門が少人数の場合は、すべての職務を分離することが難しいケースもあります。その場合は、経営者による定期的な確認や取引記録の照合など、代替的な統制を検討する必要があります。
購買・調達部門における職務分掌
購買・調達部門では、発注から検収、支払いまでの各工程を整理することが重要です。特定の担当者が取引先の選定から支払いまでを自由に実行できる状態は、適切なチェックが働かない原因となります。
例えば、購買担当者が発注を行い、現場担当者が納品を確認し、経理担当者が請求内容を照合する体制が考えられます。
発注情報・検収情報・請求情報を突き合わせることで、数量や金額の相違にも気づきやすくなります。取引金額やリスクに応じて承認ルールを設定することも効果的です。
情報システム部門における職務分掌
情報システム部門では、システムの操作権限や管理権限を適切に分ける必要があります。特に、利用者の権限を設定する担当者が、その権限の承認まで自由に実行できる状態には注意が必要です。
例えば、アカウント発行の申請者、承認者、設定作業者を分離する方法があります。また、システム開発と本番環境への変更承認についても、役割を整理することが望まれます。
システム上のアクセス権限は、実際の職務分掌と一致していることが重要です。異動や退職時に権限を更新する運用も整備しておきましょう。
職務分掌表とは?記載項目と作成例
職務分掌表とは、部署や役職、担当者ごとの業務内容と責任範囲を一覧にした文書です。職務分掌を可視化し、業務の重複や責任の曖昧さを確認するために使用します。
職務分掌表に決まった統一様式はありませんが、実務では以下のような項目を整理すると管理しやすくなります。
職務分掌表に記載する主な項目
- 部署名:業務を担当する組織
- 業務名:担当する業務の名称
- 業務内容:具体的な作業や管理対象
- 実行担当者:業務を実施する役職や担当者
- 責任者:業務の結果に責任を持つ役職
- 承認者:判断や決裁を担当する役職
- 関連部署:連携が必要な部署
- 関連規程:職務権限規程や業務マニュアルなど
担当者の氏名だけで管理すると、人事異動のたびに大幅な修正が必要になる場合があります。そのため、基本的には部署名や役職名で整理し、必要に応じて担当者名を別途管理する方法が考えられます。
職務分掌表の記載例
職務分掌表は、業務の実行・承認・確認を誰が担当するかがわかる形式にすると、内部統制の点検にも活用できます。以下は購買・支払業務を想定した記載例です。
| 業務 | 実行担当 | 承認・確認担当 |
|---|---|---|
| 購買依頼 | 各部門の担当者 | 各部門の責任者 |
| 発注処理 | 購買担当者 | 購買責任者 |
| 納品・検収 | 受入担当者 | 受入部門の責任者 |
| 請求書照合 | 経理担当者 | 経理責任者 |
| 支払データ作成 | 経理担当者 | 財務責任者 |
| 支払実行 | 権限を付与された財務担当者 | 所定の決裁権限者 |
実際の作成時は、各工程でどのような情報を確認するのか、承認が必要となる条件は何かについても整理しておきます。
なお、この表はあくまで一例です。企業規模や組織体制、利用するシステムに応じて、適切な役割分担を検討してください。
職務分掌表の作り方を5つのSTEPで解説
職務分掌表を作成する際は、現在の業務を洗い出したうえで、責任範囲や承認ルールを整理することが重要です。最初から理想的な分担を決めるのではなく、実際の業務とリスクを把握しながら設計します。
STEP1:部署ごとの業務を洗い出す
最初に、各部署で実施している業務を一覧化します。日常的な作業だけでなく、月次・年次業務や例外的に発生する業務も対象にします。
例えば、経理部門であれば、仕訳入力、請求書処理、入金消込、支払処理、決算業務などを整理します。
業務の名称だけでなく、実際の手順や使用するシステム、他部署との連携も確認しましょう。担当者へのヒアリングや既存の業務マニュアルを活用すると、実態を把握しやすくなります。
STEP2:現在の担当者と責任範囲を確認する
次に、洗い出した業務について、現在の実行担当者や責任者を確認します。組織図や既存の規程だけで判断せず、実際に誰が業務を行っているかを調べることが重要です。
例えば、規程上は管理職が承認することになっていても、実際には担当者が承認を代行しているケースがあります。
現状と規程の違いを把握することで、責任が曖昧な業務や特定の担当者に集中している業務を発見できます。
STEP3:業務上のリスクと職務分離の必要性を評価する
業務ごとのリスクを整理し、分離すべき職務を検討します。すべての作業を別々の担当者に割り当てる必要はありませんが、不正や誤りが重大な影響を及ぼす業務は優先的に確認します。
特に、取引先マスタの変更、発注、支払承認、会計データの修正などは、権限の組み合わせに注意が必要です。
リスクを評価する際は、取引金額や発生頻度、発見の難しさなども考慮します。必要な職務分離が難しい場合は、独立した担当者による事後確認などの代替策を検討しましょう。
STEP4:職務分掌表と関連規程を作成する
業務内容と責任範囲が整理できたら、職務分掌表を作成します。担当部署、実行者、責任者、承認者などを明確にし、関係部署との認識を統一します。
その際、職務権限規程や決裁規程との整合性も確認しましょう。例えば、職務分掌表では購買責任者が承認するとされているのに、決裁規程では別の役職に権限が与えられている場合、実務で混乱が生じる可能性があります。
業務の担当範囲と意思決定の権限を一貫したルールで管理することが重要です。
STEP5:運用状況を確認し、定期的に見直す
職務分掌表は、作成して終わりではありません。実際の業務で定められた役割分担が守られているかを確認し、必要に応じて更新します。
特に、組織変更、人事異動、新規事業の開始、システム導入などが発生した際は、担当範囲や承認権限の見直しが必要になることがあります。
また、職務分掌表とシステム上のアクセス権限が一致しているかも確認しましょう。定期的な点検を行うことで、規程と実際の運用が乖離することを防ぎやすくなります。
職務分掌を整備・運用する際の注意点
職務分掌を効果的に運用するには、責任範囲を明確にするだけでなく、業務効率や組織体制とのバランスを考えることが大切です。形式的なルールを増やすだけでは、かえって業務が複雑になる可能性があります。
職務を細分化しすぎない
職務分掌を細かく設定しすぎると、承認や引き継ぎの回数が増え、業務効率が低下するおそれがあります。
例えば、重要性の低い日常業務まで複数人の承認を必要とすると、意思決定に時間がかかる可能性があります。
業務の重要性やリスクに応じて、必要な範囲で役割を分離することが重要です。取引金額や業務の性質に合わせて承認基準を設けると、統制と効率性を両立しやすくなります。
少人数の部署では代替的な統制を設ける
少人数の部署では、すべての業務を異なる担当者に割り当てることが難しい場合があります。そのような場合は、業務の分離に代わる確認方法を設ける必要があります。
例えば、担当者が支払データの作成と実行を兼務する場合でも、別の管理者が事前に支払内容を承認し、銀行の取引記録を定期的に照合する方法が考えられます。
ただし、代替策を設けたからといって、すべてのリスクが解消されるわけではありません。重要な業務ほど、第三者による確認が実効的に機能しているかを評価することが大切です。
規程と実際の業務を一致させる
職務分掌表と実際の業務に差があると、責任範囲が不明確になり、内部統制が十分に機能しなくなる可能性があります。
特に、従業員の異動後も以前のシステム権限が残っている場合や、例外処理の担当者が決まっていない場合は注意が必要です。
現場へのヒアリングや業務記録の点検を通じて、規程と運用が一致しているか確認しましょう。職務分掌を継続的に管理する仕組みを整えることが重要です。
ERPの活用によって職務分掌を強化する方法
職務分掌を実効性のある仕組みにするには、社内規程だけでなく、日常業務で利用するシステムにも役割分担を反映することが重要です。ERP(Enterprise Resource Planning:企業資源計画)を活用すれば、アクセス権限や承認フローを業務プロセスと結び付けて管理できます。
ERPは会計、購買、販売、在庫などの業務情報を統合的に扱うため、部門間で共通のルールを適用する基盤としても活用できます。
アクセス権限を担当業務に合わせて設定する
ERPでは、ユーザーの役割に応じて、利用できる機能やデータへのアクセス範囲を設定できます。適切な権限管理によって、担当業務に必要な操作だけを許可する運用が可能になります。
例えば、取引先情報の登録担当者と支払処理担当者の権限を分けることで、一人の担当者に重要な操作が集中するリスクを抑えられます。
ただし、権限を分けたつもりでも、複数のロールを組み合わせることで、結果的に競合する操作が可能になる場合があります。個々の権限だけでなく、ユーザーに付与された権限全体を確認することが大切です。
承認ワークフローを整備する
ERPのワークフロー機能を活用すると、業務の承認経路をシステム上で管理できます。担当者による申請から責任者による承認までを、定められた業務手順に沿って処理しやすくなります。
例えば、購買業務で一定金額を超える発注について、部門責任者の承認を必要とするルールを設定する方法があります。
承認日時や処理履歴を記録できる仕組みを利用すれば、誰がどのような判断を行ったかを後から確認する際にも役立ちます。
ただし、ワークフローの設定方法や利用可能な機能はERP製品・導入形態によって異なります。導入時には自社の決裁規程を整理し、必要な承認条件を実現できるか確認しましょう。
業務データと操作履歴を一元管理する
ERPに業務情報を集約することで、部門間で取引データを共有し、業務状況を確認しやすくなります。販売・購買・会計などの情報が個別のシステムやExcelに分散している状態では、部門をまたぐ確認作業に手間がかかることがあります。
ERPを活用すれば、業務プロセス間のデータ連携を進め、情報の転記や二重入力を削減できる可能性があります。
また、操作履歴や承認記録を適切に保存することで、内部監査や業務改善に必要な情報を確認しやすくなります。ただし、記録できる内容や保存期間は、システムの機能と設定に依存します。
SAPで職務分掌と内部統制を管理するには
SAPのERPでも、職務分掌に基づいてユーザーの権限や業務上の役割を設計できます。特に、業務ロールとアクセス権限の適切な組み合わせは、職務分離を実現するうえで重要です。
代表的な製品として、SAP S/4HANA Cloud Public EditionやSAP S/4HANA Cloud Private Editionなどがあります。ただし、利用できる管理機能や設定方法は製品・導入形態によって異なるため、個別の確認が必要です。
SAP S/4HANA Cloud Public Editionの権限管理
SAP S/4HANA Cloud Public Editionでは、業務ロールを中心とした権限管理の仕組みが提供されています。業務ロールに業務カタログや必要な制限を関連付け、利用者が担当する業務に応じてアクセス権限を設定します。
例えば、購買業務と会計業務について、担当者が実行する機能と承認者が利用する機能を整理し、それぞれに必要な業務ロールを設計する方法が考えられます。
SAPの公式ドキュメントでも、職務に必要な権限の付与や職務分離の重要性が示されています。
ただし、標準の業務ロールを割り当てるだけで、すべての職務分離が自動的に保証されるわけではありません。自社の業務内容に合わせて、ロールの組み合わせや権限の競合を検証する必要があります。
SAP Access Controlによる権限リスクの分析
SAP Access Controlは、アクセス権限に関するリスク分析や管理を支援するソリューションです。職務分離に反する権限の組み合わせを分析し、リスクへの対応を検討する際に活用できます。
例えば、あるユーザーに付与された複数の権限が、組み合わさることで不適切な業務操作を可能にしていないかを確認する用途があります。
分析結果をもとに、不要な権限の削除やロールの変更を検討できます。また、業務上の理由で権限を分離できない場合には、代替統制を設定し、リスクを管理する考え方も示されています。
なお、SAP Access Controlの利用可否や連携構成、対象となるシステムは契約・導入環境などによって異なります。すべてのSAP ERPで標準搭載されている機能ではないため、導入時には個別に確認してください。
SAP導入時には職務分掌と権限設計を合わせて検討する
SAPを導入する際は、業務要件の整理と並行して職務分掌・権限設計を検討することが重要です。現在の担当範囲をそのままシステムに反映すると、既存の権限集中や非効率な承認ルールが残る可能性があります。
例えば、購買から支払いまでの業務フローを整理したうえで、誰が登録・変更・承認・照合を行うかを明確にします。その内容に基づいて業務ロールや承認経路を設計すると、組織のルールとシステムの操作権限を一致させやすくなります。
ERP導入は、既存業務の役割分担を見直す機会にもなります。システムの機能に業務を合わせるだけでなく、内部統制上のリスクを踏まえて権限を設計することが大切です。
職務分掌を見直す際にERP導入を検討するポイント
職務分掌を見直しても、実際のシステムや業務フローに反映されていなければ、運用が形骸化する可能性があります。ERP導入や刷新を検討する際は、業務効率化だけでなく、ガバナンスや内部統制の観点からも要件を整理しましょう。
特に、複数部門で異なるシステムを利用している企業では、部門をまたぐ業務の責任範囲や承認プロセスを確認することが重要です。
- 部署・役職ごとに必要な操作権限を設定できるか
- 申請者と承認者の分離などを実現できるか
- 取引金額などに応じた承認ルールを設定できるか
- 権限の付与・変更・削除を適切に管理できるか
- 承認や操作の履歴を必要な範囲で確認できるか
- 人事異動や組織変更に応じて権限を更新できるか
- 業務の実態に合わせて定期的な権限点検を行えるか
これらの要件を導入前に整理することで、ERPの機能と自社の内部統制上の要求にギャップがないかを確認しやすくなります。
また、権限設計だけでなく、管理者による運用や定期的な点検も含めて検討することが大切です。ERPは職務分掌の実行を支援する仕組みですが、適切なルールの策定と管理責任は企業側にあります。
職務分掌に関するよくある質問
職務分掌はすべての企業で必要ですか?
職務分掌は、企業規模を問わず業務を適切に管理するために重要です。ただし、すべての企業に同じ形式の職務分掌表の作成が法律で一律に義務付けられているわけではありません。企業規模や業務上のリスクに応じて、必要な役割分担や管理方法を整備することが大切です。
職務分掌規程と職務分掌表の違いは何ですか?
職務分掌規程は、各部署の役割や責任範囲などを定める社内ルールであり、職務分掌表はその内容を一覧形式で整理した文書です。職務分掌規程で基本方針を定め、職務分掌表で具体的な担当業務を確認できるようにすると、実務で活用しやすくなります。
職務分掌表はどのくらいの頻度で見直すべきですか?
職務分掌表の見直しに一律の頻度はありませんが、定期的な確認に加え、組織変更や人事異動、業務プロセスの変更時に見直すことが重要です。例えば、年に一度の点検を基本とし、重要な変更があれば随時更新する運用が考えられます。
少人数の会社でも職務分離はできますか?
少人数の会社でも、重要な業務を優先して職務分離を進めることは可能です。すべての業務を分離できない場合は、経営者や別部署の責任者による確認など、代替的な統制を検討します。業務量とリスクに合わせて、実行可能な仕組みを整えることが大切です。
ERPを導入すれば職務分掌を自動的に管理できますか?
ERPの導入だけで、適切な職務分掌が自動的に完成するわけではありません。企業側で担当業務や承認権限を整理し、それに基づいてシステムの権限設定やワークフローを設計する必要があります。導入後も権限の点検や変更管理を継続することが重要です。
職務分掌の明確化で業務効率と内部統制を両立しよう
職務分掌は、部署や担当者ごとの役割と責任を明確にし、組織全体の業務を円滑に進めるための重要な仕組みです。単なる業務の割り振りではなく、不正やミスの発生リスクを低減し、内部統制の実効性を高めるうえでも役立ちます。
職務分掌を整備する際は、業務の実態を把握したうえで、職務権限や承認ルールとの整合性を確認することが大切です。
- 職務分掌は部署や担当者の業務・責任範囲を明確にする仕組み
- 職務権限と組み合わせることで、判断・承認の責任も整理できる
- 重要な業務を適切に分離することで、不正やミスのリスクを軽減できる
- 職務分掌表は業務の洗い出しから作成し、定期的に見直すことが重要
- ERPの権限管理や承認ワークフローは、職務分掌の実効性を高める手段になる
まずは自社の主要な業務を洗い出し、実行担当者・承認者・責任者が明確になっているか確認しましょう。特に、購買や支払い、会計処理など、企業の資産や財務報告に関わる業務から点検すると、優先的に改善すべき課題を把握しやすくなります。
また、組織の拡大や業務の複雑化によって、従来の職務分掌や表計算ソフトによる管理に限界を感じている場合は、ERPによる業務基盤の整備も選択肢となります。アクセス権限や承認フローを業務プロセスと連携させることで、効率的な運用と内部統制の強化を両立しやすくなります。
職務分掌の見直しとあわせて、企業全体のガバナンス強化を検討している方には、ガバナンス強化とERP活用完全ガイドがおすすめです。ガバナンス・内部統制・コンプライアンスの違いや、ERPを活用した経営基盤の整備について理解を深められます。ぜひご活用ください。
AIクラウドERP導入ガイド編集部
クラウドERPや基幹システムに関する最新動向を整理し、導入を検討している企業様に向けて、選定基準やメリット、失敗しないためのポイントを分かりやすく解説しています。
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