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ガバナンス体制とは?企業価値を高める組織の作り方を3つのモデルで徹底解説

 クラウドERP導入ガイド編集部

「ガバナンスの重要性は理解したが、具体的にどのような『組織体制』を築けば、経営の健全性を保ち、企業価値を高められるのだろうか?」

多くの経営者が次に抱くこの疑問に、本記事は明確な答えを提示します。ガバナンスは、理念だけでは機能しません。それを具現化する「体制」、すなわち組織の“骨格”が不可欠です。

この記事では、ガバナンス体制の基本的な考え方から、代表的な3つの機関設計モデル、そして作った体制を形骸化させないための強化ポイントまでを体系的に解説。貴社の持続的な成長を支える、実効性のあるガバナンス体制構築の羅針盤となることを目指します。

そもそもガバナンス体制とは何か?

ガバナンス体制の定義:経営の監督と執行を分離し、健全性を担保する組織構造

ガバナンス体制とは、企業の意思決定プロセスにおいて、業務を「執行する役割」と、その執行が適切に行われているかを「監督する役割」を明確に分離・機能させるための組織的な仕組み(組織構造)そのものを指します。これは、経営者が客観的な視点を失い独善的な判断に陥るのを防ぎ、株主をはじめとするステークホルダーの利益を守るための、企業統治における根幹のフレームワークです。単に組織図を作るだけでなく、各機関が相互に牽制し合うことで、経営の透明性と公正性を確保することを目的としています。言わば、企業の健全な意思決定を支えるための「骨格」であり、この骨格がしっかりしていなければ、どれだけ優れた事業戦略も砂上の楼閣となりかねません。

なぜ「体制」の構築が不可欠なのか?―属人性の排除と仕組みによる統治

なぜ個人の能力や倫理観に頼るだけでなく、わざわざ「体制」を構築する必要があるのでしょうか。それは、企業の持続的な成長のためには、特定の優れた経営者個人の資質に依存する「属人的な経営」から脱却し、誰が経営者であっても健全な運営が維持される「仕組みによる統治」へと移行する必要があるからです。カリスマ的な創業者が率いる成長企業も、いずれは事業承継の時を迎えます。その際に、経営者の交代によって経営が大きく傾くようなことがあっては、ステークホルダーは安心して企業と関わることができません。強固なガバナンス体制は、不正行為のリスクを低減させるだけでなく、変化の激しい時代においても迅速かつ合理的な意思決定を可能にし、企業の競争力を維持・向上させるための基盤となります。
※ガバナンスの全体像や基本的な考え方については、まずこちらの記事をご覧ください。

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ガバナンス体制の代表的な機関設計【3つのモデルを比較】

会社法では、企業のガバナンス体制の型として、主に3つの機関設計モデルが定められています。それぞれにメリット・デメリットがあり、自社の規模や成長ステージに合わせて最適なモデルを選択することが重要です。

①監査役会設置会社:日本の多くの企業が採用する伝統的モデル

監査役会設置会社は、取締役会による業務執行の監督に加えて、独立した機関である「監査役」および「監査役会」がその適法性を監査する体制です。日本の多くの非上場・上場企業で採用されている、最も伝統的で馴染み深いモデルと言えるでしょう。このモデルのメリットは、比較的シンプルな構造で導入・運用がしやすい点にあります。取締役とは異なる視点から経営をチェックする監査役の存在は、経営の健全性を保つ上で重要な役割を果たします。一方で、監査役の権限は取締役の業務執行の「適法性監査」が中心となり、経営判断の妥当性にまで踏み込む「妥当性監査」には限界があるとされる点や、取締役会に対する直接的な議決権を持たないため、監督機能が間接的になりがちであるという側面も指摘されています。

②指名委員会等設置会社:監督と執行の分離を徹底した欧米型モデル

指名委員会等設置会社は、取締役会の中に「指名委員会」「監査委員会」「報酬委員会」の3つの委員会を設置することが義務付けられているモデルです。各委員会の過半数は社外取締役で構成され、経営の監督機能に特化している点が最大の特徴です。このモデルでは、取締役会は監督に専念し、実際の業務執行は取締役会から選任された「執行役」が担います。「監督と執行の明確な分離」を徹底することで、非常に透明性の高い経営が期待でき、グローバルな投資家からの評価も得やすいとされています。しかしその反面、委員会での審議や取締役会への報告など、意思決定プロセスが複雑化し、経営のスピード感が損なわれる可能性がある点がデメリットとして挙げられます。

③監査等委員会設置会社:両者の利点を両立するハイブリッドモデル

監査等委員会設置会社は、上記2つのモデルの中間的な特徴を持つ、2015年の会社法改正で導入された比較的新しい機関設計です。このモデルでは、取締役会の中に「監査等委員会」を設置し、その委員が他の取締役の業務執行を監査します。最大の特徴は、監査等委員自身が「取締役」であるため、取締役会での議決権を持っている点です。これにより、監査役会設置会社の監査役よりも強い権限で監督機能を発揮できます。監査役会設置会社よりも監督機能を強化しつつ、指名委員会等設置会社よりも組織設計の自由度が高く、迅速な意思決定を維持しやすいことから、近年採用する企業が増加傾向にあります。

自社に適した体制の選び方とは?

どの機関設計が最適かは、企業の状況によって一概には言えません。例えば、経営のスピード感を重視する成長初期のスタートアップやオーナー企業であれば、まずは「監査役会設置会社」で基盤を整えるのが現実的でしょう。一方、グローバル展開を本格化させ、海外投資家からの信頼獲得を最優先する大企業であれば、「指名委員会等設置会社」への移行が視野に入ります。そして、監督機能を強化しつつも経営の機動力を損ないたくないという企業にとっては、「監査等委員会設置会社」が有力な選択肢となります。自社の規模、業種、株主構成、そして将来目指す経営の姿を総合的に考慮して、最適な体制を選択することが肝要です。

実効性のあるガバナンス体制を構成する主要な機関

上記の機関設計モデルは、具体的にどのような機関によって構成され、それぞれがどう機能するのでしょうか。ここでは、体制を動かす上で特に重要な機関の役割を解説します。

経営の監督機関:「取締役会」の役割と機能

取締役会は、ガバナンス体制の中核をなす最高意思決定機関です。その最も重要な役割は、会社の経営に関する基本方針や中期経営計画、大規模な投資といった重要事項を決定すること、そして、代表取締役をはじめとする業務執行役の職務執行を監督することです。取締役会が単なる業務報告を受けるだけの「報告会」になってしまっては、その意味がありません。経営戦略について多角的な視点から建設的な議論を行い、事業機会とリスクを正しく評価し、経営陣に対して適切な助言や提言を行う責務を負っています。実効性のある取締役会は、活発な議論を通じて、より精度の高い経営判断を導き出すエンジンとなるのです。

独立した視点:「社外取締役」の重要性

社外取締役は、文字通り、その企業の業務執行に関与しない、社内の利害関係から独立した客観的・中立的な立場から経営を監督する重要な役割を担います。多様な業界での経験や法務・会計といった専門知識を持つ社外取締役が加わることで、取締役会の議論は活性化し、社内出身者だけでは気づきにくい視点や知見がもたらされ、経営判断の質が向上します。また、社内の論理だけでは見過ごされがちなリスクを早期に指摘したり、少数株主や一般従業員といったステークホルダーの視点を代弁したりすることで、経営の透明性と公正性を担保する上で不可欠な存在です。彼らの存在は、経営陣の独断を防ぎ、健全な緊張感を取締役会にもたらします。

業務執行の監査機関:「監査役(会)」の役割

監査役(会)は、取締役の職務執行が法令や定款に違反していないか(適法性監査)、著しく不当な点はないかを監査する、取締役会からも独立した機関です。主な職務は、企業の財産状況を調査する会計監査(計算書類のチェック)と、業務執行プロセス全般をチェックする業務監査の二つです。不正行為の防止と是正に努め、企業の健全な運営を守る重要な役割を担っています。監査役は取締役会に出席して意見を述べる権限を持ち、必要と判断した場合には、取締役の違法な行為を差し止めるよう請求することも可能です。経営陣から独立した立場で厳格な監視を行う、まさに企業の「最後の砦」とも言えるでしょう。

ガバナンス体制を「形骸化」させないための強化ポイント

立派な組織体制を構築しても、それが実際に機能しなければ意味がありません。ここでは、体制を形骸化させず、実効性を高めるための強化ポイントを解説します。

各機関の役割と責任範囲(権限)の明確化

ガバナンス体制を実効的に機能させるための第一歩は、取締役会、監査役会、各委員会といった機関が、それぞれ「何を決定する権限」を持ち、「何に対して責任を負うのか」を文書(取締役会規程、監査役会規程など)で明確に定義することです。例えば、「●億円以上の投資案件は取締役会の決議事項とする」といった具体的な基準を設けることで、現場の判断と経営の判断の線引きが明確になります。責任範囲が曖昧だと、問題が発生した際に責任の所在が不明確になったり、機関同士が互いに牽制し合うべき場面で遠慮が生まれたりと、体制がうまく機能しない原因となります。各機関の役割と権限を全役職員が正しく理解し、尊重する文化を醸成することが不可欠です。

定期的な取締役会の実効性評価の実施

取締役会が本来の監督機能を果たせているか、報告会や追認機関といった形骸化した状態に陥っていないかを自己評価し、継続的に改善に繋げるプロセスも重要です。現在、多くの企業では年に一度、全取締役を対象としたアンケートを実施するなどの方法で、取締役会の構成(多様性や専門性)、運営状況(審議時間や資料の質)、議論の質などを評価しています。この評価結果を真摯に受け止め、「議論が深まっていない」「リスクに関する議論が不足している」といった課題を特定し、次期の議題設定や運営方法に活かしていくPDCAサイクルを回すことで、取締役会は常に緊張感を保ち、その機能を向上させることができます。

内部通報(ホットライン)制度の整備と運用

現場で起きている不正やコンプライアンス違反の兆候は、通常の報告ルート(上長への報告)では、人間関係への配慮や報復を恐れる心理から、経営陣や監査部門にまで届きにくいのが実情です。そのため、従業員が不利益を被る心配なく、不正行為などを匿名で直接通報できる「内部通報制度(ホットライン)」の設置は、リスクの早期発見に極めて有効です。制度の実効性を高めるためには、通報窓口を社内の監査部門だけでなく、社外の法律事務所などにも設置し、通報者のプライバシーと匿名性を厳格に保護することが鍵となります。そして何より、通報された問題に対して経営陣が真摯に対応し、是正措置を講じる姿勢を示すことが、制度への信頼を醸成し、自浄作用の働く企業文化を育むのです。
※ガバナンス強化のより具体的な取り組みについては、こちらの記事でも詳しく解説しています。

【訴求】ガバナンス体制を”血の通った仕組み”にする経営基盤

これまで見てきたように、ガバナンス体制は企業の健全な成長に不可欠です。しかし、この精緻な組織体制も、判断の拠り所となる「情報」が不正確であったり、届くのが遅かったりすれば、正しく機能することはできません。

監督・監査機能の土台となる「信頼性の高い情報」

取締役会が適切な経営判断を下し、監査役が鋭い指摘をするためには、リアルタイムで正確な経営情報が必要不可欠です。しかし、多くの企業では、会計システム、販売管理システム、在庫管理システムなどが部署ごとにバラバラに導入されています。その結果、月次決算が締まらないと正確な業績が分からなかったり、各部署からExcelで集計されたデータの整合性が取れなかったりと、「情報の分断・遅延・不整合」が発生しがちです。これでは、ガバナンス体制が機能するための土台が揺らいでいると言わざるを得ません。実効性のある監督・監査は、信頼できる情報基盤があってこそ初めて可能になるのです。

ERPが実現する「全社最適」な情報連携と統制

この「情報の分断」という根深い課題を解決するのが、ERP(Enterprise Resource Planning)です。ERPは、企業の会計、販売、購買、在庫、生産といった基幹業務の情報を一つのデータベースで一元管理するシステムです。

ERPを導入することで、全部門が常に「同じ数字」を見て議論できるようになります。取締役は、いつでもリアルタイムで正確な経営状況をダッシュボードで確認でき、データに基づいた的確な監督が可能になります。監査役は、ドリルダウン機能で取引の詳細まで遡って確認でき、監査の深度と効率が格段に向上します。

このように、ERPは単なる業務効率化ツールではありません。それは、ガバナンス体制という組織の“骨格”に、信頼性の高い情報という“血液”を巡らせ、仕組み全体を活性化させる経営基盤そのものなのです。

まとめ

本記事では、ガバナンス体制の基本的な考え方から、具体的な機関設計、そしてそれを実効性あるものにするためのポイントまでを解説してきました。

健全なガバナンス体制の構築は、企業の不正を防ぐ守りの一手であると同時に、企業価値を高め、持続的な成長を実現するための攻めの戦略です。自社のステージに合った機関設計を選択し、取締役会や監査役といった各機関が本来の役割を果たせるよう環境を整備することが、経営層に課せられた重要な責務と言えるでしょう。

そして、忘れてはならないのが、その精緻な組織体制を機能させる土台には、信頼できる情報基盤が不可欠であるという点です。ERPのような統合システムによってもたらされる情報の透明性と一元化こそが、ガバナンス体制を形骸化させず、”血の通った仕組み”として動かす原動力となります。

まずは本記事を参考に、貴社のガバナンス体制の現状を評価し、次なる一手をご検討されてみてはいかがでしょうか。

ストーリーでわかる!ERP基礎知識と導入のポイント
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クラウドERP導入ガイド編集部
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