この記事で分かること
- GROW with SAPの概要
- GROW with SAPとRISE with SAPの違い
- GROW with SAPを構成する要素や特徴
- GROW with SAPで利用できる主な機能
GROW with SAPとは、「SAP S/4HANA Cloud Public Edition」や「SAP Business Technology Platform(BTP)」などを組み合わせた中堅・中小企業向けのソリューションです。GROW with SAPを導入することで、業界のベストプラクティスを反映したクラウドERPを迅速に導入でき、財務や製造、販売などさまざまな業務の効率化につながります。本記事では、GROW with SAPの概要や機能、導入事例について解説します。
GROW with SAPとは
GROW with SAPとは、SAPのクラウドERPである「SAP S/4HANA Cloud Public Edition」をベースに、導入加速化サービスやコミュニティ、学習機能などを加えたサービスです。主に、中堅・中小企業のニーズに合わせたパッケージとなっています。
クラウド型をベースにしているため、初期投資をおさえながら、比較的スムーズに導入しやすい点が特徴です。また、クラウド活用により、アップデートやシステム運用の負担を軽減しやすいサービスになります。
GROW with SAPとRISE with SAPの違い
RISE with SAPとは、オンプレミス環境のSAP ERPシステムの刷新や業務プロセスの変革などを支援するサービスです。どちらもクラウドERPの導入を支援しますが、主に以下の点で違いがあります。
| GROW with SAP | RISE with SAP | |
|---|---|---|
| コアとなるソリューション | SAP S/4HANA Cloud Public Edition (SaaS 型クラウド ERP) | SAP S/4HANA Cloud Private Edition (組織固有の変革に合わせてカスタマイズできるクラウド ERP) |
| 導入方式 | グリーンフィールド方式 (新規でS/4HANA環境を構築し、旧システムから必要なデータを移行 ) |
グリーンフィールド方式または ブラウンフィールド方式(旧環境の設定内容やデータを新環境へそのまま移行) |
| 企業規模 | 新しくSAP ERPを導入する中堅・中小企業 | 高度な財務管理機能やABAPによるClassic拡張を必要とする企業 |
GROW with SAPを構成する要素
GROW with SAPは、大きく分けて3つの要素で構成されています。ここでは、それぞれがどのようなものなのかについて解説するのでチェックしておきましょう。
SAP S/4HANA Cloud Public Edition
SAP S/4HANA Cloud Public Editionは、SAPが提供するクラウド型ERPです。最新の業種別ベストプラクティスを反映しており、事前に設定されたプロセスを適用することですぐに利用開始できます。
業務全体をカバーするシステムであり、財務、調達、製造、販売などの機能を備えています。また、ガイド付きの導入プロセスや直感的なインターフェースにより、SAPの操作に不慣れな担当者でも使用しやすい点が特徴です。
SAP Business Technology Platform(BTP)
アプリケーション開発やデータ分析を行うためのプラットフォームです。ローコード/ノーコードソリューションによって、プログラミングの負担を抑えながら自動化プロセスの開発・拡張を行えます。
生成AIコパイロットを活用し、人間と会話するような感覚でSAPアプリケーションへの指示を行うことも可能です。SAPの統合機能によって、さまざまなAPIやコネクターを活用したり、外部のクラウドシステムにアクセスしたりできます。
SAP Activate
クラウドERPを効率的に導入するための方法論やツールをまとめたフレームワークです。テンプレートを使用することで、設定やシステム移行に必要な時間を短縮できます。
ポイントは、豊富なカスタマーサンプルデータを使用できる点です。自社に合ったベストプラクティスを見つけやすくなり、明確なイメージを持ちながら導入を推進しやすくなります。
GROW with SAPの特徴
GROW with SAPには、SAPのベストプラクティスの活用や、クラウドサービスならではの継続的なアップデートなど、さまざまな特徴があります。ここでは、GROW with SAPの主な特徴を紹介します。
SAPのベストプラクティスを活用して業務を標準化できる
GROW with SAPでは、SAPが提供するベストプラクティスを活用し、業務の標準化を図れます。
SAPのベストプラクティスとは、SAPが蓄積してきたデータをもとに整備した、標準的な業務プロセスや設定のことです。会計や販売、調達など、さまざまな領域に対応した標準プロセスが用意されています。
また、GROW with SAPでは「Fit to Standard」の考え方が基本です。システムの機能に自社の業務を合わせることで、業務の標準化を進められます。
短期間での導入を目指せる
GROW with SAPは短期間での導入を目指せることも特徴です。あらかじめ用意された標準プロセスを活用できるため、システムを自社で構築する場合と比べて導入を進めやすくなります。
また、クラウド型のERPなので、自社内でサーバーなどを整備するよりも短期間での導入が可能です。個別の開発や設定を必要最小限に抑えることで、比較的短期間での導入を進めやすい点も特徴でしょう。
継続的にアップデートできる
クラウド型のサービスのため、継続的にアップデートできる点も特徴です。定期的なアップデートにより、最新機能や技術を使いやすくなります。
オンプレミス型の場合、新しいバージョン移行に時間がかかるケースもあります。また、アップデートを行う人員を自社で用意しなければなりません。
一方で、クラウド型の場合はサービス側で管理やアップデートを行ってもらえます。システム運用の負担を抑えつつ、最新機能を使いやすい点も特徴です。
AIやリアルタイム分析を業務に活用できる
GROW with SAPでは、AIやリアルタイムのデータ分析を日々の業務に活用できます。データを活用して自社の状況を分析したり、意思決定に使ったりと役立てられるでしょう。
GROW with SAPは生成AIアシスタント「Joule」をはじめ、各ソリューションにAI機能が組み込まれています各ソリューションにAI機能が組み込まれています。AIをうまく活用することで、業務の効率化や高度化につなげられるでしょう。
GROW with SAPの主な機能
続いて、GROW with SAPの主な機能について解説します。
財務
GROW with SAPには、次のような財務に関する機能があります。
| 機能例 | 概要 |
|---|---|
| 財務計画 | 予測シミュレーションなどにより、全社レベルで財務計画の作成や実行、監視を行える |
| 財務管理 | 財務データのドリルダウン検索や分析レポートの利用が可能 |
| ソースの統合 | 財務データと処理プロセスのソースを統合することで、複数の会計原則や元帳評価に対応可能 |
| 財務取引の記録 | 財務データの転記や割当、状況処理を自動化でき、財務処理を効率的に行える |
| グループ決算の統合 | グループ決算をリアルタイムにまとめて可視化でき、グループ全体での決算業務の効率化やガバナンス強化につながる |
| 未収金管理 | 未処理債権などを管理し、不良債権の削減を図れる |
| コンプライアンス状況の監視 | 各拠点のコンプライアンス違反や事業リスクなどをリアルタイムに確認できる |
| 伝票検証 | 伝票を自動登録や修正、整合性の検証を行える |
| 資金管理 | 銀行口座のライフサイクルを一元管理し、資金の運用状況を監視できる |
| 支払いの統合 | ワークフローの自動化とセキュアな銀行通信によって、社内および社外の支払を統合できる |
製造
GROW with SAPには、次のような製造に関する機能があります。
| 機能例 | 概要 |
|---|---|
| 需要予測 | 供給能力や生産能力の制約を踏まえた需要予測のシミュレーション |
| 生産稼働率の最適化 | 各作業の生産能力を監視して指図の優先順位付けを行うことで、生産リソースの稼働を最大化する |
| 資材の自動発注 | 生産計画に基づき資材を自動発注し、オンタイムで利用可能 |
| 製造プロセス管理 | かんばん方式やジャストインタイム方式などのさまざまな製造プロセスを適用できる |
調達・購買
GROW with SAPには、次のような調達・購買に関する機能があります。
| 機能例 | 概要 |
|---|---|
| 効率的な承認機能 | 自動リマインダーや自動通知などにより、購買発注の承認を効率的かつ確実に行える |
| 支出管理 | 生産予測に基づき柔軟に価格を調整することで、最適な価格設定を行える |
| サプライヤーのリアルタイム評価 | 調査ツールによってサプライヤーを迅速に分類、評価、算定できる |
| 請求書管理 | AI・機械学習を活用することで請求書管理を自動化し、従業員の手間や作業時間を削減できる |
販売
GROW with SAPには、次のような販売に関する機能があります。
| 機能例 | 概要 |
|---|---|
| 受注管理 | AIを活用した効率的な受注管理やリアルタイムでの在庫状況などの確認を行える |
| 請求処理の自動化 | 請求伝票の登録や管理、出力などのプロセスを自動化できる |
| 返品管理 | 迅速な返品プロセス処理やサプライヤーへの転送機能により、顧客クレームに柔軟に対応できる |
| 価格管理 | 複合的な価格モデルの設定や価格のリアルタイム更新によって利益率の確保につながる |
| 販売リベート管理 | 顧客ごとのリベート契約の登録や決済伝票の生成、債権・債務金額の登録を行える |
| 販売分析 | 販売実績KPIの可視化や将来的な販売傾向の予測を行える |
中堅市場にも拡大しているSAP
SAPは大企業向けのイメージを持たれている方も多いですが、近年ではSAP S/4HANA Cloud Public Editionを中心に、中堅市場でも導入が進んでいます。中堅市場でも導入が進んでいる主な理由には、中堅中小企業向けオファリングである「GROW with SAP」を、短期間かつ定額で導入するパートナー・パッケージ・プログラムが開始されたことが挙げられます。
また、導入範囲の明確化によって、プロジェクト開始後の追加費用を抑えられるため、低リスクでクラウドERPを導入できるようになり、中堅中小企業でも取り入れやすくなったのです。ここからは、中堅中小企業の具体的な導入事例を3つ紹介します。
赤城乳業株式会社
「ガリガリ君」など多くの冷菓を製造・販売している赤城乳業株式会社は、PSI(生産・販売・在庫)の可視化に向けて 2014年よりSAP ERPを導入しています。しかし、度重なるアドオン開発やバージョンアップ対応が大きな負担となっていました。
また、現場主体で情報抽出ができる環境整備によりデータ活用を加速させ、業界標準を見据えたBPRの推進を進めたいと考えていました。そこで同社は、オンプレミス環境で利用していたSAP ERPからSAP S/4HANA Cloudへの移行を決断。
販売や会計など基幹業務はFit to Standardで実装しながら、差別化領域となる固有業務は、ノーコード・ローコードツールを駆使しながら仕組みを実装できる点を評価しました。
クラウド移行の結果、運用コストの削減やシステム連携の強化、データ活用の促進を実現する新たな基盤を整備することができました。また、SAP Signavioを用いた業務プロセスの可視化とプロセスマイニングにより、エンド・ツー・エンドでの業務透明性を高め、継続的な改善を推進できるようにもなった事例です。
株式会社エイト日本技術開発
総合建設コンサルタントとして、地域のインフラ課題の解決に取り組む株式会社エイト日本技術開発は、2030年までに「次世代創造企業」への変革を目指し、ESG経営や新分野への進化、バリューチェーンの一元化を掲げてDXを推進しています。
既存システムはオンプレミス環境での個別最適化が進み、多重入力や紙依存など非効率な業務プロセスが課題となっていました。そのため、DXプロジェクトを通じて業務プロセスを効率化し、作業から思考主体の働き方への変革を図る必要性が高まっていたのです。
そこで同社は、新システムの中核として、SAP S/4HANA Cloud Public Edition の導入を決断。建設コンサルタント業界での豊富な導入実績、事業に対応可能な管理会計・財務会計が融合していること、事業の国際化に欠かせないグローバルへの対応力が決め手となりました。
また、BIツールとしてSAP Analytics Cloud、人事管理にはSAP SuccessFactors、従業員エクスペリエンス管理にはEmployee Experience Management solutions from SAP and Qualtrics、経費精算管理にはSAP Concurなど周辺領域にもSAPのソリューションを採用。
導入によって、リアルタイム経営の実現や全体システムと統合された人材管理の向上が期待されています。同社は今後、標準工程を基盤とした効率的な人材育成や、スキルの在庫管理に基づく迅速な応札判断の実現を目指しています。
第一稀元素化学工業株式会社
第一稀元素化学工業は、多種多様な工業品に使われるレアアース化合物「高機能ジルコニウム」の生産・販売において、世界でもトップクラスの実績を誇る企業です。同社は、全社の経営課題であるDXの実現を見据え、グローバルビジネスのさらなる加速に向けて個別に運用してきた、海外の販売拠点のシステム統合を課題としていました。
もともとはオンプレミス型のECC6.0の継続運用を検討していましたが、導入期間などを踏まえ、グローバル拠点へのスピーディな展開が可能なSAP S/4HANA Cloudの導入を決断。導入パートナーと実施したPoCにおいて、期待以上の成果が出た点も大きな決め手となりました。
導入後は、サーバーなどの運用負荷が軽減され、情報システム部門がより創造的な業務に注力できるようになりました。また、四半期毎にアップデートされるSAP S/4HANACloudの最新機能をいち早く活用できるようになり、ビジネス環境変化への対応力向上にもつながっています。
まとめ
GROW with SAPは、SAPのクラウドERP「SAP S/4HANA Cloud Public Edition」をベースに、導入加速化サービスや学習機能などを備えた包括的ソリューションです。中堅・中小企業向けのソリューションであり、最新の業種別ベストプラクティスを反映したクラウドERPをスムーズに利用できます。
また、ローコード/ノーコードソリューションによって、プログラミングのスキルに依存せず、アプリケーションや自動化プロセスの開発・拡張を行えます。GROW with SAPを活用し、クラウドERPを導入することも検討してみてください。
AIクラウドERP導入ガイド編集部
クラウドERPや基幹システムに関する最新動向を整理し、導入を検討している企業様に向けて、選定基準やメリット、失敗しないためのポイントを分かりやすく解説しています。
複雑なIT用語を排し、現場視点でDX推進を支援する実践的な情報発信を目指しています。


